すべての子どもにB型肝炎ワクチンを-B型肝炎ワクチンの必要性

母子感染だけでなく子ども同士の密接な接触による感染もある

WHOがすべての子どもに対して定期接種による予防接種を指示。性交渉による感染予防の意味でも全員に

日本で予防対策がとられているのは、母子感染など特定の場合

 今年はワクチンの話題の多い年でした。Hibワクチン、肺炎球菌ワクチン、HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)、さらに不活化ポリオワクチンも話題になりました。この「医療と健康」のコーナーでも、(『二人のための「イクメン」大作戦 6』『二人のための「イクメン」大作戦 7』の2回にわたり、「イクメンのための予防接種の基礎知識」を配信しました。
 いろいろ勉強して感じたことは、自分も含めて、ワクチンに関して日本の医療者が必ずしも新しい知識を持っているわけではないということでした。特に欧米先進諸国でのB型肝炎の予防対策について知ったとき、その感を強くしました。

 B型肝炎とは、B型肝炎ウイルスの感染によって肝臓の炎症(肝炎)を起こす病気で、長期にわたって慢性化すると肝硬変や肝臓がんを起こします。B型肝炎ウイルスは感染力が強く、ウイルス保有者(キャリア)の血液や体液を介して感染します。出産時に母親から赤ちゃんに感染する母子感染、輸血、性交渉などが主な感染ルートと考えられています。

 肝臓がんの原因にもなる重要な感染症でありながら、B型肝炎の感染予防が必要なのは医療従事者とB型肝炎キャリアの妊婦のみで良いと日本の医師は教育されています。つまり、お産のとき母親から赤ちゃんにB型肝炎がうつるのを防ぐために、生まれたらすぐにワクチンを含めた予防対策を行うことと、もう一つは医師や看護師など血液を扱う職業の人に、B型肝炎ワクチンを接種するということです。
 ところが欧米先進国では、赤ちゃんが生まれたらすぐに、母親がB型肝炎キャリアであるか否かを問わず、全員に対してB型肝炎ワクチンを接種することを知りました。「全員」ということに、本当にびっくりしました。

保育園や大学運動部のクラブ活動で、B型肝炎集団感染の報告も

 一方で「B型肝炎は通常の生活では感染しない」という従来からの認識は正しくて、通常の接触では感染の恐れは全くありません。しかしB型肝炎ウイルスは、血液はもちろんですが、体液でも唾液や汗、涙などからも見つかることがあり、日本でも保育園や大学の運動部での集団感染の報告があります。保育園での子ども同士の密接な接触や、運動部のクラブ活動など擦り傷があって接触するような状況では、感染する可能性があるということです。欧米先進国で、赤ちゃん全員に早期にB型肝炎ワクチンを接種するのは、こういった理由からです。

 日本では、性交渉(オーラルセックスやアナルセックスも含む)によってもB型肝炎に感染することは知られていても、全員に対するワクチンが必要とは考えられておらず、B型肝炎感染者のパートナーにのみワクチンが必要とされてきました。しかし性交渉をする前に、相手がB型肝炎感染者であるかどうかを、必ずしも確かめるわけではありませんよね。そもそも、肝炎ウイルス検査を行っていない人も多く、自分が感染していることを知らずに生活している人も多いことがわかっています。欧米では、このような性交渉での感染予防も視野に入れてワクチン接種を行っているのです。

赤ちゃんと、ワクチン未接種のすべての子どもにB型肝炎ワクチンを

 WHO(世界保健機関)では、赤ちゃんが生まれたらすぐに、国の公費による定期接種としてのB型肝炎ワクチン接種を指示しています。多くの国ではその通り定期接種になっていて、生後1週間以内の1回を含む3回の接種が行われています。
 日本では、前述のように母親がB型肝炎キャリアの場合は、母子感染予防のため健康保険での接種が定められていますが、母親がキャリアでない場合は全額自費負担の任意接種となります。この場合、生後すぐに接種してもよいですし、生後2カ月のときにHibワクチン、肺炎球菌ワクチンなどと同時接種する人も多いです。

 私は、今では妊婦健診のときに聞かれた場合には、赤ちゃんが生まれたらすぐにB型肝炎ワクチンを接種するよう勧めるようにしています。また、赤ちゃんのときワクチンを接種していないすべての子どもに、B型肝炎ワクチンを接種するのがよいと考えています。できれば性交渉開始前の接種をおすすめします。大人の場合でも、性交渉による感染予防の意味で、ワクチン接種をすすめています。

 知識がないために、将来大きな病気にかかってしまうのは、とても残念です。本来は、医師や厚労省などが正しい知識の普及に努めるべきですが、さまざまな原因でゆっくりとしか改善が進んでいません。この現状が続いているうちは、皆さんも自ら知識を得る努力をしていただきたいと思います。

 B型肝炎とワクチンについてより詳しく知りたい場合には、以下のページが役立ちます。
「KNOW VPD! VPDを知って、子どもを守ろう。」(VPD:ワクチンで予防できる病気)

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
太田 寛先生


産婦人科専門医
北里大学医学部公衆衛生学 助教
1989年京都大学工学部電気工学科卒業後、日本航空株式会社羽田整備工場に勤務。2000年東京医科歯科大学卒業。茅ヶ崎徳洲会総合病院産婦人科、日本赤十字社医療センター産婦人科勤務を経て、現在は北里大学医学部に勤務。平成21年度厚労科研費補助金「新型インフルエンザ対策(A/H1N1)妊娠中や授乳中の人へ」パンフレット作成委員。日本医師会認定産業医、日本産科婦人科学会専門医。

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