高齢者の暮らしを支える「地域包括ケア」とは-重要な5つの要素

住み慣れた地域での高齢者の暮らしを支える新しい仕組み

住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供できる支援体制の構築が目指されている

地域包括ケアシステムは、高齢者の暮らしを支える新しい仕組み

 現在わが国は高齢化率約25%、4人に1人が高齢者です。総人口がゆるやかに減少するなか、高齢者人口は増え続け、ますます高齢化が進んで約40年後の2055年には高齢化率約40%、2.5人に1人が高齢者になると推計されています(「平成25年版高齢社会白書」)。世帯構成は、世帯主が65歳以上の単身世帯や夫婦のみの世帯、つまり介護力の弱い小さな世帯が増加し、2035年には全世帯の約28%を占めることが予測されます。(厚生労働省 平成25年「都市部の高齢化対策の現状」)

 私たちの未来にはどんな暮らしがあるのでしょうか。たとえ要介護状態になってもできる限り住み慣れた地域で、わが家で、自分らしく暮らしたいものですね。そのためには高齢者の暮らしを支える新しい仕組みが必要です。今回はその新しい仕組み「地域包括ケアシステム」についてご説明しましょう。

 日々の安全・安心・健康を確保するために、一人ひとりの暮らし方に合った住まいを中心に、医療や介護、予防だけでなく、福祉サービスを含めたさまざまな生活支援サービスが一体的に提供できる地域の仕組みを「地域包括ケアシステム」といいます。おおむね30分以内で駆けつけられる範囲(中学校区)を理想的な圏域として、市区町村や都道府県がそれぞれの地域の特性を考えながらつくり上げていくことが求められています。
 前回ご紹介した「地域包括支援センター」は、この「地域包括ケアシステム」の中核機関となる施設です(『地域包括支援センターって何?』)。

【参考】厚生労働省HP「地域包括ケアシステム」

地域の保健・医療・福祉の協働の実践から提唱された「地域包括ケア」

 「地域包括ケアシステム」の概念は、1970年代、広島県御調町(みつぎちょう、現 尾道市)の御調国保病院(現 公立みつぎ総合病院)が、脳卒中などの後遺症患者の長期的なかかわりを通じて、治療のみならず、生活支援としてのケアが医療と同等に必要であると考え実践したことが始まりです。地域の保健・医療・福祉の協働という実践から「地域包括ケア」が提唱されました。

【参考】高橋紘士編『地域包括ケアシステム』オーム社

 その後、2012年の介護保険法改正で「地域包括ケアシステム」の推進が盛り込まれ、厚生労働省は、団塊世代が75歳を超え、高齢化率が30%に上昇する2025年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活支援の目的のもと、地域包括ケアシステムの構築を推進するとしています。今後、認知症高齢者の増加も見込まれ、認知症高齢者を地域で支えるためにも、このシステムを構築し実現することが期待されています。

地域包括ケアシステムを構成する5つの要素とは

 次にあげる鉢植えの植物は「地域包括ケアシステム」を構成する5つの要素を表しています。生活の基盤となる「すまいとすまい方」は植木鉢に、「生活支援・福祉サービス」は植木鉢に満たされ養分を含んだ土にたとえることができます。そして、このような土がなければ育つことができない植物が、専門的なサービスである「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・予防」です。この5つの構成要素が互いに連携しながら在宅の生活を支えています。

○住まいと住まい方
 地域包括ケアシステムではプライバシーと尊厳が十分に守られた「住まい」が整備され、本人の希望にかなった住まい方ができることが前提になります。具体的には自宅の住環境整備やサービス付き高齢者向け住宅の整備などが必要とされます。

○生活支援・福祉サービス
 心身の能力低下、経済的理由、家族関係の変化などさまざまな状況の中でも、尊厳ある生活ができるよう生活支援を行います。ここには食事の準備・見守りなどサービス化できる支援から、近隣住民による声かけ・見守りなどの支援まで幅広い支援があり、担い手も多様です。生活困窮者などに対しては、福祉サービスとして提供されることもあります。
 このような養分を含んだ土があって初めて、次の要素である「介護・医療・予防」が効果的に役割を果たすことができます。

○介護・医療・予防
 一人ひとりのニーズに応じ、「介護・リハビリテーション」「医療・看護」「保健・予防」がマネジメントに基づいて提供されます。提供者は専門職です。ここでは、医療機関やケアマネジャー、地域包括支援センターなどが協働し、特に医療と介護の連携が課題となっています。

○本人・家族の選択と心構え
 一人暮らしや高齢者のみの世帯が主流となり、在宅生活の選択が必ずしも「家族に見守られながら自宅で亡くなる」ことにはならないことについて、本人・家族の理解と心構えも重要となります。

【参考】平成24年度 厚生労働省 老人保健健康増進等事業による「<地域包括ケア研究会>地域包括ケアシステムの構築における今後の検討のための論点」

利用者から見た地域包括ケアシステム

 地域包括ケアシステムの概要と5つの要素について、簡単に説明しました。次に、地域包括ケアシステムを利用しながらの生活とは実際どういうものなのか、利用者であるAさんを例に5つの要素に沿って見てみましょう。

<Aさんの暮らしを支える地域包括ケアシステム>
 海沿いの町で暮らすAさんは72歳。昨年、長年この町で一緒に暮らした夫を亡くし、現在一人暮らし、2人の子どもは独立して遠方で暮らしています。

[医療]ある日Aさんは体調不良で病院を受診、直腸がんが発見され、車で約20分の総合病院に入院・治療となりました。とても心細い毎日でしたが、Aさんは必要な治療を受け、順調に回復しました。
[介護・リハビリテーション]ところが、持病の骨粗しょう症が原因で歩行状態が不安定に。このまま自宅に帰るのは不安があります。そこで介護保険のサービスを活用しようと要介護認定を受け、要介護2と認定されました。Aさんは総合病院を退院し、近くの老人保健施設へ入所。生活に必要なリハビリを行って足腰の機能もだいぶ回復し、入院から3カ月後に自宅に戻ることができました。

[住まい]住み慣れた自宅は落ち着きますが、元気なときには問題がなかった転倒などの危険がいっぱいです。そこでトイレや浴室などに手すりを取り付け、段差を解消し、不要な物は処分して、安心できる住環境を整備しました。
[生活支援・福祉サービス]毎日の生活では食事や買い物、ゴミ出しなどが心配でしたが、地域包括支援センターの相談員の紹介で、NPOやボランティア団体が低料金で提供する地域サービスの利用を始めました。自治体で行っている緊急通報サービスも無料で利用することができ安心です。

[医療・看護]総合病院まで定期的に通院することは大変です。主治医とかかりつけ医(徒歩5分のクリニック)が連絡をとり、かかりつけ医が継続して治療をしてくれることになりました。必要に応じて訪問看護や、訪問診療も受けられることを聞き安心しました。
[介護・リハビリテーション]Aさんには地域サービスによる支援以外の家事援助や、入浴介助なども必要です。また、じっと家の中にいるだけでは気持ちもふさぎます。ケアマネジャーと相談して近所の小規模多機能型居宅介護と契約し、訪問介護サービス(買い物や掃除などの家事支援)、デイサービス(送迎付きで食事や入浴、アクティビティ)、ショートステイ(短期間の宿泊)の利用ができるようになりました。専門的なスタッフが近くにいてくれて心強い毎日です。介護がもっと必要になったら施設に入る覚悟をしていましたが、24時間町を巡回している「定期巡回、随時対応型訪問介護看護サービス」を利用できるとのこと、これなら一人でも自宅で長く生活できそうです。
[保健・予防]家族のほかにも近所の友人や町内会の方々が様子を見にきてくれます。「困ったときはお互い様」と皆で笑うのが一番のストレス発散です。近くの福祉保健センターで開かれる健康講座にも通い始めました。

[本人家族の選択と心構え]年老いて一人暮らしになり、病気にもなったけれど、Aさんは地域のさまざまな人に支えられていることに驚いています。「地域包括ケアシステム」という社会の仕組みについて、地域包括支援センターの方がわかりやすいパンフレットで説明してくれました。今までできていたことができなくなる、不便も不安もあるけれど、できる限り自分の力で、自宅で暮らし続けられるよう工夫してみようと思っています。緊急時に備えて大切なことを「自分ノート」にまとめて書くことも少しずつ始めました。
 Aさんは庭に訪れる鳥の声を耳にしながらこれまでの人生に感謝し、これからまだまだしたいことを考えながら過ごしています。

 このように「住まい」が整備され、そこでの生活に必要な「生活支援」が地域(生活の場)で受けられ、専門職による「医療・介護・予防」などを一体的に受けられることで、Aさんは住み慣れた地域で、自宅でずっと暮らしていくことが可能になります。Aさんの生活は地域包括ケアによって支えられているといってよいでしょう。
 地域包括ケアシステムをどのようにつくり上げるかは各自治体によって異なるため、皆さんのお住まいの町のそれぞれの取り組みが期待されています。
 次回は、自治体の具体的な取り組み例などをご紹介します。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
川上 由里子先生


ケアコンサルタント
ケアマネジャー、看護師、産業カウンセラー、福祉住環境コーディネーター2級。1984年より13年、大学病院、高齢者住宅などで看護師として勤め、三井不動産(株)ケアデザインプラザの立ち上げに参画。現在はUR都市機構ウェルフェア研究室室長や各企業の高齢者、介護関連のアドバイザーとしても活躍し、シニアライフに関するコンサルティングの他、講演、執筆多数。高齢者支援のみならず、支える人を支えるメッセージを各方面に発信。希望は心と心を結ぶケアを広げていくこと。著書に『介護生活これで安心』(小学館)。現在、ニッポン放送「徳光和夫とくモリ!歌謡サタデー」出演中。2008年より自身も父親の遠距離介護を体験している。

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