高齢者の歩行を助ける-運動前の足浴や足裏のマッサージが効果的

運動前の足浴と個別指導が下肢筋力の向上に効果的

一人ひとりに合った運動指導と心理的側面を充足させるアプローチによって、効果的に身体機能を高められる

介護予防のための運動へのニーズは高いが、より効果的な運動が求められる

 2013年の日本の高齢化率は25%を超え、介護保険受給者も増加の一途をたどっています。2014年の国立社会保障・人口問題研究所の報告では、2035年には全世帯のうち高齢世帯(世帯主が65歳以上の世帯)の占める割合は40%を超え、そのうち一人暮らしが約38%になると予測しています。

 高齢世帯の比率は秋田県の約52%を最高に、特に地方で高い傾向があります。一方、一人暮らしの高齢世帯の比率は東京都などの都市部で高く、地方から出てきた団塊世代が配偶者を亡くして一人暮らしとなり、特に男性ではなじみのない地域での生活が考えられます。
 地方と都市部のどちらにも共通するのは、独居や外部とのコミュニケーション不足から家に閉じこもることで、ますます身体機能や認知機能が低下し、要介護高齢者の増加につながることが危惧されます。これは本人だけではなく、同居する、あるいは遠くにいる家族にとっても悲しいことです。

 増加する要介護認定者の中でも、要支援や要介護1の軽度要介護に該当する高齢者は急増しており、認定者の約半数を占めるまでに至っています。そこで、これら軽度要介護や身体機能が低下しつつある高齢者に向けて、介護予防のためのデイサービスや運動教室が行われています。

 特に運動教室は、日常生活の維持に重要な下肢筋力や歩行機能などの維持・向上が見込めることからニーズは高まっています。さらに、運動には認知症予防にも効果があるなどの成果が出始めており、利用者一人ひとりに合ったより効果的な運動が求められているといえます。しかし、その内容は全員がいすに座って同じ運動を行うだけだったり、きちんと身体機能の計測まで行っている例は少なく、正しく十分な評価が行われていないのが現状です。

運動前の足浴とマッサージが運動効果を高め、コミュニケーションも促進

 高齢者が要介護状態になる要因の上位に、転倒による骨折が挙げられます。転倒の発生には下肢筋力、歩行機能、バランス機能が密接に関係していることから、足部の機能の向上が求められます。そこで今回は、神奈川県横浜市のデイサービスセンター・ワイズパークでの興味深い取り組みを紹介します。下の写真はワイズパークで取り入れられている足浴の様子です。利用者は、運動を始める前に足をお湯に入れて足浴し、看護師資格を持つ運動指導のスタッフなどが足部のマッサージを行います。ワイズパークのスタッフは、全員がアスレティックトレーナであることも特徴です。

 足浴と足部のマッサージの良い点は、(1)運動前に足部を刺激し可動域を向上させることで、運動効果を高めることが期待できる、(2)運動中の転倒などの事故を予防できる可能性がある、(3)高齢者とスタッフのコミュニケーションが促進され、信頼関係が構築できる、(4)何より高齢者自身にとって気持ちがよく快適、の大きく4つが挙げられます。

 利用者の多くは、脳梗塞などを経験して麻痺(まひ)があったり、パーキンソン病で身体機能に不安がある、軽度の認知症で外部との接触に不安があるなど、さまざまです。運動指導の目的は身体機能を高めることと、そのレベルを継続することですが、身体機能ばかりに着目してしまうと、対象者の背景や想いが見えなくなってしまいます。
 初めて足浴とマッサージを経験した利用者はたいてい「こんなことをしてもらって申しわけない」とか「とても気持ちがいい」と言います。そして、リラックスして気分もほぐれるのか、病気のことやこれまでの仕事のこと、出身地のことなどを話したりして、スタッフやほかの利用者とコミュニケーションをとることができます。身体機能だけではなく、こころにまで踏み込んだ運動指導の形がここに実現できているといえます。

 ここでの運動指導の流れは、A 足浴とマッサージ、B 一人ひとりのパーソナルトレーニング、C グループでの運動指導、D マシンを使ったトレーニング、となります。利用者それぞれの身体機能や状態によってメニューは異なりますが、股関節や肩関節などの可動域向上、歩行機能や下肢筋力の向上など、日常生活の維持に必要な項目が向上するよう工夫されています。

運動指導により、特に転倒リスク群で下肢筋力が向上

 図1、2はデイサービス利用者の6カ月間の運動指導による下肢筋力の変化を示したものです。図1は膝下の筋力を表す足指力の計測結果で、横軸は運動前の、縦軸は運動6カ月後の結果を示しています。縦軸と横軸に破線がありますが、それを下回る人が転倒リスク群(転倒リスクの高いグループ)に該当します。●印が図中斜めに引かれた線よりも上に位置しているのは、結果が向上したことを意味します。

 図1では下肢筋力が幅広く分布していることから、それぞれの利用者の特性に合った運動が求められることがわかります。つまり全員がいすに座って同じ体操をするだけでは、十分な運動機能の向上は期待できないことが予測されます。
 運動前に転倒リスク群に該当し、運動後に足指力が低下したのは1名(この1名は左右ともに低下)でした。そのほかは、パーキンソン病などさまざまな疾患を持っていても足指力が向上しました。特に、運動前に転倒リスク群に該当した4名は、運動後には足指力が大きく向上し、非転倒リスク群へと変化しました。このことは、デイサービスを利用する虚弱高齢者にとって意義が大きいと考えられます。

 図2は膝間力の計測結果で、転倒リスク群に該当した利用者で運動後に低下した人はいませんでした。ここでも計測結果は幅広く分布しており、股関節や膝関節周辺、あるいは体幹を保持する筋機能を高める運動を選択的に行うことが求められることがわかります。

 図3は足圧分布の計測結果の1例です。この例は、運動前は足指が十分に地面に接地せず、中足部が硬くハイアーチ傾向(拇趾から踵にかけての縦アーチが高く盛り上がった状態)で、前足部の横アーチも低下気味でした。しかし、運動6カ月後にはこれらが解消されてよい状態へと変化していることがわかります。

 このように、足部の機能を高める運動をそれぞれの利用者の身体機能に合わせて指導し、加えて足浴を取り入れて心理的側面を充足させるアプローチを行うことで、効果的に身体機能を高められることがわかりました。このデイサービスに通う利用者の多くは、長くリハビリを行ってきたにもかかわらず歩行が困難でしたが、この運動指導を受けることでかなり安定した歩行ができるようになり、身体機能が改善していることが確認できています。
 足浴や足裏のマッサージなどは、自宅でも気軽に実施できます。専門的な指導と自宅でできる日常的なケアの両方を進めることで、継続的な身体機能の向上が期待できることは、これからの超高齢社会に有意義な成果だと考えられます。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
山下 和彦先生


東京医療保健大学医療保健学部医療情報学科教授 
2005年東京医療保健大学医療保健学部医療情報学科講師、07年准教授を経て、13年から現職。専門分野は医用生体工学、高齢者福祉工学。特に身体機能計測を用いた高齢者の転倒予防指導やメディカルフットケアおよび子どもの身体発達支援、リハビリテーション支援の技術開発など。日本生体医工学会、日本生活支援工学会、日本医療機器学会、ITヘルス学会などに所属。

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