病気と上手く付き合という考え方-慢性疾患の人の自己管理とは

慢性疾患をもつ人たちが技術をもち自立した生活を送るために

課題に対処し乗り越える力=患者力。慢性疾患セルフマネジメントプログラムで自己管理の技術を学ぶ

病気とともに、よりよく生きるための患者力

 病気には、大きく分けると2つの種類があります。1つは、風邪や捻挫(ねんざ)など比較的短期間に治るもので「急性疾患」と呼ばれます。もう1つは、糖尿病や高血圧をはじめとした生活習慣病や、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなどの膠原病など、完治が難しい病気で「慢性疾患」と呼ばれます。また、がんについても、寛解・完治まで一定の期間がかかるという特性から、慢性疾患の1つと言われることも多くなりました。
 近年、食生活の変化や運動不足などから、健康診断などで生活習慣病と指摘される人も少なくありません。そして、生涯のうちがんになる確率は国民の2人に1人とも言われている時代にあって、慢性疾患は多くの人にとって他人事ではありません。

 急性疾患では、多くの場合、十分な休息をとったり薬を飲んだりすることで治すことができますが、慢性疾患になると完全に治すことは難しいので、病気とともに生きていくことになります。
 病気とともに生きていくというのは、なかなか大変なことです。日々、病気とうまく折り合いをつけながら自分の生活を維持していかなければなりませんし、やりたいことをするのに一苦労ということもあります。

 慢性疾患をもってしまった人がよりよい人生を送るためには、病気から生じるさまざまな課題に対処し、乗り越える力が必要になります。私は、このような力を患者力と呼びたいと思います。

慢性疾患の人が直面する3つの課題

 1980年代初頭、米国スタンフォード大学 医学部 患者教育研究センターでは、慢性疾患をもつ人たちがどんな課題に直面するか調べるため、聞き取り調査を行いました。そこで浮かび上がった課題は、大きく以下の3点に集約されました。

1.治療に関する課題
 慢性疾患をもつ人の多くは、一時的に入院することはあっても、ほとんどの期間、病気をもっていない人と同じように在宅で生活することになります。病院に行くのは定期受診のときだけで、いつも医師が近くにいるわけではありませんから、普段の病気の管理は自分で行います。自分の病状を把握して、定期的に受診したり、きちんと薬を飲んだり、自分で自分の病気を管理する必要があるのです。

2.社会生活に関する課題
 病気とともに生きていく上で、大変なのは治療に関することだけではありません。たとえば仕事をしていたり、家事や育児があったり、友人とのつき合いがあったり、病気になっても続けなくてはいけないことや、続けたいことがあります。
 慢性疾患にかかってしまうと、活動時間や食事、運動、通院などで、日常生活に制限が課せられることもあります。その制限の中でどのように社会生活を続けていくかは、多くの人にとって頭の痛い問題です。

3.感情に関する課題
 たとえば生活習慣病になって食事を制限されると、食べたいものを我慢してイライラしてしまうことがあります。また、病気のことで将来の不安を感じ、なぜ自分がこんな病気になってしまったのかと怒りに似た思いを感じることもあります。感情的に不安定になると家族や友人との関係が悪くなってしまったり、眠れなくなったり、生活のさまざまな場面に悪影響が出ます。

自己管理で3つの課題に立ち向かう

 スタンフォード大学では、調査から見えてきた3つの課題を解決できるよう支援するため、慢性疾患セルフマネジメントプログラム(Chronic Disease Self-Management Program;CDSMP)を開発しました。CDSMPは8~16名の少人数によるワークショップ形式で開かれ、さまざまな病気をもつ人が病名を問わずに参加できます。進行役も慢性疾患をもつ人が務め、それぞれが生活で直面している問題について話しながら、自己管理の技術を学びます。まさに、患者力をつけるためのプログラムと呼んでよいでしょう。

 病気の自己管理というと、服薬や運動など、病気の治療や改善に関することだけを学ぶように思われるかもしれません。たしかに、運動の大切さや薬を忘れないようにする方法なども学びますが、CDSMPは上記の3点の課題に対処することが目的なので、治療に関すること以外の自己管理技術も学びます。
 たとえば、病気をもちながら社会生活をうまく送るためには人間関係をよくすることが大切ですから、良いコミュニケーションをとるための方法を学んだり、自分の感情とうまくつき合っていくため、欲求不満やイライラ、不安感に襲われたときに対処する方法を学んだりもします。

 ただし、慢性疾患をもってしまったとき、すべてが自己管理で解決できるわけではありません。自分の病状を知り、自己管理で解決できる範囲を考えながら、必要に応じて他者に支援を求めることや、今は解決できないこととして受け入れていく必要があることも、CDSMPでは伝えています。

やりたいことをするための自己管理

 自己管理と言われると、運動をさせられるとか、誰かにやらされるというイメージをもつ人もいるかもしれませんが、自己管理は本来、自分の生活をよくするために行うものです。CDSMPに参加した人の中には、参加後に新しいことを始める人も多くいます。それは、主体的に生活の自己管理を行えるようになった結果、自分と向き合い、積極的な生き方ができるようになったからだと思います。
 もちろん病状によって程度の差はありますが、病気になったからといって、すべてをあきらめる必要はありません。そうした意味で、慢性疾患をもつすべての人にとって、自己管理の技術を学び、患者力をつけることが役に立ちます。

 また、CDSMPには病気をもつ人の家族や医療従事者も参加できますが、そうした人の中には病気になる前に自己管理の技術を知ることができてよかったと言われる人もいます。病気になる前に患者力をつけておくことも、リスク管理の意味でよい方法かもしれません。

CDSMPの日本での展開

 CDSMPは、現在米国をはじめ、世界20カ国以上で展開しています。日本においては2005年に任意団体として日本慢性疾患セルフマネジメント協会が設立、2006年には特定非営利活動法人格を取得して、CDSMPのワークショップを開催しています。2013年3月末日現在、全国16都道府県で153回のワークショップを実施し、参加者数は1,400名を超えました。

 日本慢性疾患セルフマネジメント協会のミッションは「完治しない病気をもつ人たちが、充足感のある自立した生活を営むことができるよう支援すること」であり、CDSMPを用いて患者力をつけることを支援する運動を広げています。
 CDSMPのワークショップ進行役は、以前に同ワークショップに参加したことがある人の中から希望者を募り、5日間の研修を修了した人に担当してもらいます。現在、全国に約60名程度いる進行役は、自身も病気をもち、CDSMPで自己管理の技術を身につけた人たちです。患者力をつけた人が、さらにそれを人に伝えていくという、よい循環が生まれています。

【執筆】
武田 飛呂城さん


特定非営利活動法人 日本慢性疾患セルフマネジメント協会 事務局長
1978年生まれ。生後すぐ血友病Aと診断され、非加熱血液製剤を使用しHIVやC型肝炎などに感染(薬害エイズ事件)。2002年、早稲田大学社会科学部卒業後、フリーライターとして活動。日本国内でCDSMPを展開するため、05年に日本慢性疾患セルフマネジメント協会が設立されたことに合わせて、同事務局で勤務開始。07年に米国スタンフォード大学医学部患者教育研究センターで開催されたCDSMPマスタートレーナー研修に参加、修了し、国内のCDSMP進行役の育成に従事している。11年より現職。

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