【医者が教える】高齢者の在宅医療‐課題は認知度と24時間体制

近年急速に発展・普及してきた在宅医療。その課題と取り組み

在宅医療をもっと国民に知ってもらい、24時間・365日体制を可能にするための当院の取り組み

社会から求められている在宅医療だが、数の不足に加え多くの課題が

 前回の「Dr.MUTOの在宅医療講座 8」では、少子高齢化が進むわが国で、在宅医療が社会から求められているということをお話しさせていただきました。その理由は、次のようなことでした。
・都市部で急増する孤立した高齢者と社会とをつなぐ役割として
・高齢者の「生活を支える医療」の担い手として
・高齢者の自宅での療養、看取りの担い手として

 そこで私は、2010年1月に在宅医療専門の診療所を開設し、現在では分院合わせて延べ1,000人以上の患者さんを診察し、年間約60名の看取りを行ってきました。

 在宅医療はずっと以前から、多くの志ある医師たちが並々ならぬ努力を注いできました。また近年では国の施策として推進され、急速に発展・普及してきました。しかしまだ、その数は不足しており、さらに課題もあります。今回はその中でも私が重要だと思う課題を2点指摘したいと思います。

在宅医療のことを、国民がまだまだ知らない

 在宅医療は、まだまだ誰もが知っているというところまでにはなっていません。その理由として「在宅医療に関する医療者側の説明不足」が指摘されています。たとえば、大病院を退院される高齢者の退院後の療養場所の選択肢としては、高齢者向けの病院への転院や外来通院のほかに、在宅医療という選択肢もありますが、病院の医療専門職がそれらを適切に助言できていない現状があります。そこで私は病院の医師や看護師を対象に在宅医療を深く理解していただけるような取り組みをしています。

 退院される高齢の患者さんの多くは、不安を抱えています。それは「退院後の生活」に対する不安です。病院の医師や病棟看護師、退院支援の看護師や医療ソーシャルワーカー(MSW)など、患者さんのその後の療養場所の選択に影響を与える専門職が「医療の観点から、患者さんや家族に在宅で過ごすことに安心を与えること」ができるかどうかは、大変重要であると思います。
 というのも、患者さんの多くが医療者の言葉を信じ、支えにしてくださっています。医療が持つ「社会的な信頼」を、私たちは改めて自覚し、病院医療に従事する医療専門職も、患者さんの生活を支えるいろいろな制度や地域の医療・介護資源について学び、患者さんに適切に助言することで、患者さんからの信頼に応えていけるとよいと思います。

 当院では、この点を重視し、さまざまな活動を行っています。病院とのケースカンファレンス(個々の患者さんについて関係職種の人が集まって情報を共有したり、よりよい治療を検討するための集まり)やデスカンファレンス(退院後在宅医療に移行し在宅で看取りを行った患者さんについての、退院元病院の担当医、病棟看護師等とのケースカンファレンス)、病院の看護師をはじめとする医療職向けの在宅医療実習などです。いずれも、病院の医療者が在宅医療への理解を深め、患者さんに安心感をもたらすことを目的にしています。

 そしてこのような活動に対して病院も積極的に臨んでくださいます。病院医局との在宅医療カンファレンスの回数は増え、医師のみならず、病棟看護師、退院調整看護師等が熱心に参加しています。また、在宅医療実習については、昨年度は大学病院から中堅看護師約30名を、数カ月にわたって受け入れてきました。そして今年度は全看護師長を同様の期間受け入れました。こうなると、病院全体が変わります。
 このような活動が、地域の住民の方々の安心を醸成するものと思い、今後も続けていきます。

24時間365日の診療体制を敷くことの難しさ

 2つ目に挙げられるのが、24時間体制の整備です。診療所の多くが、医師1人体制で運営されていますので、24時間365日の在宅医療体制を一つの診療所で保持することは、体力的に大変困難です。このことが在宅医療の継続を難しくしたり、多くの医師が「当院では無理だ」と考える要因となっています。
 そこで、「一つの診療所を医師複数体制で運営する」、もしくは「地域内の診療所が連携して、24時間365日の診療体制を地域内で構築する」などの取り組みが不可欠であると思います。

 私はまず「一つの診療所を医師複数体制で運営する」に取り組みました。東京の本院では、常勤医3人を含む医師29人のグループ診療体制をとっています(2012年10月現在)。多様な専門医が在籍し、お互いの専門領域について相談し合い技術や知識を共有することで、複数の疾患を持つ高齢者に対応しています。
 また、宮城県石巻市の分院では、東京のように医師が大勢いませんので、近隣の3つの診療所と連携することで「無理をし過ぎずに」24時間365日の診療体制を保っています。
 こういったことが各地でも実現できるよう、もっと多くの医師が「高齢者の生活を支える」在宅医療に取り組むよう、働きかけていくことも大切であると思います。

 このように、在宅医療にはまだまだ多くの課題があります。
 医師も看護師も、もっと在宅医療のことを知り、その担い手として取り組んでいただきたいと思いますし、一方で国民の皆さんにもこのような在宅医療の実情を知っていただき、ともに在宅医療を育んでいけるとよいと思います。

 最終回の次回は、在宅医療を中心とした、支え合いの地域コミュニティについてお話します。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
武藤 真祐先生


医療法人鉄祐会祐ホームクリニック 理事長
一般社団法人高齢先進国モデル構想会議 理事長
1996年東京大学医学部卒業。2002年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。東京大学医学部附属病院、三井記念病院にて循環器内科、救急医療に従事。診療所にて在宅医療にも従事する。2004年より2年半、宮内庁で侍医を務めたのち、マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務。その後、医師として社会に貢献したいと、2010年1月に在宅医療専門クリニックを開設、さらに、2011年9月に、甚大な震災被害を受けた宮城県石巻市にて在宅医療専門診療所を開設、現在に至る。医学博士、日本循環器学会循環器専門医、米国医師資格試験合格、米国公認会計士、MBA。NPO法人ヘルスケアリーダーシップ研究会理事長。

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