誤解が多い甲状腺の病気-どんな病気があるの? 症状や治療法

専門医に受診して適切な治療を受けることが大切です

ホルモンの分泌異常でさまざまな症状。女性に多く不治の病と誤解されがちだが、正しい治療でほとんどは治る

甲状腺はどこにあって、どんな働きをしているのか?

 甲状腺の病気は誤解されがちです。“甲状腺”という言葉自体が病名だと勘違いしている人も沢山います。そして、甲状腺の病気になると一生治らないものと思い込んでいる人も少なくないようです。とくに、この病気が女性に多いことから、この病気になると妊娠しない、出産にさしさわりがあるという“誤解”まで一人歩きしています。そんな誤解に振り回されないために、甲状腺とその病気についての正しい知識を身につけていただきたいのです。

 甲状腺は、通称“のど仏”の下につながっている気管軟骨の前面に、蝶が羽を広げたように張りついています。重さは約10グラム、大きさはマグロの刺身(やや大きめ)二切れほどで、ホルモンを出す内分泌腺としては人間の体の中で最大です。そうはいっても、健康な人の甲状腺は柔らかくて筋肉に覆われているので触ってもわかりません。ですから、甲状腺が腫(は)れて大きくなったり、硬くなったりして触れるときは、甲状腺の病気が疑われます。

 甲状腺の体内での役目は、ヨードを取り込み甲状腺ホルモンを作って血液中に分泌することです。いわば、ヨードを材料としてホルモンを作る工場のようなものです。甲状腺ホルモンは体の新陳代謝を高め、人間のあらゆる臓器の働きを促進する作用があります。
 甲状腺ホルモンはほかのホルモンと同様に、食べ物には含まれていませんので、食事では体のホルモン量を調節できません。もちろん、材料のヨードの摂取が不足すると甲状腺ホルモンの生産量は減少します。逆にヨードの摂取が多すぎると、甲状腺は故障してホルモンの生産は低下してしまいます。昔から伝わる一般的な日本食には、ヨードを含んだ海藻類も適当に用いられており、私たちには一番よいと思います。

適量の甲状腺ホルモンが体の調子を支えている

 何かの原因で甲状腺ホルモンが多すぎても少なすぎても全身に変調がきて、さまざまな症状が現れます。

 甲状腺のホルモンが多すぎる病気(甲状腺機能亢進症)の多くはバセドウ病です。体中の臓器の新陳代謝が活発になり過ぎるため、見た目にもイライラして落ちつきがなく、暑がりで汗も多く、動悸(どうき)があり脈拍が速く、体重は減少します。しかし、よく食べて、動き回るので、周囲の人からは重症の病気とは思われず、元気そうに見えて誤解されることもあります。この病気の症状で一般によく知られている眼球の突出はおよそ半数の人に見られるものの、全ての患者に現れるわけではありません。
 治療は安静が大切で、ホルモンの生産を抑える薬を服用します。落ち着いたら放射性ヨード治療や手術を受けるのがよいでしょう。

 一方、甲状腺ホルモンが少なすぎる病気(甲状腺機能低下症)の代表的な病気は慢性甲状腺炎(橋本病)による機能低下症です。新陳代謝が低下するので、寒がりで眠たがりになり、汗は少なく乾燥肌で、胃腸の動きも悪く便秘がちで、仕事をする意欲も低下します。これらの症状は長い月日をかけて、ゆっくりと進行するので、本人も家族も見逃してしまうことがあります。
 治療は検査で機能低下の程度を診て、不足しているホルモンを適切に補えば、それで全てが解決されます。手術で甲状腺を切除した場合の機能低下症も適量のホルモン薬を服用すれば、甲状腺がなくても全く問題はありません。

 甲状腺の病気は、発病すると一生治らないと考えている方も多いようですが、専門医による適切な治療を受ければ、決して治らない病気ではありません。ただ服薬する期間が数年に及ぶことがあり、とくに甲状腺機能低下症ではホルモン薬を一生飲み続けなくてはならないこともあります。しかし、「一生薬を飲まなくてはならない」と悲観するよりは、「おなかがすいたのでご飯を食べて元気になる」のと同じように、「不足しているホルモンを飲んで元気になる」と考えて習慣化していくのが大切です。

 機能亢進症にしても、機能低下症にしても、女性の発症率は男性の数倍も高いので、「女性独特の病気だ」と考え、甲状腺の病気にかかると子どもができないのではないかと思い悩む女性が少なくないようです。これも大きな誤解の一つです。甲状腺の病気にかかったとしても、薬の服用など、専門医による適切な指導や治療を受ければ、妊娠・出産は全く問題はありません。

 また、甲状腺にはほかの臓器と同様に、ばい菌による急性化膿性甲状腺炎やウイルスによる亜急性甲状腺炎、良性の腫瘤(しゅりゅう)や悪性の腫瘤(がん)もありますが、いずれの病気も女性に多発します。発病率の性差の理由はまだ明らかではないようです。

甲状腺の病気は症状が多彩で、ほかの病気と間違えられやすい

 甲状腺ホルモンは人間のあらゆる臓器・組織の新陳代謝にかかわっているため、その分泌に変調を来たすと体全体にさまざまな形で影響が現れ、ほかの病気と間違えられることもしばしばです。

 ホルモン分泌が過剰になるバセドウ病は、ちょっと動いただけで心臓がドキドキと脈打ち、頻脈となるため心臓病と間違えられます。脈の乱れ(不整脈)があればなおさらです。のどが渇き、水をほしがるので糖尿病を疑われることもあります。
 いずれの場合も、高齢者では精神病を含めていろいろな病気と誤診される可能性が高く、学生では友達との関係が悪化して登校拒否になったり、先生から怠け者扱いされて退校にいたることさえあります。また、閉経時の女性では更年期障害などを疑われることも少なくありません。

 別の病気と間違えやすい甲状腺の病気を正しく見極めるには、やはり甲状腺専門医を受診するのがよいでしょう。甲状腺専門の施設では1時間もあれば適切な検査と診断と治療方針が得られます。日本甲状腺学会では、学会認定の専門医を都道府県別にホームページ(http://thyroid.umin.ac.jp/)で公開しておりますので、参考にしてください。

(『甲状腺の病気を治す本』栗原英夫著、法研より)

【監修】
栗原 英夫先生


栗原甲状腺クリニック院長
昭和29年東北大学医学部卒業後、東北大学医学部桂外科教室に入局。昭和35年大分県別府市・野口病院に赴任、副院長として5年間勤務。昭和40年岩手県立中央病院に赴任、甲状腺クリニックを開設する。昭和44年アメリカ甲状腺学会会員に選出。昭和56年岩手県立中央病院を退職し、栗原甲状腺クリニックを開設。最近では、中国の吉林(きつりん)大学医学部および哈爾濱(ハルビン)医科大学の名誉教授として、中国での甲状腺臨床の進歩に協力している。

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