理解されていない躁うつ病-適切な治療を受けないと悪化することも

再発率や自殺率が高く、まず適切な薬による治療が必要

躁状態とうつ状態をくり返す双極性障害。躁状態のとらえ方など、病気の実態にまだ誤解が多い。

躁状態のときの言動を後悔してうつ状態の引き金になることも

 双極性障害(躁うつ病:そううつびょう)は躁状態とうつ状態をくり返す脳の病気です。日本国内では「全人口の1,000人に7人が発症する」といわれており(*)、けっして珍しい病気ではありません。(*厚生労働科学研究費補助金(心の健康科学研究事業 )「心の健康についての疫学調査に関する研究」、主任研究者 川上憲人、2007)

 躁状態のときには、気持ちが高ぶり、「自分が一番偉い」という思いが強くなって、非常に活動的になります。いろいろなことを思いつき、誰にでも話しかけ、早口でまくしたてます。これらが行き過ぎて、無分別な言動を起こすこともあります。
 一方、うつ状態のときには、気分が落ち込み、何にも興味がもてず、集中力・決断力は低下し、疲れやすくなります。食欲も低下し、おいしさが感じられず、睡眠障害が現れ、ついには自殺願望にとらわれることがあります。なかには、躁状態のときの活発な言動について、「どうしてあんなことを言って(して)しまったのだろう」と後悔して、うつ状態の引き金になるケースもよくみられます。
 二つの状態の移行期には、躁状態とうつ状態が混在するケースもあります。ここで、気持ちが落ち込んだまま行動が活発になってしまうと、自殺の危険性が高まってしまいます。

 双極性障害の原因はまだ完全には解明されていませんが、患者さんの脳の中では、脳の働きを調整しているさまざまな神経伝達物質が異常に増えたり減ったりして、バランスが崩れていることがわかってきました。そのほか生活環境や遺伝(性格)も発症に影響していると考えられています。

軽い躁状態を「うつ状態が改善」と思い込みがち

 躁状態とうつ状態の現れ方は患者さんによってさまざまです。軽い躁状態がたまに出るものの、ほとんどがうつ状態というタイプの場合、軽い躁状態を「調子がよくなった」と感じてそのままにしたり、そもそも病気に気づかないことが多くみられます。
 実際、双極性障害の患者さんの3分の2はうつ状態のときに受診し、多くが「うつ病」と診断され、うつ病の治療を受けているとみられています。

 ところが、双極性障害では気分安定薬という薬が中心になるのに対して、うつ病では抗うつ薬が中心になるなど、治療薬をはじめ治療方法が異なるのです。こうして適切な治療を受けられずに病状が悪化するというケースが少なくないのが現状です。中根所長によると、医師でも両者を見分けることは難しいことがあるそうですが、「以前に躁状態(気分の高ぶりなど)がなかったか」「うつ状態がひと段落したときに気分が高ぶるようなことはなかったか」が双極性障害に気づくポイントとなります。

 双極性障害とうつ病の違いを疫学調査の結果からみると、うつ病は中高年(初老期)に発病することが多く、性格はこだわりが強く几帳面、患者さんの家族でうつ病を発病した人には女性が多い、ことなどが明らかになっています。
 これに対して双極性障害の場合は、青年期から発病することが多く、性格は気分の良し悪しをくり返しがち、家族には同じ双極性障害や躁病の患者さんが多いことなどが特徴。人間関係のトラブルなど強いストレスが発症の誘因となりがちなことは共通しています。

 双極性障害は自殺、生活の破たん、アルコールや薬物乱用などを伴いやすく、再発しやすいことが特徴です。「気分障害治療ガイドライン」(『気分障害治療ガイドライン 第2版』医学書院、2010)によれば、双極性障害の患者さんの離婚率は一般の2~3倍、就業状況は一般の2倍悪化しやすい、となっています。「双極性障害の最大のリスクは自殺であり、自殺企図はうつ病よりも高い。約25~50%の患者が1回以上自殺を試みた」との報告もあります(Bowden CL. J Affec Dis. 2005;84:117‐125)。

 中根所長は「適切な薬を服用することが第一。そのうえで専門家や患者さん同士によるカウンセリングなどを受けることで社会生活を維持できるようになります。このような治療を受けなければ生活の質(QOL)が大きく低下するのは明らかであり、治療を受けても中断すればほとんど再発します」と指摘しています。

一般の人で病気の特徴を理解していたのは、わずか10%台

 双極性障害が一般の人々にどれくらい理解されているのかを知るために、医薬品メーカーの日本イーライリリー株式会社は、全国の10~70歳代の男女を対象にインターネットによる調査を行いました。

 その結果、双極性障害の特徴である「若い人がなりやすい」「再発しやすい」「薬を飲み続ける必要がある」「自殺するかもしれない」といった項目を選択した人はそれぞれ全体の10%台にすぎず、まだあまり理解されていないことがわかりました。
 なかでも、うつ状態は病気として認識されやすくなってきたものの、躁状態は気分や性格の問題として片づけられ、病気として認識されない傾向がはっきりとみられました。

 双極性障害の改善のためには、まず適切な薬を飲み続けることが必要ですが、主な症状などを説明したうえで、改善するための方法を尋ねたところ、「カウンセリングを受ける」という回答が5割強と多いのに対し、「医療機関への受診」という“正解”を選んだ人は約3割にとどまっています。

 また、双極性障害の患者さんが身近な存在になることについては、「隣に引っ越してきてほしくない」という人が59%、「結婚して家族の一員になるのはいやだ」という人が55%を占め、これらの拒絶感はうつ病の患者さんに対する拒絶感よりも強いことが明らかになりました。

 中根所長は「社会全体でもっと双極性障害の理解を深め、患者さんやそのご家族をサポートするしくみが必要」と話し、患者さんには「自分の病気のことをよく知り、薬の服用を欠かさず、“よくなった”と感じても治療を続けることが大切。日常生活では睡眠時間を中心に生活リズムを規則正しくすること」と呼びかけています。

(編集・制作 (株)法研)

【取材協力】
中根 允文(よしぶみ)先生


長崎大学名誉教授
医療法人五省会出島診療所所長
1963年長崎大学医学部卒業。68年同大学大学院医学研究科(精神医学専攻)修了。同大学医学部附属病院講師、同大学医学部助教授を経て、84年教授。2002年同大学大学院教授、03年退官して名誉教授に。同年長崎国際大学教授、04年同大学大学院教授、08年退職して非常勤講師に。1974-75年デンマーク・オーフス大学の疫学的精神医学研究所に留学。世界保健機関( WHO )精神保健・物質乱用予防部及び西太平洋事務局(WPRO)専門委員、顧問。日本精神神経学会、日本社会精神医学会、日本精神科診断学会などで要職を歴任。著書・研究論文多数。

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