【医者が教える】高齢者の在宅医療‐初めての訪問医療と費用のこと

訪問診療のルールや費用、病院との連携、必要な準備などは?

在宅医療を導入したときに出てくる疑問や質問は、遠慮なく医師や看護師に尋ねてください。

初めての在宅医療(訪問診療)の場面を通して

 このシリーズでは、在宅医療について詳しく知っていただくために、毎回具体的な事例(ケース)を紹介しながら解説しています。第1回目は、ご家族が患者さん本人の希望を適えようと、不安を抱えながらも「在宅医療」を選択したケースを紹介しました(「Dr.MUTOの在宅医療講座 1」)。今回は、同じケースの初めての在宅医療(訪問診療)の場面を通して、在宅医療の実際について見ていきます。なお、ケースの登場人物の名前は仮名であり、個人が特定される内容は変更しています。

初めて訪問診療を受けるミツエさん(76歳)のケース

 その日、律子(48)は仕事を早退し、自宅にいた。今日は、母ミツエ(76)の訪問診療医が初めて自宅に来る日だ。約束の14時には、ケアマネジャーの中山も同席することになっている。
 先週、医師が来る日程が決定し、昨日夕方、在宅医療専門診療所から連絡が入った。「祐ホームクリニックの看護師の高橋と申します」。医療機関のほうから電話があるのは初めてである。律子の緊張感を気遣ってか、高橋は優しい口調で語りかける。「このたびミツエさんへの訪問診療についてご相談をいただきました。これからどうぞよろしくお願いいたします」。律子は少しほっとした。

 信頼する中山のすすめで訪問診療の導入を決断したものの、正直、どのようなものかわかっていない。質問しようにも、誰に、何を聞けばいいのかもわからず、何もしないまま今日まで来ていた。高橋は言う。「初めてのことですので、ご家族にはご不安も多いことと思います。詳しくは明日お伺いした折に、お目にかかってご説明いたしますね」。まずは説明を受けなくては……。

 「本日のお電話では、ミツエさんの現在の様子をあらかじめ伺いたいと思っています」。高橋は、「中山からも聞いている」と言い、ミツエの病名や介護状態について確認した。「そのほかに、ミツエさんの最近の体調や訴えておられること、お困りのことはありますか?」。律子は、ミツエが最近食事の量が減っていること、そのせいかあまり元気がなく、外に出ることはおろか室内での動きも少なくなっていること、それによってめっきり足腰が弱っていることを伝えた。また、最近しばしば発熱していたこと、下痢や便秘症状があることも伝えた。そしてミツエの要望として大事なことも伝える。「ミツエは、病院よりも自宅にいたいと言っています」。

 「よくわかりました。本日伺いきれなかったことは、明日医師も含めて聞かせていただきますね」との高橋の声に、律子は安堵感を覚える。「ありがとうございます。あの、明日来ていただくときに、何か用意しておくことはありますか?」。「はい、診療に関するものは、当院ですべて準備して参りますので、大丈夫です。ただ、事務手続きでいくつか用意していただきたいものがあります」。高橋は医療保険証や介護保険証、かかっている病院の診察券、支払に必要な銀行口座と印鑑等、事務手続きに必要なものを次々と挙げていく。律子はメモを取りながら「どれもすぐに用意できるわ。大丈夫」と徐々に平静さを取り戻していった。一通りの確認の後、「それでは明日、14時に医師と看護師がお伺いしますね」といって、高橋の電話は切れた。

●医師と看護師が初めて自宅を訪れる
 そして当日、祐ホームクリニックの武藤医師と高橋看護師が自宅に来た。「はじめまして。武藤と申します。どうぞよろしくお願いします」。武藤は、律子にもミツエにも、にこやかにきちんと挨拶をする。
 「ではまず、訪問診療についてご説明をさせていただきますね」。高橋が資料を取り出し説明を始めた。訪問診療とは、患者の住まいに医師が定期的に訪問して行う「計画的・継続的」な診療であり、原則として月に2回以上、あらかじめ計画した日時に医師が自宅を訪れ、診療や検査、薬の処方などを行うこと、しかし緊急時には24時間365日対応することができること、また自宅でも色々な検査はできるが、大型の医療機器が必要な検査は連携する病院で受診することなどを聞いた。

 「これまでかかっていた病院の先生はどうなりますか? ずっと診てもらっているのですが……」。ミツエは慢性心不全で、長いこと大学病院の循環器内科にかかっていた。武藤はにっこりとして言った「これまでの先生にも、引き続いて診ていただくほうが安心ですよね。日常の診療は私たちのほうで対応し、主疾患の心不全だけはこれまでの先生に診てもらってはいかがでしょうか。これまで月2回だった通院は、1~2カ月に1回程度に減らしてもいいかもしれませんね。私も循環器内科医ですので、もちろんすべてお任せしていただいても大丈夫です。しばらくお付き合いし『すべて任せてもいいな』と思われたときには、そうすることも考えましょうか」。
 「病院では、心電図を取ってもらっていましたし、過去の診療記録などもありますが……」。「私たちの診療でも、心電図を取ることはできますよ。また、診療情報は、既に大学病院から頂いています。ミツエさんの過去の経過について、データも含めて把握しています。ご安心ください」。律子は安堵した。ミツエは大学病院の先生を信頼しているものの、出かけて行って長く待つのが体に負担になっていた。律子自身も通院時は仕事を休んで付き添っていた。これからはそんなことも減る。一つ、家族の悩みが減ったように感じる。

 律子にはもう一つ心配なことがあった。費用のことだ。医師が自分たちのために自宅に来る、さぞ高額な費用がかかるのではないか。お金のことを言い出しにくく躊躇していると、看護師の高橋が言った。「ご不安なことがあればいつでも遠慮なく、クリニックに電話してくださいね。では次に、大切な費用のことについてお伝えします」。まさに聞きたかったことだ。
 訪問診療の料金は、大きく2つ「医師の訪問1回当たりの費用」と24時間の総合的な「医学管理費用」に分けられる。それに、介護サービスへの助言費用や検査、処置等が加算されることになる。
 自己負担割合1割のミツエを月2回診療し介護サービスへの助言を行った場合の支払額を計算すると6,440円とのこと、律子が思っていたよりもずっと安価であるが、そのほかの「加算」というのが気になる。「電話で相談を受けた場合は70円ほど、また休日の夜間に緊急訪問診療をした場合では2,270円~3,500円ほどかかります。しかし、訪問診療には医療費負担の上限が定められています。どんなに手厚い診療をお受けいただいても12,000円以上は負担いただくことはありません」。それなら問題なく負担できる。「わかりました」と律子はうなずいた。

 「それでは、ミツエさんのお体を診させていただきますね」武藤は、律子が安心した表情になるのを見て、リビングからミツエの部屋へ向かった。「ミツエさん、それではお体を診させていただきますね」。武藤と高橋は、テキパキと血圧、体温、脈拍、酸素飽和度の測定を行う。続いて、採血検査、心電図検査、そして武藤は、ミツエの体の様子をくまなく診ている。皮膚状態、浮腫状態、褥瘡(じょくそう)の有無を診ているようだ。
 高橋は、ミツエに生活の様子を質問していく。後で律子が聞くと、ミツエの生活の状態を把握するために「6つの視点」を把握するようにしているとのこと。6つの視点とは「食事」「排泄」「睡眠」「移動」「清潔」「喜び」。ミツエのカルテには「食事:包丁を使え、一日3食経口摂取」「排泄:自力でトイレ可能」「睡眠:ソナラックス0.4mgで良好に睡眠」「移動:室内つたい歩行」「清潔:自力で入浴・シャワー」「喜び:テレビ観賞」と書かれていた。

 診察の合間に、高橋は律子を相手に保険や薬の確認、医療費支払いの説明など、次々と細かな事務手続きを進めた。「今日の初診は以上で終了です。次の診察はミツエさんの検査結果の報告を含めて、2週間後の○日に参りますね。その間に何かありましたら、どうぞご連絡ください。それではミツエさん、律子さん、失礼します」。
 気がつけば15時を回っていた。病院ではこんなに長い時間を診察に費やすことはない。軽い疲労感とともに「訪問診療をお願いしてよかった……」という想いが、律子の胸に広がっていた。

訪問診療導入時には、訪問ルールや費用などについてしっかり説明する

 訪問診療を導入するとき、ほとんどの方が初めての経験になります。制度としてまだ十分に認知されていないこともあり、導入の際にはご家族にしっかりと説明することにしています。
 まず重要なことは、「訪問ルール」です。「少なくとも月2回定期的に訪問する」「緊急時には24時間365日対応する」ことをお伝えします。患者さんの状況に応じて「検査はできる?」「薬は出せる?」「元々の主治医との関係は?」「入院したいときにはどうすればいい?」とさまざまなご質問がおありのことと思います。また、費用については大きな関心事です。ケースでは「6,440円」という基本的な料金についてご紹介しました。詳しくは、以下参照ください。

●訪問診療にかかる基本的な料金
*( )内は、1割負担の方に、月2回訪問した場合の1カ月の費用例
<医療保険によるもの>
・医師の訪問ごとの費用……1回あたり 830円(×2回=1,660円)
・総合的な医学管理料……1月あたり4,200円(×1月=4,200円)
<介護保険によるもの>
・介護サービスへの助言等費用……1回あたり290円(×2回=580円)
(合計 6,440円)

 そのほかにも、色々なご不安や疑問がおありのことと思います。そのような場合の相談窓口として代表的なものを以下に紹介します。十分に相談の上、ご本人、ご家族にとって最適な選択肢を選んでいただきたいと思います。
 なお、介護サービスを利用されている方であれば、ケアマネジャーや訪問看護師に相談することも大変有益です。

【在宅療養支援診療所】
 24時間体制で対応する体制をとっている診療所。在宅医療の主たる役割を果たす
【地域包括支援センター】
 高齢者の生活を支援する総合窓口。介護・福祉・健康・医療など、さまざまな分野の支援を行う
【病院の医療相談室】
 「在宅医療、在宅介護について知りたい」、「退院後の生活が心配」など、退院後の生活への不安について、医療相談員が、医師や看護師、福祉事務所などとの連携の上、アドバイスを行う

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
武藤 真祐先生


医療法人鉄祐会祐ホームクリニック 理事長
一般社団法人高齢先進国モデル構想会議 理事長
1996年東京大学医学部卒業。2002年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。早稲田大学大学院ファイナンス研究科専門職学位課程修了(MBA)。東京大学医学部附属病院、三井記念病院にて循環器内科、救急医療に従事。診療所にて在宅医療にも従事する。 2004年より2年半、宮内庁で侍医を務めたのち、マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務。その後、医師として社会に貢献したいと在宅医療専門クリニック「祐ホームクリニック」を開設、現在に至る。医学博士、日本内科学会認定内科医、日本循環器学会循環器専門医、米国医師資格試験合格、米国公認会計士、MBA。NPO法人ヘルスケアリーダーシップ研究会理事長。

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