仕事と介護を両立させるには-まずは情報集めと支援制度から

介護を支える人への支援が求められています

まずは専門家や相談機関に相談。サービス活用や家族の役割を整理しながらケアプランを描くことが大切

多くの人に伝えたい「災害時の心のケアと支援者の対応」

 東日本大震災から100日が経過した先日、災害ボランティアとして石巻市の福祉避難所に行ってきました。活動を終えて戻ってきた今、一人でも多くの方に伝えたいことは、災害時の心のケアと支援者の対応について。
 ストレス反応を軽減する方法として最も良い方法は、“話を聴く”ことです。無理に聴き出すことなく、安易な励ましや助言は避け、気持ちを聴き、感情をそのまま受け止めます。ストレスを抱える人は気持ちを抑え込んでしまいがちで、何を本当に必要としているのか本人にもわからなくなっています。話を聴き、静かに寄り添うことで、心の声が聴こえてきます。また、握手や肩もみ、マッサージなど、肌の温もりは恐怖や悲しみを和らげる効果があります。私は、樹木のよい香りを使ったアロマテラピーハンドマッサージを行いながら話を聴き、一人ひとり体験も思いも異なることを教えていただきました。
 今回の震災では、被災地以外の地域でもストレスを抱えてしまった人がたくさんいますね。介護を必要とする人も含めて、身近にもそんな人がいたら、静かに話を聴いてあげてください。心が折れてしまわないように、応援したい心が届くように、願いを込めて。

 さて、はじめて家族に介護が必要になった人たちへ向けたこのシリーズも今回で10回目。今回は、仕事と介護を両立させるために、どんな工夫が求められるのか考えてみましょう。

介護による離職・転職者が増えている

 少子高齢化の加速や家族形態の変化により、多くの労働者が親の介護に直面する時代となった日本。特に働き盛りの世代が、介護の問題や心配を抱えています。
 総務省の調査によれば、家族の介護や看護のために1年間に離職、転職した人の数は、2006年10月から2007年9月までの1年間で14万4800人。2003年より一貫して増え続けていますが、特に2006年からは急激に増加しています。2006~2007年の離職者の内、40~50歳代の占める割合が男性では4割、女性では6割に達しており、働き盛りの世代にも家族の介護が大きく影響していることがわかります。男女比では、離職者数全体の82.3%が女性。働く女性は出産、育児、介護とライフステージの変化に伴い、段階的に大きな負担を抱える問題に直面しています。

働く人の介護の形はさまざま。いろいろな選択肢があります

 介護の負担は、要介護になった原因や状態、家族の暮らしの形、介護者の状況などで大きく異なります。同居介護ではいつでも介護しやすい安心感がありますが、介護疲れやストレスなどが慢性化しやすい問題もあります。また、介護保険制度の改正で、同居する家族がいる場合にホームヘルパーによる生活援助サービスが受けられないといった状況も出てきています。

 離れて暮らす親世代に介護が必要となると、選択肢としてまず浮かぶのが、退職してUターン、呼び寄せて同居、などではないでしょうか。しかし、どちらもさまざまな事情で難しいのが現状でしょう。同居はせず通いながら介護する場合、県外などに通う遠距離介護では、家族だけでは支える力が不足します。日常的な介護はサービスを上手に導入し、地元のケアマネジャーなどと連絡を密にとり、介護体制を整えるとともに、親との心の距離を近くするコミュニケーションを工夫することも大切です(『遠距離介護のコツ』 参照)。高齢者住宅や施設介護も、選択肢に挙げられます。

●自分の介護のスタイルは?
 同居介護/近居介護/遠距離介護/施設サービス活用介護
●どんな介護が必要?
 身体的な介護/認知症の症状への介護/心理面でのサポート重視介護/備える予防介護 など

まず必要なのは正確な情報と知識、親と子双方の意思

 突然親の介護が必要となったとき、まず必要なのは介護の手よりも情報と知識、そして、親と子双方の意思です。慌てて重要な決断を下してしまいがちですが、その前に、専門家に相談し、必要な情報や知識を得るようにしましょう。相談することで、ケアを中心とした全体的なライフプランを描くことができます。また、注意していただきたいことは、介護は“お世話をすること”ではなく、自立のためのサポートだということ。親、自分それぞれがどんな暮らしを望むのか、それぞれが継続していきたいことのプランを立てましょう。
 介護のある暮らしには、一時的ではなく継続して資金が必要ですし、自分自身の生活は介護が終わっても続いていきます。ライフプランを描きながらサービスの活用、家族の役割を整理すると、介護の形が見え、仕事とのバランスも考慮しながらケアプランを立てることができます。介護のある暮らしを、社会全体で支える意識が求められています。

<介護者を支援する機関>
 介護保険制度やその他のサービスにより、介護が必要な高齢者に提供されるサービスにはさまざまなものがありますが、介護を行う“支える人”への支援は、残念ながら現在も乏しい状態にあります。そんな中、介護者のために介護者同士の情報交換の場を設けたり、介護教室を開いている心強い機関がありますのでご紹介しましょう。

●NPO法人 介護者サポートネットワークセンター・アラジンhttp://www12.ocn.ne.jp/~arajin/):孤立しがちな介護者を社会につなぐ仕組みづくりをミッションとして活動する。2010年には市民団体によるケアラー連盟が発足、介護者の実態調査を行いながら「介護者支援法」の制定を目指している。
●株式会社wiwiw(ウィウィ)https://www.wiwiw.com/):仕事と介護の両立を支援するためのセミナーや相談などさまざまなワーク・ライフ・バランス支援事業を行う。

<介護のための両立支援制度>
 「育児・介護休業法」をご存知ですか? 育児または介護を行う労働者が家庭生活と仕事を両立できるよう支援する制度で、各企業においてより広い内容の制度とすることが求められています。自分の勤めている職場の介護支援の制度を知っておくと、いざという時に慌てることなく対策を立てられます。

●「育児・介護休業法」の介護支援のための事項
 介護休業 介護のために仕事を休むことができる
 介護のための短時間勤務制度等の措置 短時間勤務が可能
 介護休暇 介護の必要がある日に休むことができる
 法定時間外労働の制限 残業時間に一定の制限を設ける制度
 転勤の配慮 従業員の転勤に一定の配慮を求めることができる
 不利益取り扱いの禁止 制度を利用した従業員への不利益な取り扱いを禁じる制度
 (厚生労働省『改正育児・介護休業法のあらまし』 参照)

事例紹介 介護と仕事を両立しているTさんのケース

介護者:Tさん54歳、次男。企業で技術職として働きながら遠距離での介護を続ける
:Yさん86歳。要介護4、歩行障害、特別養護老人ホーム入所
:Sさん80歳。要介護1、認知症グループホーム入所中

 Tさんは都内で家族と生活。親世代は地方で暮らしています。両親ともに介護が必要となり、在宅サービスの活用を経て施設サービスへ移行、試行錯誤しながらも現在遠距離介護と仕事のバランスをとって両立させています。そんなTさんに、仕事と介護の両立に必要なものは何か質問しました。

仕事と介護の両立に必要なものは?
●介護に入る前段階の支援時期からの準備(地域の資源などの情報収集や制度の理解)
●信頼できる専門介護相談機関 職場や親の地域の相談機関(地域包括支援センター・施設相談員など)
●親を介護してくれるサービス(施設サービススタッフには感謝。定期的に訪問し挨拶している)
●介護を支える資金(施設入所費用月額約30万円以外に、介護帰省費用が年間70万円にも及ぶ。年金では不足するため、両親の家をリフォームし、賃貸にして資金にしている)
●遠距離にいても気持ちが近くにある家族の存在(自分と兄家族がそれぞれ新幹線で郷里を定期的に来訪し、心を伝えている)

 実際、働きながら介護を行うのは至難の業、気力体力ともに必要です。人それぞれの介護があり、型にはめることもできません。将来に備えて地域の介護サービス、施設などの資源、状況を調べておくことで、それぞれの役割が見え、住まい、お金、心の準備ができます。自分なりのバランスをとりながら、仕事も家族の介護も大切にしていただきたいと思います。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
川上 由里子先生


介護コンサルタント
ケアマネジャー、看護師、福祉住環境コーディネーター2級、産業カウンセラー。1984年より13年、大学病院、高齢者住宅(聖路加レジデンス)などで看護師として勤め、現在は三井不動産(株)ケアデザインプラザなどで、シニアライフ提案のコンサルティングや講演を行う。著書に『介護生活これで安心』(小学館)。08年5月より、ニッポン放送「ラジオケア・ノート」(奇数月第4週の月~金)にレギュラー出演中。08年春より自身も父親の遠距離介護を体験中。

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