切らない脳の外科的治療ガンマナイフとは?体への負担が少ない訳

放射線による補助治療から脳神経外科治療へと進化

大量のガンマ線をピンポイントで照射。低侵襲でくり返し治療も可能なため頭頸部疾患の治療への用途は広い

世界で55万人が受けている

 ガンマナイフは正式には「定位的放射線手術」といい、頭部を囲むように設置したコバルト(Co60)線源から、脳の病変にガンマ線を集中的に照射する治療法です。
 今年5月、この治療に1993年から取り組む東京女子医科大学脳神経センターで、ガンマナイフ6000症例を記念する学術講演会(於 同大弥生記念講堂)が行われ、脳腫瘍をはじめ、三叉神経痛などでの治療実績や今後の展望が報告されました。

 ガンマナイフは、世界ではすでに20年間で55万人の治療実績があります。そのうち、日本での実績は17万人に及び、その6割は転移性脳腫瘍(体のがんから脳への転移)の治療に行われてきました。
 脳腫瘍では、良性・悪性ともに、できるだけ取り残しのないことが再発を防ぎ症状を改善します。しかしその一方で、切除手術により神経や血管を傷つけられることが脳神経まひなどの後遺症の原因にもなります。

 これまでガンマナイフは、脳の神経や血管を傷つけないための補助的な治療として用いられてきました。しかし現在、新しいシステムの導入などにより、ガンマナイフは開頭手術を行わずに脳内の病変をきわめて高い精度で治療できる技術として、手術と同等の効果が得られるようになっています。
 「ガンマナイフは放射線による補助治療ではなく、いろいろな効果をもたらす外科手術の一つであると考えています」というのは、東京女子医科大学脳神経外科講師の林基弘先生です。

 現在日本では、ガンマナイフは転移性脳腫瘍の治療として保険適用になっています。さらに、保険適用外ですが三叉神経痛には即効性が認められています 。林 先生は「世界では、難治性てんかんやパーキンソン病などさまざまな脳疾患への治療法として広まっています」といいます。

弱いガンマ線を集束。体への負担が少ない

 ではその仕組はどうなっているのでしょう。ガンマナイフで使用されるコバルト線源は192~201個。これを、頭蓋を囲む同心円状または半円状に設置し、ガンマ線がちょうどその中心に集束するように設計されます。
 使用しているガンマ線は非常にエネルギーの低い放射線であり、1本1本の照射では皮膚や組織への影響はほとんどありません。しかし192本 を集束することで、病変部にはピンポイントで極めて高い放射線量を作用させることができるのです。

 この特性によりガンマナイフでは、治療中の痛みがないので麻酔を使う必要がありません。また、放射線性皮膚炎や脱毛、内臓組織への後遺症が少ないので、治療の負担が軽減され何度でも照射することができます。手術時間は1時間程度で、体への侵襲性が非常に低く、患者さんへの負担の少ない治療であるといえます。

 がんの統計を見ると、乳がん、肺がん、大腸がんでは約25%で脳への転移が見られます。「体のがんからの転移性脳腫瘍では、体のがんの治療を受けながら脳腫瘍の手術を行うことになり、体への負担が少ないガンマナイフのメリットが高くなります」と林先生はいいます。
 なお、ガンマナイフを当てた部分の腫瘍は、その後3カ月~半年をかけて縮小し、中には消失してしまうものもあります。

三叉神経痛には即効性、書痙などにも応用が期待

 「最近はMRI(核磁気共鳴画像法)装置の進歩により、さらに精度の高い照射が可能になってきました。脳を含む頭頸部全体の疾患にガンマナイフが果たす役割はますます高まっています」と、林先生はいいます。

 顔の知覚神経から起こる三叉神経痛は、動脈硬化を起こした血管が神経を圧迫することにより発症すると考えられ、神経と血管のわずかな接触でも起こり得ます。ガンマナイフでその非常に微小な患部を照射することにより、手術後翌日でも痛みが消えていく患者さんがいるほど(通常は3週間ほどかかります)。

 書痙とは、「字を書く」「楽器を演奏する」などの一定の動作の時だけ手のこわばりや震えが起こり、その動作を行うことができません。かつては神経性の病気と考えられていましたが、現在では脳の障害であることがわかり、従来の定位脳手術により多くの患者さんが治癒へと至っています。将来的には、体に侵襲の少ないガンマナイフによる治療も可能と思われ大きな期待がもたれています。

国内の55施設で実施。遠隔操作を使った技術連携も

 ガンマナイフ治療をより確実で安全なものにするためには、頭蓋内の病変部の大きさや形、病変を取りまく血管や神経の状態などを、照射前にできるだけ精密に3D画像化しておく必要があります。
 最近はCTやMRI画像の精度が高まったことで、脳内の細かな部分を0.1ミリのレベルで位置を同定して、3D画像を作成し、治療計画を立てることができるようになりました。

 ガンマナイフの適応は、難治性のてんかんやある種の精神疾患にも広がっています。また、脳の原発がんであるグリオーマ(神経膠細胞から発生する腫瘍)は脳内で大きく広がり、正常な脳組織との境界がわからなくなる悪質なものですが、今後はこのような大きな脳腫瘍にも、ガンマナイフ治療が期待されています。

 現在、国内にはガンマナイフ治療を受けることのできる施設が55カ所あります。女子医大では、国内の他のガンマナイフ照射施設とネットワークを結び、ガンマナイフに熟練した医師が遠隔操作で照射を行うという取り組みも始まっています。
 日本のどこにいても、精度の高い脳の治療が受けられる。ガンマナイフの発展はこうした医療の未来図にもつながっているといえそうです。

(編集・制作 (株)法研)

【取材協力】
林 基弘先生


東京女子医科大学医学部脳神経外科講師・ガンマナイフユニット治療責任者
同大先端生命医科学研究所 先端工学外科兼務
1991年群馬大学医学部卒業後、東京女子医科大学脳神経外科入局。99年より仏マルセイユ・ティモンヌ大学に留学。2001年帰局、ガンマナイフユニット治療責任者。07年より現職。さいたまなどのガンマナイフセンター・台湾秀傳紀念醫院ガンマナイフセンターで治療アドバイザーを務める。専門は機能性疾患と頭蓋底腫瘍に対するガンマナイフ治療。世界脳神経外科学会連盟(WFNS)・定位放射線治療部門副会長、日本脳神経外科学会認定専門医・評議員・国際教育委員、日本定位放射線治療学会世話人など。「たけしのみんなの家庭の医学」などテレビ出演多数。セカンドオピニオンクリニックCMA神楽坂開設中。

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