噛みしめ呑気症候群とは-お腹の張りや頭痛、肩こりの原因は同じ?

緊張やストレスで唾液と一緒に空気をたくさん飲み込んでいる

奥歯を噛みしめることが多いと、それだけ飲み込む空気も多くなる。治療の基本はマウスピース装着

奥歯を噛み合わせると唾液と一緒に空気を飲み込む

 ガスでおなかが張る、ゲップがよく出るなどということはありませんか? それでは、頭痛や肩・首のこり、あごの痛みはどうですか? これら関連がなさそうないくつかの症状が、実は同じ根っこから発生しているかもしれないのです。それは「噛(か)みしめ呑気(どんき)症候群」というあまり聞きなれない病気です。

 「噛みしめ呑気症候群」は、空気を飲み込みすぎてそれが胃や腸にたまるために、胃腸障害をはじめとするさまざまな症状が発生するものです。ゲップやおなかの張りはその典型的なものです。飲み込んだ空気が胃にたまり、逆流して食道を通って口から出てきたものがゲップです。胃にたまった空気が大腸まで移動していくと、おなかが張ります。最終的には多量のガスとなって排出され、おならがたくさん出ます。
 ほかには胃のもたれや不快感などもみられます。胃や大腸に大量にたまった空気は横隔膜を押し上げるため、心臓が圧迫され、胸痛や動悸(どうき)などに見舞われることもあります。

 それでは頭痛や肩・首のこり、あごの痛みはどうして起こるのでしょうか。まず、空気をたくさん飲み込むのは、上の奥歯と下の奥歯を噛み合わせたときに舌が上あごに押し付けられ、唾液(だえき)がのどのほうに流れます。これを飲み込むときに、のどの奥にたまっている空気も一緒に飲み込まれるからです。
 この奥歯を噛み合わせる動作は、ほお、首、こめかみなど物を噛むときに使う筋肉(咀嚼筋:そしゃくきん)に負担をかけ、それがあまり続くようだとそれらの筋肉が疲れて頭、肩や首、あご、目の奥などにこりや痛みをもたらすのです。

 さらにガス症状に悩まされて、においに関連したことから精神症状が発症し、不登校、出社拒否、対人恐怖などの症状が出現することがあり、精神科やメンタルクリニック、心療内科へ受診をすすめられても解決がつきません。

緊張やストレスがもたらす心身症の一つ

 奥歯を噛み合わせることは物を飲み込むときに必ず行う動作の一つ(嚥下反射:えんげはんしゃ)ですから、空気の飲み込みは誰にでもあります。おなかにたまるガスの70%は飲み込んだ空気であるといわれ、ふつう1回に飲み込む空気の量は3~5ccほど。胃にたまっている空気は50ccくらいは正常の範囲ですが、奥歯を噛み合わせる、あるいは噛みしめることが多くなれば、当然その分、飲み込む空気の量も増えます。

 人は緊張やストレスにさらされると無意識のうちに唾液を飲み込みます。それには二つのタイプがあります。口もとを結び、奥歯を噛みしめて飲むタイプと、歯は噛み合わせはせずに、舌全体を上あごにつけて飲み込む(指しゃぶリと同じ動作)タイプがあります。このような動作が度重なる結果発生する「噛みしめ呑気症候群」は、緊張やストレスが引き起こす心身症の一つとされています。

●「噛みしめ呑気症候群」はこんな人に起こりやすい
・うつ気分の人(うつむき加減になりがちで、正面を向いているときより、上下の奥歯が接触しやすい)
・ストレス状態にある人(緊張で無意識のうちに奥歯を噛み合わせてしまう)
・習慣的に噛みしめることが多い人(何かに打ち込んでいるときなどに奥歯を合わせている)
・うつむき加減の姿勢をとることが多い人(たとえば仕事でパソコンに向き合っていると、うつむく姿勢になる)
・習慣、緊張、ストレス状態で歯を合わせなくても、舌を上あごに押し当てる人(舌と上あごで吸い込む動作、指を吸う動作です)

マウスピース装着で奥歯の噛みしめを防ぐ

 これまで紹介したようなさまざまな症状に悩んで、内科、胃腸科、脳外科、循環器科、整形外科などを渡り歩く患者さんがいるそうです。しかし「噛みしめ呑気症候群」なのであれば、どこの診療科へ行っても明確な診断を下すのは難しいかもしれません。各種の検査を行っても、なかなか原因の究明にまで達することができないのが、この病気の特徴ともいえるからです。

 さて、心身症の一つである「噛みしめ呑気症候群」の治療では、噛みしめによって無意識に行われる嚥下反射を、歯科的な方法でブロックします。それがスプリント療法です。同時に、噛みしめを起こす緊張やストレスへの心身医学的な対応も必要になります。しかしながら、この治療では、両者が連携した対応が広く行われているとは、残念ながら言えないのが現状なのです。メンタルクリニックや心療内科の緊張やストレス対応だけでは飲み込みは改善されません。

 歯科の分野で協力してもらうのは、特殊なマウスピースを装着する「スプリント療法」です。マウスピースを下あごあるいは上あごに装着して、奥歯の噛みしめを防ぐことにより、無意識のうちに唾液を飲み込んでしまう嚥下反射の回数を減らします。2~3カ月間くらいは経過をみることになりますが、早い人だと2~3週間後には症状の改善がみられることがあり、この療法だけで「噛みしめ呑気症候群」が治ってしまう人もいます。

 また、うつ状態や不安、緊張などには、薬物療法、自律訓練法などのリラックス法、日常的にストレスにさらされているような場合には医療的なカウンセリングが治療法として考えられています。

(編集・制作 (株)法研)

【監修】
小野 繁先生


ベイサイドさちクリニック院長、鶴見大学歯学部診療教授
1941年横浜市生まれ。東京医科歯科大学歯学部卒。札幌医科大学医学部卒。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科教授(心身医学)、客員臨床教授などを歴任。医師、歯科医師、医学博士、日本形成外科専門医、外科学会認定医、心身医学会専門医、心療内科学会専門医。心療内科学会、森田療法学会、女性のための抗加齢学などの理事歴任または現職。

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