被災地の現状-行政のサポートが届かない在宅避難者の困難

被災地石巻で、在宅避難者への包括的な生活支援活動

専門職やボランティア、NPO団体などが連携、個別の健康・生活調査から必要な支援へ。震災復興はこれから

被災した自宅にそのまま暮らす在宅避難者が約4,000世帯、1.2万人以上も

 東日本大震災後、被災地石巻市の住民は約15万人。そのうち、震災前住んでいた住宅に、これまで通りに住むことができない状態にある方は約5.2万人おられます。そのうち2.2万人が仮設住宅で、1.8万人が借上仮設住宅で暮らしています。そしてそのほかに、浸水被害が大きい状態のままの自宅に暮らす在宅避難者と言われる方々が、約4,000世帯、1.2万人以上いらっしゃいます(私たちの独自調査による)。在宅避難世帯のうち、高齢者がおられる世帯率は6割を超えています。

 ある家では1階部分が浸水し、家財だけでなく床や壁も大きな被害を受けたまま補修も進んでいません。これでは石巻の寒い冬を過ごすには到底耐え難く、毛布や布団も含めての寒さ対策が必要でした。周辺の住民の多くが転居された地域では、近所付き合いもなくなり、回覧板も回らなくなりました。がれきが片付いた地域では、家の基礎だけが残る更地となりましたが、その中に残った自宅で暮らす方々は日々その光景を目にして、眠れない日々を過ごしているという声も多く聞きます。
 コミュニティーが崩壊し、情報が行き届いていない状況での生活には、サポートが必要です

すべての在宅避難世帯を訪問し、健康面・生活面の実態を把握

 そこで私は、在宅避難世帯の生活再建に向け必要なサポートを行うことを決めました。そして当院の医師や看護師を始め、支援医師や看護師、臨床心理士、介護士、社会福祉士といった医療・介護・福祉の専門職や、物資支援や移動支援を行うボランティアやNPO団体、住環境整備や買い物支援を担える民間企業等と連携し、「石巻医療圏 健康・生活復興協議会」を設立しました。
 この団体は、行政の眼が届きにくい在宅避難世帯の健康面・生活面の実態を把握し、住民の必要なニーズに対して速やかかつ適切な支援を行うことを通じて、住民のネットワークの再生や、孤立・孤独、それから派生する自殺・孤独死の予防を図ることを目指しました。これまで、祐ホームクリニックのほか約20団体がかかわってくださり、延4,500人日の活動となりました。

 私たちは、まずは在宅避難世帯すべてを個別訪問し、じっくり時間をかけて、世帯の状況を聞き取ります。震災の影響による家族状況や経済状況の変化、それに伴う体や心の状態の変化を伺った上で、現病歴・既往歴や服薬状況、介護サービスの状況、食事や住まい、移動の可否などの状態、そして近隣や社会との関係など、網羅的な視点でお伺いしていきます。
 これらの調査は、主に看護師や介護士、カウンセラーといった専門職ボランティアを中心にスタートしましたが、今では地元の方々が調査員として働いてくださるようになりました。さらには、現地の看護や福祉系の大学生など、この地の住民の健康や生活に対して想いがある方々にも参加いただいています。

調査内容を精査し、専門家による支援へつなぐ

 聞きとったすべての情報は、専用シートから、専用のデータベースシステムに入力されます。その上で看護師を始めとした精査専門チームにより、支援や介入が必要な世帯を抽出します。
 たとえば、病気の放置など身体的不安があれば医師や看護師が、「人生がいやになる」「死にたくなる」などといった重い精神症状に対しては精神科医や臨床心理士が、職業や収入の喪失など、さまざまな問題を抱えた世帯の生活再建に支援が必要であると判断されればソーシャルワーカーが、問題に対応できる体制を整えました。健康のみならず、応急修理や物資支援といったチームも参加します。
 それらのメンバーは、毎週1回集まります。この場は「要フォロー会議」として、これまでに15回開催されました。この場で、抽出された要支援・介入情報を受け取るほか、日々の活動における問題を話し合い解決しています。

 2月現在で、これまでに約3,000世帯の調査を行いました。その結果、体や心に甚大な問題を抱えている方は、全体の1/4にのぼります。
 「震災後通院をやめ、放置している病気がある」「人生がいやになる」「収入が全くなくなり、失業保険が切れた後の生活に不安がある」などといった顕在化した問題に対して、これまで約800件ほどの対応をしてきました。

 そして今後、体重の増減や血圧の上昇のほか、栄養摂取の偏りにより、まだ表に出ていない医療的課題を抱える方が存在することが想定され、家族や親族、近隣コミュニティー等の喪失や職業の喪失による心の問題も深刻です。地域の産業が崩壊した今、住民一人ひとりの生活再建は容易ではなく、そういった状況を背景に心身への影響が出ていることも感じています。

 震災から1年を経過し「もはや震災後ではない」という風潮もあります。しかし、私たちに見えている被災地は、まだまだ震災復興の緒についたばかりであり、これから長く困難な復興の道が続きます。私たちは4月から、第二次活動に入ります。皆さんも被災地のことを忘れずに、これからも応援していただけることを、切に願っています。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
武藤 真祐先生


医療法人鉄祐会祐ホームクリニック 理事長
一般社団法人高齢先進国モデル構想会議 理事長
1996年東京大学医学部卒業。2002年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。早稲田大学大学院ファイナンス研究科専門職学位課程修了(MBA)。東京大学医学部附属病院、三井記念病院にて循環器内科、救急医療に従事。診療所にて在宅医療にも従事する。2004年より2年半、宮内庁で侍医を務めたのち、マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務。その後、医師として社会に貢献したいと在宅医療専門クリニック「祐ホームクリニック」を開設、現在に至る。医学博士、日本内科学会認定内科医、日本循環器学会循環器専門医、米国医師資格試験合格、米国公認会計士、MBA。NPO法人ヘルスケアリーダーシップ研究会理事長。

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