認知症の人への接し方-やってはいけない4つのこと|対応例

介護者を悩ませる認知症の主な症状ごとの対応例を紹介

対応を変えてもうまくいかないときは専門家に相談を。公的サービスも活用し、家族だけで抱え込まない

多くの家族が陥りやすい望ましくない接し方

 認知症の人は、さまざまな苦悩やストレスを抱えながら暮らしており、決して何もわからなくなっているわけではありません。認知症になっても、適切な対応やケアを行うことで安心して穏やかに生活できることがわかってきました。
 前回の「認知症高齢者の症状と接し方・心構え」では、周囲の人が認知症は病気であることを理解し、本人が安心できるようコミュニケーションをとり接することが大切であることをお伝えしました。しかし残念ながら、家族が認知症を発症したとき、多くの人は次のような望ましくない接し方で対応してしまいがちです。

・初期段階では変化を認めず、「おかしなことを言っている」と無視したり説得しようとする
・何を話しても理解できないだろうと子ども扱いし、これまでできていた役割を奪ってしまう
・「みっともない」、「危険」などの理由から家に閉じ込め、外出や交流の機会をなくす
・何をしても無駄だとあきらめてしまう

 認知症は、望ましい接し方でかかわることで本人の不安を軽減し、症状の進行を予防することができます。今回は、介護者を悩ませるさまざまな症状ごとに、どのように接したらよいのか考えてみましょう。

認知症の主な症状ごとの対応例

 ここでは家族が実践できる基本的な対応例を紹介します。認知症は原因疾患や進行状態、本人の性格、環境などによって症状も対応も異なってくるため、対応を変えてもうまくいかないときは、主治医やケアマネジャーなどの専門家に遠慮せずに相談しましょう。困ったときは一人で抱え込まないことが大切です。

◆何度も同じことを聞いてくる:物忘れ(80歳女性、アルツハイマー病)
 同居している母が、約1年前から何度も同じことを話したり聞いたりするようになりました。仕事から疲れて帰ってきた日の夕飯時、そんな母を「何度も同じことを聞かないで」と怒鳴ってしまいました。夫も不機嫌になり、このままでは家族関係が悪くなってしまいそうです。

【対応例】 アルツハイマー病では、新しい事柄から覚えられなくなり、何度も同じことを尋ねます。「どこへ行くの?」「今日は何日?」「何曜日?」など、理解できない自分が不安で何度も尋ねます。このとき最も不適切な対応は「同じことを何度も聞くな」と怒ったりすることです。本人はなぜ怒られたかが理解できず、不安や戸惑い、怒りが生じ、認知症を進行させることにもつながります。
 何度聞かれても、初めて聞かれたときと同じように答えてあげることが大切です。最初はイライラするかもしれませんが、本人は答えを聞けば安心し、納得してくれます。また、メモを残したり、カレンダーにまるをつけてもらったり、ヒントを与えることも記憶を助けます。「今日は○月○日、もうすぐ中秋の名月ね」など。

◆お金を盗んだと介護者を責める:物盗られ妄想(75歳女性、アルツハイマー病)
 同居している義母が、半年前から通帳や現金を盗まれたと訴え始め、近所にまで言いふらして困っています。私は「盗っていない!」といつも大喧嘩になり、ストレスがたまります。

【対応例】 物盗られ妄想はアルツハイマー病では頻繁にみられ、家族を悩ませる症状です。残念ながら最も身近な介護者を妄想の対象者(犯人)として訴えることが多々あります(※)。家族が怒る気持ちも当然ですが、本人は盗られたと確信しているため、盗っていないと否定しても、納得させることは困難です。
 訴えは否定せずに肯定的に受容し、傾聴することが最も大切です。一緒に探す、関心や興味を別の方向に向ける、あるいははじめから介護者が管理し、「いつでも必要なときは言ってくださいね」と安心感を与える方法もあります。日頃よくしまいこむ場所やくせを知っておくことも大切です。物盗られ妄想は不安や寂しさが原因となっていることもありその対応は百人百様です。日頃からの声かけなど信頼関係を築くよう心がけましょう。
 ※ 症状の出現はより身近な人に対して強く出るという特徴があるが、これは介護者を最も頼りにしているからこそのこと。

◆夕方になると「そろそろ家に帰る」:徘徊(78歳男性、脳血管性認知症)
 父は約3年前から物忘れが目立ち始め、最近は夕方になると「家に帰る」と言ってそわそわし出し、遠くまで出かけて警察に保護されたことも数回あります。事故にでもあったらと思うと心配でたまりません。

【対応例】 「夕暮れ症候群」(※)とも呼ばれ、これも認知症高齢者に頻繁にみられる症状です。本人は現在の家を「自分の家」と認識できず、生まれ育った実家や以前住んでいた家など、本人にとってのやすらぎの場所や気になっている場所を探しているのです。
 無理にひきとめず、「おいしいお茶を飲みましょう」、「もう遅いので明日の朝送りますよ」などと声をかけ、気持ちをそらすようにします。一緒に出かけて近所を一周するうちに落ち着くこともあります。また、住所を書いた紙を貼っておく、室内に表札をかけておくなどで、ここが我が家らしいと本人が思えることで落ち着くこともあります。

 一人で出かけてしまうことを予防するために、次のような方法が役立ちます。
・玄関にベルやセンサー(認知症老人徘徊感知機器/介護保険福祉用具レンタル対象)を配置する
 (参考:徘徊センサー
・衣服に名前、住所、連絡先などを記載したネームプレートを縫いつける
・携帯端末機GPSによる探索システムの活用(ベルトにつける、ポケットに入れるなどの工夫が必要)
 (参考:徘徊探知機
・日中はデイサービスなどを利用し、1人にならない環境をつくる
・地域の高齢福祉サービス徘徊ネットワークへ登録する
 ※ 一般的には夕方落ち着かなくなる人が多いが、本人の落ち着かなくなる時間を把握して対応を。

◆不要なものを何度も購入してしまう:乱買(83歳女性、アルツハイマー病)
 団地に住む一人暮らしのAさんは近くのスーパーでお米や食料を頻繁に買って溜め込んでいるようです。最近は家賃も度々滞納し本人も困っている様子。金銭管理が難しくなっているようです。

【対応例】 戦中・戦後の食料不足の記憶がある高齢者によくみられる症状です。当時の心配が原因となっています。行為は否定せず、食べ物がたくさんあることを見せて安心させたり、お店には事情を話して後でそっと返却するなど、近隣に協力を求めることも必要です。
 Aさんは今後ますます金銭管理能力が低下することが予測されます。判断能力が低下した人に代わって財産や権利を保護する「成年後見制度」や、日常金銭管理や書類などの預かり、福祉サービスの利用援助などを行う「日常生活自立支援事業(旧地域福祉権利擁護事業)」を利用することができます。どちらも有料のサービスですが、地域包括支援センターに状況を伝えサポートをお願いしましょう。

家族が認知症と診断されたら、どんなことが必要?

 認知症の家族を抱えると、多くの人が無理をしてしまい、いつまで続くのかわからないストレスや、長期にわたる対応に体調を壊したりうつ状態になってしまうことも少なくありません。家族だけで抱え込まず、まずは誰かに話してみましょう。ショートステイ、訪問介護、小規模多機能型居宅介護などの在宅サービスを活用したり、グループホームや有料老人ホームなどの施設サービスの検討も視野に入れ、ぎりぎりまでがんばり過ぎないこと。公的サービスの活用などで、地域全体で支えることが大切です。

 認知症と診断されたら、医療・介護・福祉の各分野の連携が欠かせません。家族は次のようなことを行うとよいでしょう。

 これまで3回にわたり認知症についてお伝えしてきました。皆の知恵と心を持ち寄り、本人・家族を社会で支えていきましょう。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
川上 由里子先生


ケアコンサルタント
ケアマネジャー、看護師、産業カウンセラー、福祉住環境コーディネーター2級。1984年より13年、大学病院、高齢者住宅(聖路加レジデンス)などで看護師として勤め、三井不動産(株)ケアデザインプラザの立ち上げに参画。現在はUR都市機構や各企業の高齢者、介護関連のアドバイザーとしても活躍し、シニアライフに関するコンサルティングの他、講演、執筆も多数。高齢者支援のみならず、支える人を支えるメッセージを各方面に発信している。希望は心と心を結ぶケアを広げていくこと。著書に『介護生活これで安心』(小学館)。2008年より自身も父親の遠距離介護を体験中。

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