認知症の治療に効果的な方法とは-予防するための10の習慣

薬による治療で介護者分を含め年間120万円相当の改善効果

高齢社会では、認知症は誰にも「明日はわが身」。記憶力など認知機能にとどまらない対応が求められています

介護者の「生活の質」も含めた治療効果をチェック

 認知症といえば、本人の記憶力をはじめとする認知機能の変化に気をとられがちです。これに対して最近では、本人の心身の状態から生活の質(QOL)全体を見据えた対応、さらには本人だけでなく介護者をはじめとする家族のQOLまで含めた対応が重要視されるようになってきました。

 日本ではアルツハイマー型認知症が認知症全体の半数を占め、次いで幻視や運動障害が出やすいレビー小体型認知症が約20%、純粋な脳血管性認知症は約10%とみられてきています。このうちアルツハイマー型認知症の治療(進行抑制)には、ドネペジル塩酸塩という医薬品が認められていますが、認知症が疑われる症状があっても、「年も年だから……」と、とくに治療を受けていないケースも珍しくないのが現状です。

 そこで、(社)地域医療振興協会の八森淳医師らは、アルツハイマー型認知症の薬物治療で、認知機能だけでなく、心身の状態からQOLまでを含めて「どれくらい効果が得られるのか」を数値化して、最終的にはその価値をお金にも換算。介護者の介護負担感などのQOLも含めた治療効果を調べました。八森医師は「認知症のためにいくらかかるというコスト計算ばかりでなく、生活の視点からどれだけ効果が得られるのかという本人、介護者にとってのプラス面のデータがあれば治療の意欲も高まるのでは」と話しています。
 なお、本人に関する質問については、本人自身よりも、介護者(1週間72時間以上介護している)が答えたほうが信頼性、妥当性が高いという結果が事前調査で出たため、心の状態も含めて介護者が答えました。

「薬を飲み始めた」人に、明らかな改善効果

 調査では、アルツハイマー型認知症の本人と介護者85組を、「薬を飲んでいない」「飲んでいなかったが、この調査で新たに薬を飲み始めた」「以前から薬を飲み続けている」の3組に分けて、次の項目について14週間追跡しました。

・本人や介護者のQOL
・本人の認知機能
・抑うつ状態
・精神・異常行動
・日常生活動作(ADL)
・日常生活全般
・介護者の介護負担感など

 その結果、「新たに飲み始めた」人たちは日常生活動作を除く全ての項目で明らかに改善。「飲み続けている」人たちでも一部の項目で改善の傾向がみられました。一方「飲んでいない」人では、介護者のQOLや本人の精神・異常行動などで悪化の傾向がみられました。
 こうした、心身の状態をはじめとするQOL全体の改善効果を、ある指標に基づいてお金に換算したところ、本人と介護者で年間60万円ずつ、合計120万円以上に相当すると算出されました。「QOLの改善に価値をつけたうえで医療が行われるのは、本人や介護者、医療者双方の意欲の向上につながります。当然、医療費の面でも考慮されるべきです。」(八森医師)。

25年後に認知症の人は2倍になるとの推計も

 高齢化の進展とともに、認知症の人が増え続けています。2008年時点で全国の65歳以上の高齢者は2,840万人(高齢化率21.5%)。そのうち認知症の人は225万人でした(ただし、約7割は治療を受けていない潜在者)。これが団塊の世代が65歳以上になる2015年には302万人、今の40歳代が65歳以上となる2035年には445万人、すなわち現在の2倍にもなると推計されています(厚生労働省研究班報告による)。
 家族(介護者)など認知症の影響を受ける人まで含めて考えれば、さらに膨大な数となります。認知症は誰にとっても当事者か「明日はわが身」というのが現状なのです。

 認知症を防ぐ確かな方法はまだ明らかになっていませんが、メタボリックシンドロームや生活習慣病を予防するような生活習慣を心がけることは大切です。
 八森先生らの調査研究でも明らかなように、アルツハイマー型認知症は薬によって状態のある程度の改善は可能です。「朝食のメニューにとどまらず、朝食を食べたこと自体を忘れてしまう」ような、認知症が疑われる症状に気づいたら、早めにかかりつけ医や専門医に相談し、より治療効果が高い早めの治療に結びつけましょう。

【認知症予防のために心がけたい生活習慣】
(1)たばこは吸わない。
(2)野菜、果物、魚は積極的に摂る。
(3)栄養バランスのとれた食事を腹八分目、規則正しくとる。
(4)一口30回を目安にゆっくりよくかむ。
(5)適度な運動(ウオーキングのような有酸素運動)を習慣づける。
(6)アルコールはほどほどに。
(7)ストレスは趣味や運動でできるだけ回避、発散を。
(8)仕事と家庭以外の「自分の時間」をつくる(人との交流を増やす・維持する)。
(9)新しいことにチャレンジする。
(10)年に一度は健診などで、健康チェック。

(編集・制作 (株)法研)

【監修】
八森 淳先生


公益社団法人地域医療振興協会 地域医療研究所
地域医療研修センター副センター長
1991年自治医科大学卒業。青森県立中央病院、国民健康保険六戸町立病院、国民健康保険尾ぶち診療所、千歳平診療所、国民健康保険百石病院副院長、百石町保健福祉センター長などを経て、2004年から現職。市立伊東市民病院 臨床研修センターセンター長を兼務。日本認知症ケア学会(評議員)、日本プライマリ・ケア学会(認定指導医)、日本家庭医療学会等に所属。主な研究テーマは認知症の予防・早期介入・支援の地域ネットワークづくり、地域医療、家庭医療、臨床疫学、QOL、ソーシャルサポートなど。

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