心の中の不安や葛藤が招く「不安障害」-不安がある人の言動とは

強い不安から日常生活や仕事に支障が

若い働き盛りに多いパニック障害、人との交流を避けがちな人に社会不安障害。どちらも治療は薬と精神療法で

誰の心にも不安はあるもの

 人間の心に不安や葛藤はつきものです。ましてやストレスの多い現代社会に生きる者にとって、なんの不安も抱えずに一生を過ごすことは不可能といってもいいのではないでしょうか。仮に「自分には、不安というものがまったくない」という人がいたとしても、それは意識されていないだけのことかもしれません。心の奥底にはなんらかの不安や葛藤が潜んでいて、なにかのきっかけでそれが強くなると、いろいろな言動となってあらわれてきます。

 心の中の不安は、次のような言動であらわされることがあります。
(1)不安そのものを訴える
(2)直接不安を訴えるのではなく、イライラ感であらわす
(3)周囲の人たちに甘えたり、わがままを言ってあらわす
(4)周囲への攻撃性や敵意性であらわす
(5)「もし~だったらどうしよう」というように強迫的な訴えや確認行為であらわす
(6)漠然とした不安を感じる
(7)原因不明の身体症状(どうき、頭痛、めまいなど)であらわす
(8)ちょっとした身体的変調を大げさに気にするなど、心気的な訴えが多くなる
(9)薬、アルコール、食への嗜癖(しへき)がみられる―など。

現代人が陥りやすい2つの不安障害

 不安が病的なレベルにまでなった場合を、精神医学的には「不安障害」と大きく分類します。さらにその中の代表的なものとして、「パニック障害」と「社会不安障害」が、現代人が陥りやすい心の病気として最近注目されてきました。

●パニック障害
 あるとき突然、呼吸困難感、激しいどうき、発汗、めまい、手足のしびれ・冷感などの発作に見舞われ、これが繰り返しおこります。こうした症状がおこったときには「死ぬかもしれない」という恐怖を感じ、またおこるかもしれないという不安から、発作をおこしそうな場所や乗り物を避けようとします。身体的な原因はないので、詳しく調べてもわかりません。治療には抗不安薬や抗うつ薬による薬物治療と精神療法が行われます。

 パニック障害はいまや、心療内科の外来で最もポピュラーな心身症といわれています。患者の多くは働き盛りにある若い人というのも特徴的です。対人関係など社会的な適応は良好です。仕事に熱心でバリバリ働くようなタイプのため、過労になりやすく、精神的にまいってしまう前に体の症状としてあらわれるのです。例えば、徹夜続きの後とか、かかわっていた大きな事業が一段落したときなどに発作がおこりがちです。

●社会不安障害
 普通は緊張したり不安を感じたりするような状況ではない場面でも強い不安を感じ、手足の震えやどうき・息切れ、赤面や多量の発汗などの症状があらわれます。例えば大勢の人前で話をしようとするとき、非常に緊張してしまい、前述のような症状が出て話ができなくなってしまうとか、1対1のような場面でも、緊張からどもったり、言いたいことが言えなくなるようなことです。
 わが国では以前は不安神経症と呼ばれていた症状の一部で、「対人恐怖症」とも言われてきました。これらの状況を避けようとするあまり、日々の仕事や生活に支障をきたしてしまいます。パニック障害と同様の治療が行われます。

 社会不安障害はパニック障害と比べると精神的な症状が主体です。社会的な適応も良好とはいえず、人に対してきちんとしたあいさつをしない、またはできないなど、性格的な問題を感じさせる患者も少なくないようです。人との交流を避け、一日中自室にこもってパソコンに向かったり本を読んだりするような傾向もみられます。

薬物治療と精神療法の2本立て

 パニック障害、社会不安障害を含めた不安障害の治療では、一般的に薬物治療と精神療法が一緒に行われます。

 薬物治療の目的は、ストレスが重なって崩れてしまった脳内ホルモンのバランスを治すことです。具体的には、約150億個もある脳の神経細胞に情報の信号を伝える神経伝達物質の作用を調整するのです。

 一方、精神療法で最も基本的なものは、「支持的精神療法」といわれるカウンセリングです。これにはまず、患者の話をじっくりと聞き、その訴えを十分に聞き入れます。次いで、患者を見舞っている病気の病態や症状について十分説明し、その上でこれからの治療法を示して患者の承諾を得ます。
 そして、たとえこの後発作がおきたとしても死に結びつくような事態にはならず、徐々に発作の頻度は少なくなって治癒に向かうことを説明し、患者に「保証」を与えます。このようなかたちで治療についての「安心感」を患者に与えてくれる医師に受診することが、不安障害を治療するにあたっては望ましいことだと言えます。
 精神療法では、まだわが国ではそれほど行われていませんが、「認知行動療法」(たとえば、誤った思い込みを修正して苦手な場面に慣らしていくという治療法)が、今後普及していくと考えられています。

 また、不安をコントロールする方法として、鼻でゆっくり息を吸って口から細く長く吐き出す「呼吸コントロール」や、イスに座って全身の筋肉を足の先から順番に弛緩させていく「漸進(ぜんしん)的筋リラクゼーション」などが効果があります。
 同時に、休養を十分とり、運動で汗をかいたり、家族や友人に愚痴をきいてもらうなど、日常生活でストレスをためないようにすることも大切です。

(『社会不安障害・パニック障害がわかる本~不安障害の理解と対処』 福西勇夫編著、法研より)

【監修】
福西 勇夫先生


南青山アンティーク通りクリニック理事長・院長
1984年徳島大学医学部卒業、医学博士。専門はリエゾン精神医学。アメリカでの臨床および研究経験が豊富で、薬物療法、精神療法、家族指導に精通している。東京都精神医学総合研究所勤務を経て、03年より現職。ハーバード大学マサチューセッツ総合病院客員教授も兼務。国内向けの著書に『こころのファイル』(南山堂)、『統合失調症がわかる本』(法研)など多数。

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