【医者が教える】高齢者の在宅医療‐被災地で必要な介護とは

東北の復興を願い、石巻に在宅医療診療所を開設

高齢者の孤立を防ぎ、生活を支援するには、その地域で自立して継続していける在宅医療の仕組みが必要

医療支援の引き上げが始まる中、医療・介護の必要度は増している

 3月11日の大震災に対して、日本中、世界中がその不幸を悼み、そして今後の被災地の復旧、復興を願い、応援しています。私も、その一人です。

 私が初めて被災地、石巻市を訪れたのは、4月下旬のことでした。避難所では、物資や人的援助はおおむね充足している状態と見受けましたが、その直後から、被災地への一時的医療支援は引き上げが始まることになっていました。ゴールデンウィークを一つの契機とし、災害対策救助法適用による医療提供から、保険診療へと切り替わる7月には、多くの医療支援の引き上げが予想されていました。
 そのとき、地域による医療復興が求められますが、元々医療過疎地であった東北地域において、多くの医療施設も被害を受けている中、大変困難な状況だと感じました。

 加えて、避難所での高齢者の多くは、ADL(日常生活動作)や認知機能の低下が見受けられ、医療・介護の必要度が増していました。避難所ならばそのような方々にも目が届きますが、仮設住宅では覆い隠されてしまいます。体育館型避難所では、寒さの厳しい東北の冬を越すことは到底できず、秋には閉鎖が予想される中、これらの高齢者の方々が仮設住宅に移られた後の自立生活を想像すると、それは決して明るいものとは言えず、むしろ悲劇的な状況が予想されました。
 従来の地縁で育まれた「支え合いのコミュニティ」が崩壊した後、何も手を打たなければ、あっという間に高齢者は社会的に孤立してしまいます。「なんとかしなくてはならない」私は強く思いました。

被災地では、在宅医療が必要とされている。それも待ったなしの状況で

 私が東京都文京区で取り組んでいる在宅医療は、一戸一戸に目が届き、高齢者の孤立を防ぎ、生活を支援する方策の有力な柱になりえます。「生活支援」ですので、外部からの一時的な支援ではなく、その地域で自立し継続していける仕組みとすることが必要です。
 そこで私は、石巻の地での継続的な在宅医療診療所の開設に、尽力することを決意しました。6月のことです。

 当初は「被災された診療所の先生による在宅診療所の設立」を念頭に、準備を始めました。私は1カ月の間、被災された開業医の先生方に、私の計画を伝えぜひご一緒に地域の医療復興、患者さんの生活支援に取り組みたいと熱意を持って伝えてまいりました。しかし、震災から100日余り経過した後の先生方の心を、奮い立たせることはできませんでした。先生方の多くは、深い絶望から、石巻から去っていきました。
 そうはいっても今、地元には在宅医療が必要とされていることは、明白です。それも、待ったなしの状況です。諦めるわけにはいきません。

 私は迷いました。残された道は、自分が石巻に行くことです。私は悩みました。文京区にも24時間の対応が必要な多くの患者さんがいます。遠く離れた石巻市と東京を行き来するには大変な体力も必要です。到底一人ではできません。
 そのとき、私が大変信頼している医師が、文京区の診療所を担うと言ってくれました。また、文京区診療所の事務長は、石巻市に転居し、立ち上げと運営を担うと申し出てくれました。そして、文京区スタッフ皆が私の不在の間、診療を支えていくと言ってくれました。このような仲間たちの思いが、私の心を奮い立たせました。私は、自らが院長として石巻の診療所を立ち上げることを決めました。

 それから約2カ月。9月1日に、無事に診療所は開設しました。通常半年から1年かかると言われる診療所の開設が、こんな短期間でできたことは、数々の奇跡の連続と、多くの方々の熱意ある支援のおかげと、心から感謝しています。
 当初のスタッフ数は9名。医師以外はすべて地元の方々を雇用させていただきました。皆慣れない在宅医療に不安や戸惑いがありましたが、今では、皆で新しい診療所を創っていくという強い気持ちも生まれてきましたし、何より患者さんを前にし「この方々を支えたい」という思いが、少々の困難を乗り越えさせるエネルギーとなっているようです。

*タイトル横の写真は、診療所の開所式で挨拶する筆者です。
*祐ホームクリニック石巻開業までの軌跡は、以下サイトに綴っております。
 http://youhc.blog.fc2.com/
 次回は、開業した後の診療についてお伝えいたします。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
武藤 真祐先生


医療法人鉄祐会祐ホームクリニック 理事長
一般社団法人高齢先進国モデル構想会議 理事長
1996年東京大学医学部卒業。2002年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。早稲田大学大学院ファイナンス研究科専門職学位課程修了(MBA)。東京大学医学部附属病院、三井記念病院にて循環器内科、救急医療に従事。診療所にて在宅医療にも従事する。 2004年より2年半、宮内庁で侍医を務めたのち、マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務。その後、医師として社会に貢献したいと在宅医療専門クリニック「祐ホームクリニック」を開設、現在に至る。医学博士、日本内科学会認定内科医、日本循環器学会循環器専門医、米国医師資格試験合格、米国公認会計士、MBA。NPO法人ヘルスケアリーダーシップ研究会理事長。

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