海外で治療を受ける-メディカルツーリズム、日本は遅れぎみ?

患者がよりよい医療サービスを受ける目的で他国へ渡航

優れた医療技術を持ち医療費が安いアジアの国々では、積極的に海外の患者を受け入れ。日本での取り組みは?

メディカルツーリズムとは?

 最近「メディカルツーリズム Medical Tourism」という言葉を耳にするようになりました。しかし、その内容が正しく理解されているとは、まだいえないのではないでしょうか。日本では「医療観光」と訳されることがあるため、観光旅行のついでに医療サービスを受けると思われがちですが、メディカルツーリズムの定義は、「患者が医療サービスを受ける目的で他国へ渡航すること」です。医療のために国を越えて旅するという意味であり、本来、観光色は薄いのです。

 自国では受けられない高度な先進医療や検診、あるいは美容整形など、よりよい医療サービスを求めて海外に渡航することを、メディカルツーリズムと呼んでいます。米国のように大勢の無保険者がいることに加え、雇用者側が医療保険の負担の軽減のため、従業員に医療費の低い海外での治療を推奨しており、低コストを求めて渡航するケースもあります。
 患者にとっては、優れた医療を割安で受けられることも魅力のひとつであり、迎える医療機関や国にとっては、症例数の増加や医療機器の活用が見込まれること、渡航に付随する患者や家族のための宿泊施設や交通網の整備など、経済効果が生み出されること、外貨の獲得などが主なメリットといえるでしょう。

 患者は主に中東や中国の富裕層が主力ですが、一般の人が渡航して治療を受けることもあります。たとえば医療費の高い米国で5万ドルかかる心臓手術が、アジアではその10分の1でできるという場合もあります。
 現在約50カ国が、海外からの患者の受け入れを行い、メディカルツーリスト数は、2008年には600万人に達し、市場規模は2012年に1000億ドルに拡大すると予測されています。

海外では、アジアが積極的

 渡航先としては、優れた医療技術を持ち、なおかつ医療費が安価な国が人気です。アジアはその2つを満たす国が多く、タイ、韓国、シンガポール、インドなどが国策として海外の患者を積極的に受け入れています。

 アジアにおけるメディカルツーリズムの先進国タイでは、年間140万人もの外国人患者を受け入れています。医師は米国や日本に留学して技術を磨いているため、医療水準は高く、アメニティーにも優れ、しかも治療費は格安です。
 外国人患者を専門に受け入れる会社組織の病院がいくつもありますが、その中核を成す病院グループ、バンコクホスピタル・メディカルセンターでは、外国語対応スタッフがそろい、高級ホテルのような豪華な病棟が目を引きます。また、循環器やがんなどの専門病院などがつくられ、外国人が本格的な医療を受けられる体制が整っています。

 韓国もメディカルツーリズムを新たな産業として捉え、国を挙げて取り組んでいます。済州島(チェジュとう)を医療特区にして、健診センター、専門病院、リハビリテーション施設、患者や家族のためのホテルなども整備し、ヘルスケア産業で発展を遂げようとしています。
 また、韓国では専門病院に特化して患者を呼ぶ試みも始まっています。ウリドゥル病院は、脊柱疾患専門の病院で、患者が空港から市内まで長距離移動しないですむように、なんと金浦空港の中に病院を建設しました。空港から専用車での送迎があり、24時間対応の専任スタッフが常駐しています。海外の患者の利便性を追求した実用的な発想で、患者を集めています。

 シンガポールも積極的です。人口約450万人、自国だけでは症例が少なく、十分な医学研究や教育ができないため、海外から広く患者を受け入れて、症例数を増やす必要があります。小国ならではの条件もあり、メディカルツーリズムは、医学の進歩に欠かせない重要な産業となっています。

日本のメディカルツーリズムは、スタートライン

 一方の日本は、これまで個々の病院の取り組みに任せていたのが現状で、アジア諸国に比べ大きく後れを取っていました。しかし、2010年6月、政府が発表した新成長戦略に初めて「国際医療交流」の文言が盛り込まれ、積極的な取り組み姿勢を示しました。これによって、関係省庁や医療機関、各自治体による動きが活発化し、ようやくスタートラインに立ったのです。

 現在、沖縄をウエルネスリゾートにする計画が進められています。目指すは、沖縄・アジア統合医療リハビリセンターであり、ホテルに長期滞在しながら治療を行う日本型メディカルツーリズムの創出です。治療も温泉療法、日本式漢方、鍼灸、アロマテラピーなどを取り入れた独自のスタイルで行います。静岡県熱海市でも温泉を利用したメディカルリゾート構想が練られています。
 また、徳島県では糖尿病専門の検診を行い、外国人患者の誘致を始めました。検診メニューを作成し、スタッフの教育や設備の整備など、主に中国の富裕層患者の受け入れのための環境を整えています。

 日本政策投資銀行は2020年までに43万人規模の外国人患者を受け入れ、市場規模が5500億円に拡大すると推測。しかし、日本医師会などの一部には、「混合診療の解禁につながり、国民皆保険制度を崩壊させる恐れがある」と反対する声もあります。そうした不安を払拭するためには、外国人患者受入れの上限を独自に定めることなどが必要です。今後、日本でメディカルツーリズムが根づくか否かは、国民皆保険制度とのバランスのとり方が大きなカギとなるでしょう。

(編集・制作 (株)法研)

【監修】
小川 陽子先生


医療ジャーナリスト
米国CMBイメージコンサルタント
国際医療福祉大学大学院医療福祉経営専攻医療・福祉ジャーナリズム修士課程修了。色彩心理末永ハート&カラーメソッドプログラム修了。小笠原流礼法初伝。AICI国際イメージコンサルタント協会会員、日本色彩学会会員、国際観光医療学会会員、日本医学ジャーナリスト協会広報委員、熱海市総合政策推進室アドバイザー、特定非営利活動法人 日本医療コンシェルジュ研究所公認メディカルコンシェルジュ資格取得。熱海観光戦略会議委員(2006~09)など。共著に『医療ツーリズム―大震災でどうなる日本式成長モデル』(医薬ジャーナル社)、『医療新生』『医療と介護の融合』(日本医療企画)など。

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