過度な上がり性は、社交不安障害かも-身体的な症状と治療法

ここぞ!というときに、能力を十分発揮できていますか?

日常生活に支障をきたすほどの上がり性は、社交不安障害という病気の可能性が。的確な治療で上がり性を克服

単なる「上がり性」か、「社交不安障害」か

 学校では新学期が、社会では新年度が始まりました。入学式、入社式、歓迎会、保護者会、結婚式など、改まった場に出ることが増えるシーズンの到来です。
 初対面の人たちや大勢の人たちが集まる場所、あるいは「ここぞ」という大事な場面で上がってしまい、失敗をした経験は多かれ少なかれ、誰にでもあるでしょう。たいていは場数を踏んで慣れてくると、しだいに上がらなくなるものです。しかし、何度場数を踏んでも上がってしまい、「また失敗した」と後悔する人も少なくありません。

【上がってしまう苦手な場面例】
●初対面の人たちの前あるいは、パーティーや大勢の人たちが集まる場所に出ると、ビクビクして気後れする。
●記帳するところを見られていると、緊張して手が震える。
●公式な席でスピーチすると、段々頭が真っ白になって言葉を忘れてしまう。
●自己紹介をうまく話せない。
●人がいる中で食事をすると、吐き気がしたり、手が震えたりする。
●会議の席で、緊張してわけのわからないことを言ってしまう。
●よく知らない人や、上司または権威のある人と直接または電話で話をすると、声が震えたりどもったりする。
など

 人前に出て話す、書く、食べるなどが苦手でも、慣れてきて克服できる場合は単なる上がり性で、性格や気持ちの問題です。しかし、そういった場面で強い苦痛を感じたり、身体的な症状が現われたり、同じような失敗をくり返すのではないかという恐怖心が募り、人前に出られなくなる(出るのを避けるようになる)など、日常生活に支障をきたすようになると、社交不安障害(SAD:Social Anxiety Disorder)という病気かもしれません。以前は社会不安障害と訳されていましたが、2008年に社交不安障害と改められました。

過度な不安や緊張が、人生のつまずきのきっかけになることも

 社交不安障害とは、人前で注目が集まるような状況で、強い不安や恐怖、緊張を感じ、何か失敗して自分が恥をかくのではないかという心配とともに、赤面、手足の震え、動悸(どうき)、吐き気・嘔吐(おうと)、尿意などといった身体的な症状が現れる病気をいいます。

【身体的な主な症状】
顔が赤くなる、顔が青くなる/顔がこわばる/多量の汗をかく/頭が真っ白になる/めまいがする/声が震える/声が出ない/食事がのどを通らない/口が渇く/息苦しい/手足が震える/動悸がする/吐き気がする/胃腸に不快感を覚える/尿が近い・出にくい など

 社交不安障害が起きる原因は、まだ詳しくはわかっていませんが、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやドパミン(いずれも、意欲や気力といった感情の安定に深くかかわっている)のバランスが崩れてしまうことで神経が過敏になり、不安感や恐怖心、緊張感が強まってしまうと考えられています。

 社交不安障害の患者さんは、日本では約150万人以上いると推測されています。10歳代(思春期)といった比較的若いときに発症することが多く、性格や気持ちの問題と思い込み、病気であると認識されずに、医療機関を受診しないまま、悩みや苦痛を抱えて長年過ごしている人が少なくありません。
 対人場面で上がってしまい思ったようにできないことは、生活の質(QOL)が下がることにとどまらず、受験や就職など人生の岐路で、また、仕事や人づき合いなど社会人としての重要な場面で、本来の能力を発揮することができないということにつながります。それは、恋愛や結婚にもおいても同様です。人生におけるさまざまな場面でつまずいたり支障をきたしたりすることは、人生の質を大きく低下させてしまうといえます。

治療は薬物療法を中心に、心理療法を加えて

 治療可能な「病気」であることがわかったのは、最近のことです。上がり性だと思って長年苦痛を感じていた患者さんが治療によって改善し、「人生が変わった」「生きがいを持てるようになった」という声も聞かれます。
 また、うつ病の患者さんはパニック障害や社交不安障害を併発していることが多く、こういった要素はうつ病が治りにくい、いったん治っても再発しやすい因子となることが、最近の研究で報告されています。この点からも、社交不安障害を早期診断・早期治療する意義は高いといえます。

 治療の目的は、「恐怖や不安を取り除くこと」や「恐怖や不安を感じる状況を避けようとする行動を減らすこと」、そして「日常生活の質を改善・向上させ、その状態を維持することによって、人生の質を改善・向上させること」にあります。治療は薬物療法を中心に、心理療法(認知行動療法など)も行われます。
 上がり性を克服できずに苦痛を感じている人は、一度精神科や心療内科を受診してみてはいかがでしょう。人生を変えるきっかけになるかもしれません。

【薬の主な種類】
●SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
 新しいタイプの抗うつ薬です。神経細胞同士は、シナプスと呼ばれる接合部で神経伝達物質をやり取りすることで、情報を伝え合っています。神経細胞から出てシナプスで情報伝達を終えたセロトニンは、再利用のために神経細胞に再度取り込まれます。元々うつ状態の人は、シナプスでのセロトニン量が少なく、再取り込みが行われるとさらにセロトニン量が減り、感情の安定を崩します。SSRIはセロトニンの再取り込みを阻害することでシナプスでのセロトニン量を確保するもので、社交不安障害の第一選択として使用されることが多い薬です。
 SSRIの治療効果は一般に1~2週間後に現われ、症状は3~8週間のうちにしだいに改善します。症状が十分に改善した後も、一定期間(1年程度)は薬の服用を続けることをすすめられています。
●抗不安薬
 脳神経に作用して感情を安定させ、不安や緊張を緩和する薬。SSRIよりも即効性があります。パニック障害、ストレス障害などの治療に用いられることが多い薬です。SSRIの効果が現われるまでの一定期間、併用されることがあります。ただし、長期間の使用には適さず、短期間の使用に留めるのが望ましいとされます。

【認知行動療法の主な種類】
●エクスポージャー
 不安症状が体に現われても、症状が治まるまで原因となった不安や恐怖を感じる状況に居続ける訓練法です。
●ソーシャルスキルトレーニング
 社交的な場面を想定し、人との接し方を訓練します。
●認知修正法
 対人場面において、必要以上に「自分はダメな人間だ」とか「ほかの人に不愉快を与えている」などといった誤った自己認識を修正させる方法です。
●不安対処訓練
 不安症状が起こった場合の対処法を訓練します。

(編集・制作 (株)法研)

【監修】
山田 和夫先生


東洋英和女学院大学人間科学部教授
和楽会横浜クリニック院長
1981年横浜市立大学医学部卒。同大附属病院、神奈川県立芹香病院などを経て、89年研水会平塚病院副院長就任。その後、92年国立横浜病院精神科医長、94年横浜市立大学医学部附属浦舟病院神経科講師、99年同部長、2001年同医学部附属市民総合医療センター精神医療センター部長(兼助教授)、03年東洋英和女学院大学人間科学部教授、04年和楽会横浜クリニック院長(兼任)。日本病跡学会編集委員長・理事、日本不安障害学会理事、日本自殺予防学会理事ほか役職多数。『不安・うつは必ず治る』『「うつ病」の最新治療情報』『非定型うつ病』『こころが楽になっていくノート』ほか著書多数。

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