管理職の男性の死亡率が高い! バブル崩壊後に増加したものとは

管理職と専門・技術職の早死にをどう防ぐか

ストレスや労働時間の増加に加え、体調が悪くても仕事が休めず、症状があっても受診しないことが原因?

男性の管理職と専門・技術職に、がんや自殺による死亡が増加している

 これまで栄華を極めていた日本の代表的な企業でさえも業績不振となり、政治や経済の見通しの不安定さなども相まって日本全体の空気を暗くしているようです。こんなときに企業が業績回復やコスト削減をめざして短絡的に行うことが職員へのさまざまな「締め付け」だったりします。
 「締め付け」があるとしたら、だれが一番その対象になっているでしょうか。産業医としての個人的な経験から言うと、最近の傾向かもしれませんが管理職や専門職が対象になっていることが多いような気がします。もちろん、一般の社員の方や派遣の方も大変です。しかし、特に社員の労働(残業)時間の管理という観点から、遅くまで残業しているのは管理職である上司だったりすることも珍しくないのでは……。

 実はその管理職や専門・技術職に関して今年の3月に驚きの調査結果が示されました(*)。男性の管理職と専門・技術職の死亡率(30歳から60歳において)が、1980年から見ていくと1995年あたりから増加傾向にあるのです。調査当初は、医療の進歩や生活習慣などの改善啓発が進み、死亡率が低下することが期待されていました。他の職種の多くは順調に下がっていましたが、男性の管理職と専門・技術職だけが増加に転じました。
 この論文は筆者らのチームが執筆したもので、海外の有名な医学雑誌に掲載されたこともあり、新聞などメディアでも取り上げていただいたのでご存じの方もおられるかもしれません。

 まずはデータを紹介します。下の図は、病気ごとの死亡者と人口から計算した死亡率の1980年から2005年までの推移です。死亡率とは、その職業に就いている人が10万人いるとしたら、そのうち何人が死亡しているかを示したものです。
 死因としては、図1にすべての原因、代表的な病気である脳血管疾患(脳卒中など)と心筋梗塞、自殺を、図2にすべてのがん、それに代表的ながんである大腸がんと肺がんを示しました。

 図をご覧いただくと、1995年から2000年の間に専門・技術職と管理職の死亡が増加しているのがひと目で確認いただけるでしょう。一方で労働者人口の約半数は販売職、事務職、生産工程・労務職が占めていますが、自殺を除いて年々順調に低下しています。2000年に専門・技術職の死亡が、多くの疾患で減少に転じていますが、管理職では横ばいです。また注目すべきは、管理職の自殺がさらに急増していることです。

経済動向と働き方の変化が健康に影響

 どうしてこんなことが起きているのでしょうか。一つには外部環境として経済動向や働き方の変化が関係しているのではないかと考えています。
 1990年代のアジア通貨危機やいわゆる「バブル経済」の崩壊により、日本経済は大きな影響を受けました。1998年には戦後初めての実質マイナス成長を経験し、その年の自殺者数は戦後最も高くなりました。その後も、日本経済は一時的に回復したときもありますが、今日まで低迷傾向が続いています。失業率は1991年の2.0%から2003年には5.5%と上昇し、その後短期の回復をみたものの、2008年のリーマン・ショック以降再上昇し、今は5%超と近年の最高水準を維持しています。

 ご存じのように、バブル崩壊後の時代のキーワードは「リストラ」や「成果主義」でした。産業活性化を目的とした雇用規制緩和策により、それまで認められていなかった製造業への派遣労働が認められ、企業はコスト削減のために高コストの正規雇用を減らし、大量の非正規労働者を使い出しました。こうした雇用環境や働き方の大きな変化が、働き盛りの男性、特に管理職や専門・技術職の健康に大きく影響をしているのではないでしょうか?

 しかし、管理職や専門・技術職においてがんで亡くなる方が短期間に増加しているのには、もう一つ、健診結果の異常や、慢性の咳(肺がんのサインのことがあります)や便秘(大腸がんのサインのことがあります)、疲労感など多少の症状があったとしても、管理職や専門・技術職はなかなか病院を受診しない傾向があるのではないかと考えています。
 その理由の一つに「仕事を休めない」といったことがあるのではないでしょうか。業務量が多いというだけではなく、休めない職場の雰囲気や、忙しいから休めないという思い込みもあるのかもしれません。私が産業医をしていた会社のある上司は、「私が数日でも休んで、仕事が回らないようなら管理職として失格だ」、「たまには上司はいないほうがいいんだ」と割り切っていましたが、そういうのはいかがでしょうか?

 そして自殺も深刻です。図から読み取れるように、自殺率は1995年あたりからすべての職種において増加しています。特に、専門・技術職や管理職の自殺率の急増がみられます。専門・技術職は2000年以降減少傾向にありますが、管理職は急増傾向のままです。仕事のストレスの増大などのほかにもいろいろと原因はあるのかもしれませんが、なんとか自殺にまでならないようにと願ってやみません。

実は女性も管理職、専門・技術職の死亡率が高い

 我々の研究では、男性に焦点を絞りました。なぜなら2005年以前は、管理職に就く女性が少なかったため、得られた女性のデータの職業分類に、やや課題が残ったからです。しかし、解析はしました。そこでも驚くことがわかりました。どうやら女性も管理職の死亡率が高い、特に30歳代後半や40歳代前半で管理職になっている女性において高いという結果でした。

 女性管理職のデータが得られるようになった2005年ごろというのは、男女雇用機会均等法施行後(1986年以降)に就職した女性たちが、ちょうど30歳代後半や40歳代前半で管理職に就いたころです。データはそれを反映した結果なのかもしれません。また、必ずしも50歳代やそれ以降に管理職に就いた女性より、30歳代後半や40歳代前半で管理職に就いた女性のほうが死亡率が高いと言い切れるかは課題が残ります。ですからこのあたりは今後の研究が求められます。
 しかし、個人的にはこの年代の女性で管理職は、男性以上に仕事に傾ける情熱は高く、自分の健康を犠牲にしているのかもしれないなと思ったりもします。

定期的な運動と休養はすぐにできる対策

 こうした時代だからこそかもしれませんが、健康は最大の資源です。最近は70歳まで働けるということが、年金の支給の問題からも議論の対象となっています。それに健康面からみても、65歳以降もなんらかの形で働くことや社会参加が望ましいことは明らかです。
 今回の結果からは、管理職や専門・技術職をはじめとする働き盛り世代の人々にはより一層、「自分の健康は自分で守る」という意識を高めていただければと思います。また、自らの働き方について、できるところからもう一度見直すようなきっかけを持っていただきたい。

 何をしていいかわからない方は、ぜひ、定期的に適度な運動から初めていただきたい。たとえば週に30分以上の軽く汗をかくような運動を週に1回ないし2回でもやってみるというのがおすすめです。運動がうつを予防する、またうつになったとしても運動が抗うつ薬と同程度の効果があるということも報告されています。そして仕事の生産性を高める効果も期待されます。

(*)参考文献 Wada K, Kondo N, Gilmour S, Ichida Y, Fujino Y, Satoh T, Shibuya K. Trends in the leading causes of death by occupations among men aged 30-59 years in Japan, 1980-2005.BMJ 2012;344:e1191

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
和田 耕治先生


北里大学医学部公衆衛生学 准教授
2000年産業医科大学医学部卒業。臨床研修医、企業での専属産業医を経て、06年 McGill(マギル)大学産業保健修士、ポストドクトラルフェロー。 07年北里大学医学部衛生学公衆衛生学助教、09年講師、12年より現職。専門は公衆衛生、産業保健、健康危機管理、疫学。医学博士、労働衛生コンサルタント(保健衛生)、産業保健修士、日本産業衛生学会指導医、日本体育協会認定スポーツ医。著書に『保健・医療従事者のための自然災害において被災者や自分を守るためのポイント集』、『医療機関における暴力対策ハンドブック』(ともに中外医学社)など多数。

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