若い女性に増えてきた多発性硬化症とは-正しい診断と治療法

根治策はないが、早期診断・早期治療でQOLの維持を

適切な情報がなく、病気への認知度が低い、周囲の理解が得られない。しかし、患者数は確実に増え続けている

20歳から40歳ごろに発症する、とくに若い女性に多い神経疾患

 多発性硬化症(MS:Multiple Sclerosis)という病気をご存じでしょうか。原因不明で、脳や脊髄の神経系が障害を受け、体のさまざまな部位に影響を及ぼし、しだいに症状が進行する慢性の病気です。

 20歳から40歳ごろの若い世代に発症することが多く(発症のピークは30歳前後)、日本では約12,000人、人口10万人あたり8~9人と推定されています(全世界では250万人、欧米では50~100人/10万人といわれています)。
 欧米の白人に多くみられ、欧米では若年成人がかかる神経系の病気の中で、最も多い病気のひとつです。日本では欧米に比べると患者数は少ないほうで、認知度も低いのですが、近年患者数が確実に増えていることから、注目すべき病気になってきました。

 女性の罹患率は男性の約3倍。とくに若い女性に多く、発病する時期や、病気の進行が、就労・結婚・妊娠・出産などといった時期と重なるため、その後の生活に大きな影響を与えます。したがって、長期的に生活の質(QOL)を維持することが大切です。そのためにも早期診断・早期治療が重要となります。

原因は不明。症状は多様で、経過も個人差がある

 前述したように、この病気のはっきりした原因はまだわかっていませんが、リンパ球などの免疫系(ウイルスや細菌から体を守る働きをする)が、何らかのきっかけで、脳や脊髄の中枢神経系や視神経を攻撃するようになると考えられています。このように、本来、体を守ってくれる免疫系の異常による病気を「自己免疫疾患」といいます。

 神経は、髄鞘(ミエリン)と呼ばれる脂質でおおわれて保護されています。多発性硬化症では、このミエリンに損傷・破壊がおこり、視神経、脳から脊髄、そして体への神経伝達がうまくいかなくなると考えられています。

 多発性硬化症では、障害を受けた脳や脊髄、視神経の部位により、さまざまな症状が現れます。主な症状としては、視力障害、疲労、四肢の脱力または麻痺(まひ)、しびれ感、しゃべりにくい、歩行や運動の機能障害、膀胱や直腸の機能(排尿・排便)障害、性機能不全などのほか、最近では、うつ状態などの精神的なものや、認知機能の低下などの問題もあげられます。
 症状の程度も、軽症から極度の重症まで幅広く、患者さんによって異なります。最初の症状が現れてから数年以内に急速に症状が進行し、重度の機能障害となる例もあれば、症状が出ても急速な変調が見られず、時間をかけてゆっくり進行する例もあるなど、経過にも個人差があります。

 日本人に多いタイプは「再発・寛解(かんかい)型」といい、新たな症状または既存の症状が現れる時期(再発期)と、症状が落ち着いて安定している時期(寛解期)、をくり返すのが特徴です。初期のうちに、適切な治療を受ければ、ほぼ完全に再発前の状態に回復できますが、治療せずに放置しておくと後遺症を残してしまいます。また、何度も再発をくり返していくうちに、症状や障害が残るようになります。

専門医による正しい診断と治療が重要

 多発性硬化症は、死に直結する病気ではありませんが、前述したような症状が現れることで、生活の質(QOL)は著しく低下します。

 再発や進行を抑えて、病気を抱えながらもなるべく通常の生活を維持するためには、軽症・初期のうちに適切な治療を開始することが大切です。そのためには専門医による早期診断と早期治療がカギになります。

 多発性硬化症の専門医は、神経内科です。正しい診断・治療が行われるには、まず、患者さんの症状の有無や程度、病歴、家族歴を知るための問診が基本となります。そして神経症状を確認するために神経学的診断が行われます。また眼の症状が出ている場合には眼科医の診察も必要です。
 脳や脊髄などの中枢神経系の損傷や病気の程度を客観的に知るには、頭部および脊髄のMRI検査が行われます。特徴的な症状が出ていない段階でも、MRI検査では多発性硬化症を発見することが可能です。そのほか、髄液検査や血液検査なども行われます。以上の結果を総合的に判断して、多発性硬化症なのか、他の病気なのか鑑別診断します。

 多発性硬化症の治療法は、主に3つに大別されます。
(1)急性期の治療法
 急性期には、安静を保つことが第一です。そして神経細胞の炎症や浮腫を解消するために、主にステロイドが用いられ、ステロイド大量点滴治療をします。これをステロイドパルス療法といいます。
(2)再発・進行防止のための治療法
 免疫系の働きを正常に保つことを目的に、インターフェロン‐βを使った薬物治療が中心となります。
(3)慢性期の治療法
 痛み、疲労感、しびれ、ツッパリ感、などといった症状ごとに、お薬を投与する薬物治療や、筋肉の硬直を解消するためのリハビリテーションなどが行われます。これを、「それぞれの症状に応じた治療=対症療法」といいます。

 適切な情報がなく、病気への認知度が低いために、症状があっても正しい診断につながりにくい現状があります。また、周囲の理解が得られないために、特徴的な症状のひとつである疲労感や体の不自由さなどを「なまけている」と誤解されることも多いものです。患者さん本人はもちろん、医療スタッフ、家族、友人、職場の仲間、一般社会での、多発性硬化症に対する正しい理解とサポートが必要です。

【取材協力】
清水 優子先生


東京女子医科大学医学部神経内科講師
東京女子医科大学卒。

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