気を巡らせて、イライラを抑える
腹痛や頭痛など、一般的に生理痛と言われている症状が月経困難症です。多くの女性にあらわれ、本人でないとわからないつらい症状が特徴で、日常生活に支障をきたす人もいます。
月経困難症の人の大半は、血の滞りである瘀血(お けつ)がある可能性があります。瘀血の程度はさまざまで、食養生や運動だけで、ある程度改善されるものから、漢方薬での治療が必要なものまであります。
痛みだけでなく、イライラ、倦怠感などがある人もいます。これは、ホルモンバランスの崩れやストレスなどによって気が滞る気滞(き たい)、冷え、水が滞る水毒(すい どく)などが複合的に起こることが原因だと考えられています。
イライラや気分が落ち込むなどの症状が出る理由は、血や気が滞ると、自律神経を司る肝の働きが低下するためです。肝は、血を貯蔵しておくところであるとともに、怒りの感情にも繋がっているからです。
このほか、冷えも月経困難症の症状を悪化させますので、冷えがある場合には、治療が必要です。
婦人科には行きづらいと感じている人が多く、またついついがん検診などもおろそかになってしまいがちです。しかし、もしも、月経痛に悩んでいるようなら、ぜひ一度、婦人科を受診することをおすすめします。この月経痛が、子宮筋腫や子宮内膜症、あるいは子宮がんなどの大きな病気のサインのこともあるからです。
実際に検査をして、具体的な病気が見つからない場合は、痛み止めなどの対症療法が主となります。このようなときに、漢方薬がよく用いられます。
処方の中心になるのは、女性の三大処方と言われる当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)です。
瘀血に対する効果の強さを順番であらわすと、「桂枝茯苓丸>加味逍遙散>当帰芍薬散」となりますが、漢方薬の効果の強さで決めるというわけではなく、ほかにみられる症状で処方を決めていきます。
原則的には、月経困難症の症状が出ている期間だけではなく、毎日内服してもらうことになります。その理由は、痛みを感じるのは月経のときだけだとしても、その原因となっている瘀血や冷えは、常にあると考えているためです。
虚弱な女性のさまざまな症状に用いることができると言われている当帰芍薬散を用います。処方される人に、竹久夢二の絵に出てくるような儚げな感じの美人が多いことで知られていて"当芍美人(とうしゃくびじん)"と言う言葉があるくらいです。
また、むくみの原因となっている水毒があるために、全体的にはほっそりしていますが、足首は引き締まっていないことが多いです。むくみによって、めまいや手足のだるさを訴えたり、冷え症があらわれる人もいます。
このほか、のどが渇きやすかったり、トイレに行く回数が人より少なかったりするのも水毒の徴候の一部です。
当帰芍薬散は、もともとは、妊娠時の腹痛の薬なので、腹痛に対する効果も定評があります。
イライラなどの精神症状を伴う場合には、加味逍遙散(かみしょうようさん)を用います。
また、「イライラだけでなく、頭痛もあって、体がだるい」など、不調の種類が多い場合に対応するのも、この処方の特徴の一つです。不調の種類が多いと、医学的に説明の難しい不定愁訴だと言われがちですが、この不定愁訴こそが、加味逍遥散を使う目的の一つなのです。
漢方薬の名前についている逍遥とは、いろいろと移り変わるという意味で、この移り変わる症状に使う処方だからこそ加味逍遥散という名前がついています。症状がいろいろあって、なおかつ移り変わるというのがポイントなのです。
このほか、イライラが強くてキーッとなってしまう人で、下腹部が痛む人には、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)がおすすめです。
血の滞りによる瘀血で、にきびや肩こりがみられる場合には、桂枝茯苓丸を使います。瘀血があると、気の滞りも合併することが多く、のぼせを伴いやすくなります。
瘀血のある人は、おへその周りや舌の部分を押すと不快な感じや痛みがあることが多いので、自分で押してみるのもいいでしょう。舌や唇の色が暗くくすんで見えたり、眼の下にくまが見られるというのも瘀血の症状です。
また、桂枝茯苓丸は、別名、催生湯(さい せい とう)とも言われ、子宮筋の緊張を促す可能性があることから、妊娠中は飲むことができません。
このほか、ちょっと意外な処方としては、胃薬だと思われている安中散(あんちゅうさん)があります。これは、安中散に含まれる生薬(しょうやく)、ウイキョウとエンゴサクに痛みをとる効果があるからです。もともと胃腸虚弱があり、胃痛を伴うような生理痛に用います。ウイキョウは、ハーブではフェンネルとも呼ばれ、消化促進などにも使われている植物です。
月経中に痛みがあるときには、右記に紹介した処方と併用して、漢方薬の芍薬甘草湯(しゃく やく かん ぞう とう)や呉茱萸湯(ご しゅ ゆ とう)を用います。芍薬甘草湯は、おなかが引きつれるように痛むときに、呉茱萸湯は冷えや胃痛を伴うときに用います。
PMS(premenstrual syndrome)は、月経が始まる3~10日前の時期にあらわれるさまざまな症状のことを言います。
症状は、頭痛、腰痛、乳房やおなかの張り、むくみ、肌荒れやニキビ、便秘、眠気、倦怠感、そして、甘い物がいつも以上に食べたくなる人もいます。
その原因は、月経の約2週間前から排卵の時期までにプロゲステロン(黄体ホルモン)が増加して、女性ホルモンの分泌のバランスが大きく変化することだと考えられています。
このほか、ストレスが多い人、生活が不規則になっている人も、ホルモンのバランスの崩れによって症状が強く出やすくなります。
散歩や買い物、外食などで、気分転換をして、楽しむ時間をつくりましょう。
基礎体温をつけることで、女性ホルモンのバランスをある程度チェックすることができます。
また、月経前には、無理なスケジュールを組まず、ビタミンやミネラルをたくさんとり、睡眠や休息をたくさんとるようにしましょう。
痛みが強い場合には鎮痛薬、むくみには利尿薬、イライラや落ち込みなどメンタルの症状が強い場合には、抗うつ剤や精神安定剤など、精神科の薬を使うこともあります。
血を巡らせて、自律神経の安定を促す食材をとる
月経困難症、月経前緊張症(PMS)は、いずれも血を巡らせて、体を温め、自律神経や女性ホルモンのバランスをととのえることがポイントとなります。
月経血は、正常であれば鮮紅色(せん こう しょく)でサラッとしていますが、月経血が黒ずんでいたり、血の塊のようなものが混じっていたりする人は、血が滞っている瘀血(お けつ)の状態だと考えられます。
血行が悪いので、月経の子宮収縮時に月経痛が起こりやすくなります。このような人は、血の流れをよくする食材をとりましょう。
代表的な食材は、タマネギ、サフラン、ウコンなどです。タマネギは、温性で胃腸を温め、消化を促し、利尿作用や気の巡りを改善する作用があると言われています。また、血栓を溶かす作用もあります。加熱するとうまみ、甘みが増し、価格も安定していて、和食にも洋食にも使え、とても優れた食材と言えるでしょう。
サフランは、パエリアの色づけなどで知られていますが、お湯に入れればサフランティーに、ご飯を炊くときに加えればサフランライスになり、普段の食事に手軽にとりいれることができます。
冷えには、鶏肉や生姜などの食材がおすすめです。同時に、利尿作用のある小豆、トウモロコシ等の食材でむくみを改善しましょう。鶏肉、生姜、トウモロコシを入れたスープなら、冷えとむくみの両方に有効です。
ストレスやホルモンバランスの乱れから、気逆(きぎゃく)や気滞(き たい)になっていると考えられます。気逆は、中枢から下に流れるべき気が、上へと逆行している状態で、動悸や冷えのぼせなどの症状があらわれます。
このような場合は、気の巡りをよくする大根、のぼせて上昇した気を降ろす作用のあるソバなどをとり、気の流れを戻してあげましょう。さらに、精神を安定させる作用を持つユリ根やハスの実などをとるとよいでしょう。
自律神経のバランスをととのえて、肝の機能を助ける作用のあるレバー、牛筋、シジミ、ウナギ、トマトもおすすめです。また、ピーマン、クレソン、菊花には、肝の余分な熱を収める働きがあると言われています。
熱性・温性 | 鮭、羊肉、鶏肉、鶏レバー、ニラ、ウド、桃、杏、ヨモギ、紅花、ウコン、生姜、松の実、シナモン |
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平性 | 玄米、うるち米、小豆、黒豆、豚肉、黒キクラゲ、山芋、ウズラ、烏骨鶏、イカ、トウモロコシ、サフラン、ユリ根 |
涼性・寒性 | ソバ、ハマグリ、ナス、トマト、キュウリ、冬瓜、大根 |