高齢者に致命的になる肺炎-予防のための生活改善6カ条

生活改善で体力・免疫力を維持、ワクチン接種で重症化を防ぐ

かぜと間違われやすく、特に高齢者では命にかかわるケースもあることを理解し、確実に防ぎましょう

高齢者は典型的な症状が出にくいため発見が遅れ、重症化しやすい

 日本では1年間に12万人近くもの人が肺炎で亡くなっており、肺炎はがん、心疾患、脳血管疾患に次いで日本人の死因の第4位となっています(「2010年人口動態統計(確定数)の概況」より)。しかも肺炎による死亡率は増え続け、近い将来、横ばいから減少傾向にある脳血管疾患と入れ替わり“ワースト3”入りするのではないかとみられています。
 その背景にあるのが急速に進む人口の高齢化です。肺炎による死亡者の実に95%を65歳以上の高齢者が占め、肺炎による死亡率は年齢とともに高くなっているからです。

 肺炎によくみられる症状のうち、「発熱」「悪寒」「たんを伴うせき」「倦怠(けんたい)感」などは通常のかぜでもみられるため、かぜと間違えて見逃されるケースも少なくありません。肺炎の場合は「38度以上の高熱」「激しいせきや濃い色のたん」など、かぜよりも重い症状になりがちで、「息切れ」や「呼吸時の胸痛」といった症状もよくみられます。ただし、症状の出方には個人差があるため、「かぜ」程度の症状であっても肺炎の場合があることは知っておいてください。

 日本医科大学特任教授の木田厚瑞先生は、「高齢者は体力や免疫の働きが低下しているため肺炎に感染しやすいのですが、典型的な症状が出にくいことが多く、発見が遅れて重症化しやすいのがやっかいです」と話します。さらに、高齢者は糖尿病や心臓病、慢性呼吸器疾患などの合併症をもっていることが多く、これも重症化の原因となっています。
 かぜのような症状が3~4日たっても治まらない・あるいは悪化した、息切れや胸痛、呼吸が速い、ぐったりして食欲がないなどの症状がみられたら、肺炎が疑われます。すぐに呼吸器科やかかりつけ医を受診しましょう。

 高齢者だけでなく、次にあげる人たちは肺炎のリスクが高いので注意が必要です。

●肺炎にかかりやすく重症化しやすい人
・高齢者
・糖尿病、心不全、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、慢性腎不全、肝硬変などの持病がある人
・喫煙者や多量飲酒者、アルコール依存症の人
・ステロイド薬や免疫抑制薬など、免疫の働きを抑える薬を服用している人
・乳幼児

市中肺炎の約3割は肺炎球菌で発症。高齢者は誤嚥性肺炎にも注意

 マイコプラズマやクラミジア、黄色ブドウ球菌、緑膿菌などのほか、数多くの病原体が肺炎の原因になりますが、最も多いのは「肺炎球菌」という細菌です。ある調査では、病院の外で発生した肺炎(市中肺炎)のうち、約3割が肺炎球菌による肺炎でした。

 肺炎は、これらの病原体の感染によって単独でも発症しますが、かぜやインフルエンザに引き続いて発症するケースがよくみられます。特にインフルエンザに感染すると、のどや気道の粘膜が傷つき、肺炎の原因菌が侵入しやすくなります。
 木田先生は「インフルエンザ流行時に発生した肺炎の病原菌を調べた調査では、肺炎球菌の割合が一層高くなっており55%を占めていました。インフルエンザ流行時には、肺炎球菌の感染予防が特に重要です」と呼びかけています。

 高齢者がもう一つ気をつけたい肺炎は「誤嚥(ごえん)性肺炎」です。食事をするとき、本来なら食道へ送られる食べ物や唾液が、誤って気管に入ってしまうことがあり、これを誤嚥といいます。食べ物や唾液に混じって細菌などが肺まで到達し、炎症を起こしたのが誤嚥性肺炎です。
 食物がのどを通るときには、気管に入らないよう無意識のうちに気道にフタ(喉頭蓋)をしているのですが、高齢者や脳卒中、パーキンソン病の人などでは、うまくフタが閉められず誤嚥してしまうことがあります。
 食べ物だけでなく、口の中にすみついている細菌や異物を誤嚥することでも肺炎を引き起こすことがあります。歯周病や入れ歯の手入れ不足なども口の中の雑菌を繁殖させ、誤嚥性肺炎の原因になります。

「肺炎死」は70歳代後半から急増、予防のための生活改善は少しでも早めに

 肺炎による死亡率は70歳を過ぎると増え始め、70歳代後半からは急増してきます。命にもかかわる肺炎を防ぐために、木田先生は「70歳以上の人はもちろん、それ以前の少しでも早くから、肺炎予防によい生活習慣を身につけることが大切です」として、次のような生活改善をすすめています。

<肺炎予防の6カ条>
(1)規則正しい生活を
 睡眠は十分に、食事は栄養バランスよく3食きちんととり、適度の運動をして体力・免疫力を低下させないこと。過労を避け、ストレスを減らすことも大切です。

(2)喫煙者は禁煙を
 喫煙は肺の組織を傷つけて肺炎を起こしやすくし、喫煙による免疫力の低下で一層リスクが高まります。

(3)誤嚥を防ぐ
 食事はよい姿勢でゆっくり食べ、意識してしっかり飲み込むようにします。

(4)口の中を清潔に
 口の中の細菌を増やさないため、うがいや歯磨きをしっかりと。歯間ブラシなどの補助具や口腔洗浄剤を使ったり、歯磨きの後に歯ブラシで軽く舌をかき出すことも効果的です。

(5)持病(基礎疾患)を治療する
 持病のある人はきちんと治療を受け、医師の指導をしっかり守って体調管理をしましょう。

(6)肺炎球菌ワクチンを接種する
 肺炎の最大の原因菌である肺炎球菌には、予防のためのワクチンが使えるようになっています。ワクチンには、肺炎球菌による肺炎の重症化を防ぎ、死亡危険度を下げる効果が確認されています。しかし、肺炎球菌ワクチンを接種したことがある65歳以上の高齢者は、まだ全体の1割程度に過ぎないのが実情です。

 日本呼吸器学会では、「65歳以上の人」「2~64歳で、慢性心不全、COPDなどの慢性呼吸器疾患、糖尿病、慢性肝疾患などがある人」などに肺炎球菌ワクチン接種を推奨しています。同ワクチンは1回の接種で約5年間は有効とされ、現在は再接種も認められています。特にインフルエンザの季節には、インフルエンザのワクチンとの併用がすすめられます。
 肺炎球菌ワクチンの接種には原則的に健康保険は適用されませんが、自治体によっては公費助成があります。地域の保健所や市区町村役場に問い合わせてみてください。

(*)木田先生がメッセージを寄せている『肺炎予防推進プロジェクト』のホームページはこちら⇒http://www.haienyobo.com/

(編集・制作 (株)法研)

【取材協力】
木田 厚瑞先生


日本医科大学特任教授
同大学呼吸ケアクリニック所長
1945年石川県生まれ。70年金沢大学医学部卒業、75年同大学大学院医学研究科修了、東京都老人医療センター呼吸器科勤務。77~80年カナダ・マニトバ大学に留学。94年東京都老人医療センター呼吸器科部長、2003年より現職。主な研究領域はCOPD、気管支喘息、慢性呼吸不全、在宅呼吸ケアなど。日本内科学会指導医・認定医、日本呼吸器学会および日本老年病学会の指導医・専門医・評議委員。2008年厚生労働科学研究「COPDと禁煙」研究班班長。著書に『慢性呼吸不全の包括的呼吸ケア』(南江堂)、『肺の生活習慣病(COPD)』(中公新書)など多数。

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