大人のぜんそくが増えている? ぜんそくを疑う10の症状と治療法

吸入ステロイド薬を正しく使って“ぜんそく死”を防ぐ

激しいせき込みから命にかかわるケースもあり得るぜんそくは、長期のコントロールが必要

ぜんそく発作は、過敏な気道の炎症と狭窄で起こる

 大人の気管支ぜんそく(以下、ぜんそく)が増えています。ぜんそくの発作は、空気の通り道である気道の粘膜が何らかの刺激に過敏に反応して慢性的な炎症を起こし、狭くなる(狭窄する)ことで起こります。発作時、患者さんは「鼻をつまんで細いストローで呼吸するような」苦しさに見舞われます。激しい発作が長時間続けば、命にかかわることもあります。
 成人ぜんそくは、小児ぜんそくが再発するケースもありますが、40歳以降に初めて発症するケースも珍しくありません。そのため、下記のようなぜんそくの症状を見過ごさないことが大切です。

●ぜんそくが疑われる主な症状
(1)かぜをひくと咳(せき)が長く続く
(2)運動した後、ゼイゼイ・ヒューヒューといった呼吸をしたり、息苦しくなる
(3)たばこや線香の煙などで、むせて息苦しくなる
(4)激しくせき込む
(5)呼吸のたびにゼイゼイ・ヒューヒューといった音がする
(6)息苦しく、特に吐くときに苦しい
(7)横になっているより、起きていたほうが呼吸が楽である
(8)ねばりのある痰がたくさん出る
(9)せき込みなどの症状は深夜から明け方に起こりやすい
(10)せき込みなどの症状は一時的だが、何度もくり返す
*最近では、症状が咳だけの咳ぜんそくも増えています。

 ぜんそく患者の気道は、発作は治まっても慢性の炎症状態にあります。したがってその治療には、普段は長期管理薬として気道の炎症や狭窄を抑える薬剤を使い、それでも発作が起こってしまったときには、目前の息苦しさを和らげるために、発作治療薬として素早く気道を広げる強めの薬剤を一時的に使います。
 長期管理薬には、気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬や気道を広げる長時間作用性β2刺激薬があり、発作治療薬には気道を広げる吸入の短時間作用性β2刺激薬や、飲み薬や注射で用いるステロイド薬があります。

吸入ステロイドへの抵抗感がまだ強い?

 薬剤をきちんと使用しなかったり日常生活での配慮などをおこたった場合、ぜんそくのコントロールがうまくいかず、命にかかわることもあります。日本では、2009年のぜんそくによる死亡者数は2,137人、人口10万人当たりの死亡者数を示す死亡率は1.7となっています(厚生労働省『平成21年人口動態統計月報年計(概数)』)。
 このところ日本のぜんそく死亡率は明らかな低下傾向にあり、昭和大学医学部の足立満教授はその背景として、「長期管理薬に吸入ステロイド薬が普及してきたことが大きい」と見ています。日本のぜんそく治療の標準となっている『喘息予防・管理ガイドライン2009(成人)』でも、重症度にかかわらずどの段階のぜんそくの治療でも、まず吸入ステロイド薬を使うことになっています。

 ただし、死亡率は明らかな低下傾向にあるといっても、欧米と比較するとまだ十分ではありません。主な先進国のぜんそくによる死亡率は、日本の1.7に対して米国1.3、オーストラリア1.1、“ぜんそく治療先進地域”である北欧のフィンランドにいたっては0.3にまで減少しています(いずれも2004年)。日本のぜんそく死亡率は、先進国の中では必ずしも低いとは言えません。

 ぜんそくに対する吸入ステロイド薬の使用率で比較しても、大人のぜんそくの場合、日本は2000年の12%から2005年には18%、2008年にようやく24%になりましたが、ヨーロッパ全体では1999年時点ですでに22%、スウエーデンでは同34%まで普及していたのです。

 足立教授は、日本のぜんそく治療の現状に対して「医療者にも、患者さんにも、日本人にはぜんそく治療の基本となるステロイド薬に対する抵抗感がまだまだ根強いことが影響している可能性もあります。また、吸入ステロイド治療には吸入指導が不可欠ですが、多忙なプライマリケア医にはなかなかその時間がとれないかもしれません」と話します。

素早く効く吸入ステロイド配合薬で「発作を起こさせない」

 ぜんそくは未だ完治は難しいため、生涯にわたり長期にコントロールして、“ぜんそく死”を防ぐ必要があります。このために欠かせない吸入ステロイド薬が、日本ではなかなか普及してこなかった理由は、ステロイドに対する抵抗感だけではありません。
 もう一つは、これまでの吸入ステロイド薬は、確実に気道の炎症を抑えてくれるものの、患者さんがなかなか効果を実感できなかったことです。症状が治まるまでおおむね3~7日ほどかかるとされており、「効果」を待ちきれない患者さんが吸入ステロイド薬を勝手にやめてしまい、ほかの長期管理薬だけを使ったり、発作が起きたときだけ発作治療薬を使うケースもあったのです。

 「ぜんそく治療に用いる吸入薬に期待する特性」について、帝京大学では患者さんと医師に対しアンケート調査を行いました。それによると、医師は「効き目の速さ」と同じくらい「発作などの抑制効果の持続」も重視していました。一方、患者さんは圧倒的に(8割以上が)「効き目の速さ」を求めていることが明らかになっており、このことが「効き目が遅い」吸入ステロイド薬が十分には普及してこなかった一因とされています。

 2010年1月から、吸入ステロイド薬と長時間作用性吸入β2刺激薬の両方の成分が配合されたブデソニド/ホルモテロールフマル酸塩水和物吸入薬が日本国内でも使えるようになりました。この配合薬は、海外ではすでに使用されており、発作治療薬と同様の速やかな効果が得られることが確認されているため、日本でも適正な服薬が促進されるものとみられています。
 また、かつてのぜんそく治療は「発作を楽にする」治療が中心でしたが、長期管理薬として気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬が使われるようになり、「発作そのものを起こさせない」治療に変わってきました。この配合薬の使用によって、従来の薬剤に比べて発作を経験していない患者さんの割合が明らかに増えたことも明らかにされており、長期にわたるぜんそくコントロールの実現が期待されています。

(編集・制作 (株)法研)

【取材協力】
足立 満先生


昭和大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー内科教授
1971年昭和大学医学部卒業後、同大学医学部第一内科学入局。山梨赤十字病院内科部長を経て、80年昭和大学医学部第一内科専任講師に就任。同助教授、同教授を経て、2008年より現職。この間、1989年から1年間、ロンドン大学Royal Postgraduate Medical School臨床薬理学教室に留学。専門は臨床アレルギー学、呼吸器病学、とくに気管支ぜんそくの病態生理・治療。昭和大学評議員、日本アレルギー学会常務理事、日本アレルギー協会常任理事、第52回日本アレルギー学会総会会長、第10回気道上皮アレルギー研究会会長などを務める。

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