【医者が教える】高齢者の在宅医療‐望まれる生活を支える医療

少子高齢化が進む日本で在宅医療が求められるわけ

高齢者の「生活を支える」医療に求められる在宅医療。医療費抑制や自宅での看取りにも期待

日本はますます少子高齢化が進み、高齢者の社会的孤立が問題に

 これまで、在宅医療を受ける患者さんやご家族にフォーカスして、在宅医療についてお伝えしてきました。第8回の今回から3回にわたって、わが国の在宅医療を取り巻く環境や在宅医療診療所の実際をお伝えし、今後の在宅医療の普及と発展について展望します。

 まずは日本の人口動態を捉えるために、下の図を参照ください。2005年の安定感ある形状に比べ、今から約15年後の2030年にはボリュームゾーンが上にシフトし、さらにその25年後の2055年には、若年層部分が細り、不安定な形状になります。生産年齢人口(15~64歳)、年少人口(14歳以下)の占める割合が減少する一方、老年人口(65歳以上)、特に75歳以上人口の占める割合が大幅に増加します。

 特に、都市部の高齢化は地方を上回るペースで進んでおり、今から10年後には65歳以上の高齢者の過半数が三大都市圏に居住するという試算が出ています。世帯の4割が高齢者世帯となり、その7割が親子では住まない世帯、つまり多くが独居もしくは「老老世帯」となると言われています。
 さらには、都市部を中心に地域で他者との付き合いが希薄化する傾向にあります。身体機能が落ちた高齢者のなかには、いわゆる「社会的孤立」状態にある人が少なくありません。孤立して「外出しない」「人と会わない・話さない」という状態が、さらに身体機能や認知機能を低下させ、最悪の場合には孤独死という結末を迎えてしまうという悪循環があります。

これからの日本の高齢者医療に求められる在宅医療への期待

 日本が直面する少子高齢社会における課題の一つが高齢者医療ですが、その特徴として、複数の疾患と長く付き合うこと、認知の問題があること、そして終末期の看取りと切り離すことができない、という点があげられます。
 そのため、高齢者の医療は「病気を治す」ではなく、「生活を支える」医療が求められており、自宅を1件1件訪問するという在宅医療は、高齢者と社会との接点となり、高齢者の生活を支える役割を果たすことを期待されています。

 また、患者さんの病状によっては、終末期をご自宅で過ごしたいと希望する方も多く、その場合にも積極的な治療というよりも「生活を支える医療」を望まれます。最期のときに、患者さんやご家族に「良い時間を過ごせた」と思っていただけるよう、医療の側面から患者さんやご家族を支えていくことが、在宅医療に期待されることだと思っています。

 在宅医療への期待はこれだけではありません。
 実は、日本の財政面でも大きな期待が寄せられています。日本の社会保障費(年金・医療・福祉・介護等)の伸びが著しいことは、近年の「社会保障と税の一体改革」議論や報道により、広く知られる事実です。年金の伸びが問題視されがちですが、医療費の伸びも止まりません。一方で、社会保険料収入は横ばいですので、その差額は拡大傾向にあります。差額は、税負担で賄われることになります。

 このような状況のもと、社会医療費の伸びの抑制は、国の大きな課題です。そこで注目されるのが地域の病床数です。病院のベッドが多い都道府県ほど、老人医療費が高い傾向にあるという研究結果から、病院のベッドを減らしていこうという動きは数年前から活発化しています。その分の医療の受け皿として、在宅での医療は期待されています。

 もう1点、見過ごせないのが、今後しばらくの間増加の一途をたどる高齢者の死亡者数です。2006年の108万人からピークを迎える2040年には166万人に達すると想定されています。病院が増えることは前述の状況から考えにくく、一気に増える約60万人の死亡者は、どこで亡くなるのでしょうか。このままでは「死に場所難民」と言われる人々が発生してしまいます。この点でも、自宅で看取りまで行う在宅医療は期待されています。

 このように、
・都市部で急増する孤立した高齢者と社会とをつなぐ役割として
・高齢者の「生活を支える医療」の担い手として
・高齢者の自宅での療養、看取りの担い手として
在宅医療はこれからの社会に求められていると言えます。

 次回は、在宅医療についての現状と問題点を探っていきます。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
武藤 真祐先生


医療法人鉄祐会祐ホームクリニック 理事長
一般社団法人高齢先進国モデル構想会議 理事長
1996年東京大学医学部卒業。2002年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。早稲田大学大学院ファイナンス研究科専門職学位課程修了(MBA)。東京大学医学部附属病院、三井記念病院にて循環器内科、救急医療に従事。診療所にて在宅医療にも従事する。2004年より2年半、宮内庁で侍医を務めたのち、マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務。その後、医師として社会に貢献したいと在宅医療専門クリニック「祐ホームクリニック」を開設、現在に至る。医学博士、日本内科学会認定内科医、日本循環器学会循環器専門医、米国医師資格試験合格、米国公認会計士、MBA。NPO法人ヘルスケアリーダーシップ研究会理事長。

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