「本当の自分」はどこにもいない? 自分が3種類いるという捉え方

マインドフルネスという認知行動療法の新たな可能性

 

少し前に「自分探し」という言葉が流行った時期がありました。「本当の自分」を見つけるため、「自分探し」を通じて自己理解を深めた人も多いことと思います。環境を選択し直すなど、ライフスタイルの見直しをした人もおられるでしょう。

その一方で、なかなか「本当の自分」は見つからず、今も探し続けている人、一度見つけたと思った「本当の自分」に再び違和感を持つようになり、新たな自分探しをはじめている人、いつまでたっても終わらない「自分探し」に不安や苛立ちを感じている人もいます。むしろそういった人の方が多いようにも感じられます。

それはなぜなのでしょう。「本当の自分」とは一体何なのでしょうか。

「本当の自分」とは?

東京大学准教授で医師の熊野宏昭氏は、「自分」をひとつではなく、いくつかの種類があるものとして、主に以下の三つの「自分」を論じています。

第一に、生まれてから死ぬまでの体験に支えられ、毎日の記憶によって構成されている「自分」です。日常的に感じている馴染みのある「自分」ですが、記憶は想像以上に不確かなものであり、現実からかけ離れた自己イメージを作り上げてしまうこともあります。自己イメージが強くなりすぎると、逆に生身の自分がそのイメージに縛られ、柔軟性を失います。

第二に、変化し続ける「自分」です。思考や感情は刻一刻と変化しており、想像以上に連続性がありません。この特性を意識せずに、その時々の思考や感情と一体化しすぎてしまうと、気分の波や一時的な考えに振り回されることにもなります。

第三に、自分のこころの動きを少し離れたところから眺める「自分」です。刻一刻と変化する自分を感じながらも、それに巻き込まれずに俯瞰し、行動を客観的に選択することができます。この意識状態は「マインドフルネス」と呼ばれ、元々はブッダ(釈迦)が提唱した心の持ち方と言われています。

「自分探し」が陥るスパイラル

多くの人は、上記の「一連の記憶によって構成されている自分」を「唯一の自分」として捉える傾向があるのではないかと思います。つまり、「変化し続ける自分」や「変化する自分を俯瞰してみる自分」という側面への意識は少なく、より「固定的で一貫したもの」として捉えがちであるということです。「自分探し」のスパイラルに陥っている人は、「固定的で一貫した本当の自分」がどこかにあるものと信じ、それを探し求めている状態と言えるのかもしれません。つまり、そもそも存在しないものを探し求めている状態ということです。

マインドフルネスを提唱したブッダも、約2600年前に、「自分探し」にチャレンジしています。ブッダは裕福な環境で生まれ育ちますが、物理的な豊かさからは心からの満足も安心も得ることができず、修行の旅に出ます。厳しい修行の末に悟りを開き、気づいたことのひとつは、「『本当の自分』などない」ということだったそうです。

マインドフルネスの活用 ~第三世代の認知行動療法へ~

現在の心理療法においても、この「マインドフルネス」という概念を用いる動きがあります。第三世代の認知行動療法と言われる、「アクセプタンス・コミットメントセラピー」、「マインドフルネス&アクセプタンス」などがそれにあたります。マインドフルネスという意識状態が、セラピーのツールになり得ると認識されているということです。

「そもそも本当の自分なんてない」という視点に意識が広がることで、何か肩の荷が下りるような安心感を得る人もおられるのではないでしょうか。それ位、「何者かでなくてはならない」という思いに、日頃私たちはとらわれているのかもしれません。

参考文献:熊野宏昭『二十一世紀の自分探しプロジェクト キャラの檻から出て、街に出かけよう』サンガ新書

【執筆】
ピースマインド・イープ 若尾秀美


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