過多月経の新しい治療法-子宮摘出をしない『MEA』とは

マイクロ波子宮内膜アブレーションが健康保険の適用に

妊娠・出産は希望しないが子宮は残したい人に、マイクロ波で子宮内膜を凝固・壊死させる治療が選択肢に

薬物療法の効果がなければ子宮摘出が主流だった、これまでの過多月経治療

 過多月経とは、月経の出血量が異常に多く、貧血を起こしたり、外出や仕事など生活に支障をきたす状態をいいます。実際には、患者さんが「月経量が多い」と訴え、そのために「全身がだるい」「動悸や息切れがする」などの自覚症状があり、検査で貧血と血色素の低下が確認できれば、「過多月経」と診断されます。

 過多月経は、子宮筋腫や子宮腺筋症など子宮に原因があるケースのほか、血液疾患や透析治療など子宮以外に原因があるケースや、原因がはっきしないケースもあります。患者さんは全国に約600万人とも推計されていますが、その7割は特に治療を受けていないとみられ、多くの女性の生活の質(QOL)の低下を招いています。
 一般的には、まず鉄剤や低用量ピル、ホルモン剤などによる薬物療法が行われます。これで十分な効果が得られず、過多月経の原因となっているほかの病気も確認されない場合は、子宮の摘出を含む手術療法などを検討することになります。原因となっているほかの病気が確認できれば、その治療も合わせて、過多月経の治療法を決めていきます。

 しかし、「閉経すれば出血の問題はなくなるのに、手術まではしたくない」「女性として子宮を摘出してしまうことには抵抗がある」「仕事があるので何日も休むことができない」という女性は少なくありません。また、糖尿病などの持病があるなど、もともと手術のリスクが高い人もいます。
 そこで過多月経の新しい治療法として注目されているのが、子宮を摘出することなく治療が可能な「マイクロ波子宮内膜アブレーション」(Microwave Endometrial Ablation: MEA)です。

妊娠・出産は希望しない、でも子宮は残したいなら、MEAが治療の選択肢に

 MEAはマイクロ波で子宮内膜を焼灼(しょうしゃく:焼くこと)して組織を凝固・壊死(えし)させ、月経による多量の出血を抑える治療法です。腟から子宮に細い管状の治療具を入れ、先端からマイクロ波を照射し、60~70度Cで子宮内膜を焼いていきます。マイクロ波は最も波長の長い電磁波であり、電子レンジをはじめ日常生活で広く利用され、人体への安全性が確立しています。

 MEAの治療対象となるのは、過多月経で子宮摘出などの外科的な治療が考慮される、妊娠・出産を希望しない女性です。MEAでは子宮は残るものの、受精卵が着床する子宮内膜を焼灼してしまうため妊娠が難しくなるからです。
 また子宮内膜層が薄いと、治療により子宮に穴を開けてしまったり、腸管など周辺組織に熱が伝わって熱傷の危険性があるため、子宮内膜層の厚さが一定以上あることなども、治療の適応条件となります。

●MEAの適応条件
(1)子宮摘出などの外科的な治療が必要
(2)薬物療法などの保存的治療が無効
(3)妊娠・出産を希望しない
(4)妊娠・出産を希望しないが、子宮摘出は回避したい
(5)子宮内膜に悪性病変がない
(6)すべての子宮内膜にマイクロ波治療具が容易に到達できる
(7)子宮内膜層の厚さが10mm未満の部位がない

 治療は全身麻酔で行われ、患者さんは痛みも熱さも感じることはありません。焼灼そのものは10~20分、準備などを合わせた手術時間全体でも30分程度です。日帰りも可能ですが、手術後の経過観察のため、多くの場合、1~2日の入院となります。手術後に痛みが出れば、痛み止めの薬が出るくらいで、特に継続した治療は必要なく、すぐに通常の生活に戻れます。

ほとんどの患者さんがMEAで貧血が改善、治療に「満足」の評価

 浅川産婦人科 浅川恭行先生の治療例では、全例で月経量が減り、半数で月経がなくなりました。ほとんどの患者さんで過多月経による貧血は改善され、手術に「満足」の評価を得ています。過多月経による症状が重くなりがちな子宮筋腫や子宮腺筋症の患者さんに限っても、ほとんどがMEAの治療効果に「満足」と答えています。
 ただ、MEAの治療で満足する結果が得られない場合は、改めて子宮摘出の手術に踏み切るケースもあります。

 MEAは現在国内の80施設以上で行われ、すでに1200人を超える患者さんが治療を受けていますが、合併症などは報告されていません。ただし、「子宮内膜を焼くため、子宮内膜にできる子宮体がんの検診がしづらくなる」「焼き損じた子宮内膜に受精卵が着床して妊娠する可能性は否定できず、妊娠を継続した場合は合併症の危険性が高い」などの指摘があります。

MEA保険適用で費用面のハードルも下がる

 薬物療法で十分な効果が得られなかった過多月経に対してはこれまで、すぐに子宮摘出の手術に進むケースが多くみられました。しかし、MEAが2008年12月に先進医療として承認され、さらに2012年4月には「子宮鏡下子宮内膜焼灼術」として健康保険の適用になったことから、医療費の自己負担額が大幅に下がり、MEAの治療例が少しずつ増えてきました。

 MEAは患者さんの治療の選択肢を増やしただけでなく、今後、医療費節減策の一つとしても期待されています。それは、子宮全摘出術の医療費は28万2100円、腹腔鏡下腟式子宮全摘出術は42万500円であるのに対して、MEAは17万8100円(窓口負担はそれぞれの3割など、一部だけ)にとどまるからです。
 ※医療費は2013年5月現在のものです。

 浅川先生は「産婦人科医が“切らずに治すMEAという選択肢がある”ということをきちんと患者さんに伝えていけるかが重要。患者さん側からもMEAについて医師に積極的に相談してほしい」と話しています。

(編集・制作 (株)法研)

【取材協力】
浅川 恭行先生


浅川産婦人科、東邦大学医療センター大橋病院
1993年東邦大学医学部卒業、99年同大大学院医学研究科卒業。同年東邦大学医学部産科婦人科学講座助手、2007年同大医療センター大橋病院産婦人科講師などを経て、2009年浅川産婦人科理事、東邦大学医療センター大橋病院客員講師、現在に至る。鶴見大学歯学部産婦人科非常勤講師を兼務。日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医(産婦人科)。婦人科分野では特に内視鏡を専門とし、これまで開腹手術により行われてきた子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣腫瘍などの婦人科系の手術を、体への負担が少ない内視鏡によって数多く手がける。

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