高次脳機能障害とは-症状や3つの主な原因|社会支援制度など

交通事故や脳卒中の後遺症で記憶や言葉、集中力が障害される

外見上はわかりにくく本人も自覚がない障害者が約30万人。障害者と認定されると公的な支援が受けられる

身近な人が突然変わってしまったら

 私たちの周辺には、怒りっぽい人、物覚えがよくない人、約束をしょっちゅうすっぽかす人などが時々います。しかし、この人たちは周囲から、「困った性格だ」などとため息をつかれはするでしょうが、病気とまでみなされることはほとんどないでしょう。
 ところが、「高次脳機能障害」という病気では、このような言動が「症状」の一部として見られます。ここで病気の人とそういう性格の人とを分けるのは、脳の損傷というアクシデントがあったかどうかという点です。厚生労働省によると、このような障害者が2004年の時点では、全国に約30万人いるとされています。

 高次脳機能障害とは、脳の一部が損傷されたために失語症(他人の言葉を理解できない、自分でうまく表現できない)、記憶障害(さっき言ったこと・言われたことを忘れるなど新しいことを覚えることが難しい)、注意障害(注意を向ける体力がなく、ものごとに集中できない)など、脳の高度で複雑な機能に障害が起こるものです。
 一見したところ、手足の運動機能障害のように明らかな変化として見えないために周囲からはわかりにくいのですが、今までには見られなかった上記のような症状が突然あらわれ、まるで性格が変わってしまったような反応が周囲の人たちを戸惑わせてしまうことがあります。

 高次脳機能障害には、上にあげた以外に次のような症状があります。これらがすべてあらわれるわけではなく、脳のどの部分を損傷したかにより、症状は異なります。

・易(い)疲労性:急性期に多く見られ、精神的に疲れやすい。日中でも眠りやすく、起きていてもボーッとしている。
・発動性の低下:自ら動き出すエネルギーがわかず、ものごとを他人から言われないと始められない。
・脱抑制・易怒(いど)性:あとさきを考えず行動してしまう。いわゆるキレやすい。
・判断力の低下:ものごとを自分では決められない。
・遂行機能障害:行動が行き当たりばったりで、計画して実行することができない。
・失行:手足は動くが、指示された動作や意図した行動がとれない。
・失認:身近なものの色や形、親しい人の顔が見分けられない、体を認識できない。
・見当識の障害:時間と場所の感覚がない。
・病識の欠如:自分自身の障害が認識できず、障害がないかのような言動を見せる。

障害をもたらす3つの主な原因

 高次脳機能障害をもたらす主な原因として、脳血管障害、脳外傷、低酸素脳症などがあげられます。

 脳血管障害は脳卒中とも呼ばれ、脳の血管が詰まったり破れるなどして、脳の機能が十分に働かなくなる病気の総称です。死亡や寝たきり状態をもたらすことも多い、重要な生活習慣病の一つです。

 脳外傷は、脳を覆っている頭蓋骨が外からの何らかの力で損傷され、脳が傷つくものです。原因として多いのは交通事故で、男性に目立ちます。

 低酸素脳症は、本来酸素を非常に必要とする脳に、一時的に酸素が供給されなくなって障害が起きるものです。心筋梗塞などによる心臓停止、窒息、溺水(できすい)、ぜん息、一酸化炭素中毒などが主な原因としてあげられます。

 こうした原因疾患への治療のなかで、意識が戻ってから「何かおかしい」と気づかれることがあります。また、家庭や職場に戻ったとしても、日常生活や社会生活にうまく適応できないことで家族や周囲の人たちが気づくことも少なくありません。

社会的な支援が得られる

 外見からわかる明らかな障害によって日常生活や社会生活に困難が生じている人たちには、障害者福祉の制度による公的な支援が行われています。外見からはわかりにくく本人の自覚もない高次脳機能障害の存在が明らかになって、この人たちへの支援も必要ということから、国は平成16年に診断基準を定めて支援に乗り出しました。

 高次脳機能障害は、脳に何らかの損傷が生じたことが前提になりますから、それをCT(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像)などの画像診断法や脳波などによって確認します。そのほかいくつかの項目を満たした場合に高次脳機能障害と診断されます。原因疾患の治療の過程で主治医が気づくことが多いようですが、ある程度時間がたってから診断を受けるときは、脳神経外科、神経内科、リハビリテーション科、精神科などのある病院に相談するとよいでしょう。

 かかった病院の診断書を添えて市町村の障害者福祉関係の窓口へ「障害者」の認定申請を提出し、各都道府県の審査を経て「障害者」と判定されると障害者手帳が発行されます。この場合、多くは「精神障害者保健福祉手帳」になります。手帳の交付を受けると、リハビリテーションや生活支援などさまざまな社会支援を受けることができます。

 また、国の支援策より以前に、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)が損害賠償の対象としています。交通事故で高次脳機能障害になったと認定されると、自賠責保険から保険金が支払われることになっていて、この場合は国とは別の診断基準が用いられます。

(『高次脳機能障害がわかる本~対応とリハビリテーション』橋本圭司著、法研より)

【監修】
橋本 圭司先生


東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座
1973年東京都生まれ。1998年東京慈恵会医科大学医学部卒業後、東京都リハビリテーション病院、神奈川リハビリテーション病院などを経て、2005年より現職。東京医科歯科大学難治疾患研究所神経外傷心理研究部門客員准教授も兼務。医学博士、日本リハビリテーション医学会専門医。専門はリハビリテーション医学、高次脳機能障害、神経外傷、脳認知科学。主な著書に『高次脳機能障害 どのように対応するか』(PHP新書)など。

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