認知症-老化との違いとは? 適切な初期治療で症状緩和も

認知症への正しい知識を持つことから始まります

認知症は単なる物忘れではありません。初期のサインを見逃さず、早期治療につなげることが大切

増える認知症高齢者

 私たちの脳は日常のあらゆる活動をコントロールしている大切な司令塔です。
 認知症とは、なんらかの原因で脳の神経細胞が破壊されたり働きが悪くなることによって、記憶や分析・判断、実行といった認知機能が障害され、生活上の支障をきたす状態です。

 全国の認知症高齢者の人数は2010年の約208万人から、2030年には約353万人にも増えると推計されています。また認知症は、介護が必要となった主な原因の第2位(全体の14%)にも挙げられ、誰にとっても身近な問題であるにもかかわらず、正しい情報や知識が行き渡っていないのが現状です。

 皆さんは毎日の暮らしのなかで高齢者に接するとき、「なんだかおかしいが認知症では? どう接したらよいのだろう」と困った経験はありませんか? 私たちにできることは何でしょうか? まずは、認知症への正しい知識を持ち理解することから始まります。

加齢によるもの忘れと認知症によるもの忘れは異なる

 人は誰でも加齢とともにもの忘れの症状が起こってきます。しかし、認知症は単なるもの忘れ(良性健忘)とは異なります。認知症の記憶障害では、生活自体が困難になるほどのもの忘れが起こります。
 たとえば、皆さんは今朝食べた朝食の内容を覚えていますか? 食べたことは覚えているが何を食べたか忘れてしまうのは、加齢に伴う単なるもの忘れ。それに対して認知症の場合は、メニュー内容ではなく、今朝朝食を食べたことの体験そのものが記憶からすっぽりと抜け落ちてしまいます。そのため、何度も食事を催促し、食生活や人間関係にも悪影響を及ぼしてしまうのです。
 私たちはまず、「家族の様子がおかしい」と気づくことが必要です。老化によるもの忘れと認知症の記憶障害の違いは次のとおりです。

 認知症と間違えやすい症状に、高齢期に起こりやすいうつ病があります。うつ病は認知症とは治療法が全く異なり、早期に区別して治療しないと、症状が悪化して自殺などの重大な結果を招く恐れがあります。また、栄養不足や脱水、薬の乱用や副作用なども、なんとなくぼーっとしているといった意識の変化を及ぼし、認知症と間違えやすい症状の一つで鑑別診断が重要です。

<認知症と間違えやすい状態>
 ・栄養不足や脱水症状など健康上の問題
 ・うつ病
 ・薬の乱用・副作用
 ・難聴や視力障害

初期段階のサインを見逃さず、専門機関へ相談・受診することが大切

 認知症はある日突然発症するのではなく、脳の中では何年も前から変化が起き始めていますから、何らかのサインがあります。これを見逃さないことが大切です。
 また、認知症の本人に自覚がないと思うのは大きな間違いです。もの忘れが多くなってきた初期の段階では、「なんだかおかしい、皆に迷惑をかけてしまうので辛い、悲しい、どうしてこんなことに」と本人は困惑し、不安感ややり場のない気持ちを抱えています。

 異常を認めたくないという気持ちは本人だけでなく家族にも生じる上、認知症の診断が難しいことから、早期発見、早期治療が困難となり、後の介護負担を大きくさせてしまうことも少なくありません。

 次に挙げるのは、夫が亡くなり一人暮らしを始めて2年目にアルツハイマー型認知症と診断された方の、診断前の実際の症状です。家族が「元気だった母親がなんだかおかしい」と気づいていました。

<参考ケース> アルツハイマー型認知症と診断される前の「母親のなんだかおかしい症状」
もの忘れ(記憶障害)
・会話中に同じことを何度も聴く
・きれい好きだったのに夜歯磨きを忘れる
・半年以上も美容院に行っていない
・使用後のトイレを流すことを忘れる
・消火器詐欺にあってお金を渡したが、その記憶がないため何度も支払う

自分で判断できない
・夏用と冬用の衣類の区別がつかない
・財布に小銭があふれている(計算できないためお札を出して釣りを受け取っていた)
・住み慣れた町で迷子になるが、こんな道を通るのは初めてだからと弁解する

意欲の減退、積極性がなくなった
・好きだった料理をしなくなった
・家計簿をつけない、年賀状を書かない
・お風呂に入ろうとしない

変わらない自分
・自分で自分の状況をある程度把握している
・「自分がおかしいので人に会いたくない」
・「去年までできていたことがどうしてできなくなってしまったんだろう。情けなくて悔しい」

 このような変化に気がついたら、家族から専門機関への相談、早期受診が必須です。認知症を早期に発見できれば、適切な対応と治療により認知症の症状を緩和させたり、進行を遅らせることも可能になっています。また、本人の判断能力があるうちに今後の介護生活環境の選択や財産管理の方法を家族で話し合うことができます。

 精神科の受診を拒否する場合は、「脳の健康診断に」と誘ってみる、精神科ではなく「もの忘れ外来」を受診するなどの工夫もできます。自治体によっては保健師や医師が自宅を訪問してくれるサービスを提供していることもあります。まずはお近くの地域包括支援センターに相談してみましょう。地元で相談しにくい場合には電話相談も利用してみましょう。

※公益社団法人 認知症の人と家族の会では認知症の電話相談110番により介護の経験者が必要な情報や知恵を提供してくれます。
0120-294-456(月~金 土日を除く10時~15時)

<受診先に迷ったときの参考に>
 日本老年精神医学会のホームページから、各都道府県の認知症を専門に診断できる専門医と専門医が在籍している施設を検索することができます。


 親の変化には誰もが戸惑い、そんなはずはないと否定したい気持ちになりますが、状況を隠そうとして家族だけで抱えてしまったり、症状を見ないふりをしてやりすごしたりしていては、数年後に問題が大きくなってしまうことも知っていてほしいと思います。

 「なんだか自分がおかしい」と感じている本人の不安や苦痛を、できるだけ良い方法で対応していくことが望まれます。
 次回は、認知症高齢者への接し方についてお伝えします。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
川上 由里子先生


介護コンサルタント
ケアマネジャー、看護師、福祉住環境コーディネーター2級、産業カウンセラー。1984年より13年、大学病院、高齢者住宅(聖路加レジデンス)などで看護師として勤め、現在は三井不動産(株)ケアデザインプラザでのシニアライフ提案コンサルティングや各企業の高齢者、介護関連のアドバイザーとしても活躍し、講演、執筆も多数。高齢者支援のみならず、支える人を支えるメッセージを各方面に発信している。著書に『介護生活これで安心』(小学館)。08年より自身も父親の遠距離介護を体験中。

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