【医者が教える】高齢者の在宅医療‐家族の負担への配慮の大切さ

在宅医療で最も大切にしていること

自宅療養で今後起こり得ると予想されることをきちんと説明をすること、家族の心理的な負担を軽減すること

心身が衰えても心豊かに安心して暮らせる社会に大きな役割を果たす「在宅医療」

 超高齢社会を迎えて、高齢者の不安が増していると聞きます。
 全国の60歳以上の男女に聞き取った内閣府の調査「高齢者の日常生活に関する意識調査」(平成21年)によると、将来の日常生活に対して「不安を感じる」人が7割を超えました。その要因としては、トップが「自分や配偶者の健康や病気のこと」で全体の7割、次いで「自分や配偶者が寝たきりや体が不自由になり、介護が必要な状態になること」が5割に上りました。

 しかし、年齢を重ねるにしたがって身体機能が低下し、心身の健康が保てなくなるというのは自然の摂理です。そうであれば、年齢を重ねたことによる心身の衰えを必要以上に悲観するのではなく、そのような状態になっても、心豊かに安心して暮らすことのできるような社会づくりを行うべきであると思います。

 在宅医療は、そのための大きな役割を果たすことを期待されています。在宅医療は病院や診療所に通院するのが困難な、主に介護が必要になっている高齢者のお宅に伺い、診察を始めとする医療行為を行いながら、自宅での療養生活を支える医療です。病院などが、一般的に「病気を治す医療」であるのに対し、在宅医療は「生活を支える医療」と言えます。
 病院の医師は、目の前の患者さんの病気を治療することに全力を注ぎ、それがすべてに優先します。それに対して在宅医療は「病気は患者さんの生活の一部」と捉えます。患者さんの人生、生活全体の中の一部として、病気があります。

 そのように位置づけたときに、患者さんにとって何がよいのか、何はよくないのかということを、在宅医も含めたかかりつけ医、あるいはケアマネジャーや介護士、ソーシャルワーカーなど、患者さんやご家族、さらにその生活環境などをよく知っている人たちが総合的に判断して、その患者さんにとってよりよい療養生活を組み立てていくべきであると思います。その判断を病院の医師に求めるとしたら、それはそもそも担う役割が違うということで、酷な話です。

在宅医療で最も大切にしていることは「説明」と「家族の負担への配慮」

 このような考えから、私は患者さんの人生の最終章において、よりよい最期を、ある意味「プロデュース」するような気持ちで、患者さんやご家族と向き合います。そのために最も大切にしていることは「説明」です。自宅で療養をするにあたり、今後起こり得ると予想されることを、特にご家族に対してきちんと説明をすることを大事にしています。

 多くの人にとって、自宅で誰かの最期に臨むというのは初めての経験です。そんなときに患者さんの苦しむ様子を見ると取り乱しますし、高齢者やがん末期の方に見られる「せん妄」状態(急にわけのわからないことを言ったり行動したりするような状態)に陥ると、ご家族もパニックになります。
 そこで、在宅医は、これから起こりうると想定される患者さんの状態の変化をきちんとご家族にご説明し、そのときにどのように対処するのがよいのかを伝えます。そして重要なことは「それがいつまで続くのか」を伝えることです。その場合には、「そういう状態になったら、あとどのくらいで亡くなる可能性が高いのか」というところに踏み込まなくてはなりません。
 そういったことを、ご家族の心の状態を図りながら、寄り添うように伝えていきます。残された患者さんとご家族の時間への心構えを作ること、また「あと○週間だから、やり抜こう」といったようにご家族の気持ちを整えることができます。

 もう一つ大切にしていることは、ご家族の負担に配慮することです。家族介護は大変です。ご家族に「頑張ってください」というだけでは、支えられません。介護負担に加え、患者さんが苦しんでいる様子を見ると、ご家族は入院させたほうがいいのではないか、と思うでしょう。
 そんなときに在宅医としては「最期まで在宅医療でやり抜きましょう!」というのではなく、「患者さんが苦しそうでどうしようもなくなったら、そのときは入院も考えましょう」と伝えます。ご家族にとっては、気持ちの逃げ場ができ少し楽になれます。最後の最後、病院に搬送するということは少ないのですが、気持ちの上で選択肢を残すことが、ご家族の心理的な負担を大きく軽減します。そのことがご家族や患者さん自身の余裕となり、家庭内が穏やかになると考えています。

 在宅医療とはこのように、身体ケアのみならず、精神的なケアや、社会的(生活的)なケアも含みます。そもそも病気になるということは、そのようなケアを必要とする状態であると考えています。そういった役割を担っているということを自覚しながら、これからも在宅医として患者さんに向き合っていきたいと思います。

「支え合いの地域コミュニティ」が私たちの老いを豊かにしてくれると確信

 さらに私は、「高齢者の生活を支える」というときには、医療だけでは足りないと考えています。介護が加わっても、足りないと思います。
 患者さんとの信頼関係の下で、医療や介護のみならず、高齢者の生活を支えるサービスが必要です。たとえば、高齢者の身体特性に合った食事や住まい、日用品が手に入り、正しく使うことができるようにするところまでのサポートの仕組み、金融や法律などの心配ごとの解決、さらに、生きがいや楽しみといった、心豊かに生きていくために不可欠なものを、包括的に高齢者のもとに届けることができるような仕組みの構築を目指しています。
 このような「支え合いの地域コミュニティ」が超高齢社会日本に生きる私たちの老いを、豊かにしてくれるものと確信しています。

 これまで約2年半の間、在宅医療についてお伝えしてきました。このことが、一人でも多くの方に、在宅医療という選択肢を知っていただき、ご自身やご家族の療養生活をどのように過ごすかを考える材料にしていただければと思います。
 長らくのご愛読に心から感謝いたします。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
武藤 真祐先生


医療法人鉄祐会祐ホームクリニック 理事長
一般社団法人高齢先進国モデル構想会議 理事長
1996年東京大学医学部卒業。2002年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。東京大学医学部附属病院、三井記念病院にて循環器内科、救急医療に従事。診療所にて在宅医療にも従事する。2004年より2年半、宮内庁で侍医を務めたのち、マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務。その後、医師として社会に貢献したいと、2010年1月に在宅医療専門クリニックを開設、さらに、2011年9月に、甚大な震災被害を受けた宮城県石巻市にて在宅医療専門クリニックを開設、現在に至る。医学博士、日本循環器学会循環器専門医、米国医師資格試験合格、米国公認会計士、MBA。NPO法人ヘルスケアリーダーシップ研究会理事長。

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