こころの傷の癒し方-トラウマに向き合いながら克服する方法

「回避」と「完了」というスタンスをもとに

 

「こころのケア」という言葉を耳にすることが多くなりました。「トラウマ」という言葉が日常的に使われるようになりつつあることからも、人々のこころの傷への関心の高さがうかがわれます。

大規模な災害や事故に遭った場合はもちろん、日常生活の中でもこころに痛みを感じる出来事に遭遇することは少なくありません。人間関係のトラブルで気分が落ち込んだり、人の何気ない一言が尾を引いて寝つきが悪くなったりといったことに、心当たりのある方も多いのではないでしょうか。
私たちは、避けることのできないこころの傷と、どのように付き合っていけばいいのでしょうか。

「トゲを抜く」のか、「トゲが痛まない生き方」をするのか

経済学博士であり、アメリカ西海岸にてヨガ・瞑想センターを運営しているマイケル・A・シンガーは、こころの傷に自分自身がどのようにのぞむかにより、その後の人生のスタンスに大きな影響を与えると述べています。シンガーは、この人生のスタンスを「トゲを抜くのか、トゲが痛まない生き方をするのか」というメタファー(隠ゆ)を通じて表現しています。

「トゲを抜く」とは、こころの傷の根本的な原因に取り組むというスタンスを表しています。「トゲが痛まない生き方」とは、こころの傷が痛まないように、生き方自体をコントロールするスタンスを表しています。

「トゲが痛まない生き方」の例のひとつは、以下のようなものです。
恋愛でひどく傷ついた人がいます。恋愛や別れた恋人を連想させる場所へ行くと心が痛むため、そういった場所を回避し、行動範囲を狭めます。そして仕事に没頭し、人との交流をブロックします。これらの回避行動がうまくいっているうちは、ある意味痛みの感覚から逃れることができますが、仕事がうまくいかなくなるとこころの痛みが再燃し始めるため、さらに仕事に没頭し、痛みの回避自体にますます多くのエネルギーを注ぎ始めます。

受け入れることを拒んだ痛みは、一見消え失せたように見えますが、本当は行き場を失い自分の中で循環し続けています。忘れたと思っていても、何かのきっかけで呼び起こされ、活性化されます。そして、多くの人はトゲを隠そうとして人間関係を利用するため、問題が複雑化するとシンガーは言います。相手を純粋に好きだから関わるのではなく、自分の内的問題に目をつぶるという必要から人と関わるように成り得るというのです。

痛みを感じないようにすることで自分を守ろうとするスタンスは、刺激の多い現代社会では一般的な対処法となっているのかもしれません。しかしそれは、本来の自分らしい生き方や、その時々を楽しむという人生の醍醐味を失うことになってしまうのではないでしょうか。

「トゲを抜く」ためには、痛みを感じることを回避することで自分を守るのではなく、リラックスして痛みをただ感じ、通り過ぎていくことにただ気づいていることを、シンガーは勧めています。

思えば、自然も人間の生理機能も、循環することで成り立っています。どこかに滞りができると、それは全体へと影響を及ぼし、本来のプロセスを阻むようになります。感情というこころの知覚においても、同じことが言えるのかもしれません。

出来事を感じきり、過去になることを許してみましょう。こころの傷との付き合い方が変わるかもしれません。

参考文献:マイケル・A・シンガー『いま、目覚めゆくあなたへ』、菅靖彦訳、風雲舎、2010年

【執筆】
ピースマインド・イープ 若尾 秀美


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