乳がんの早期発見・早期治療のためピンクリボン運動の取り組み

日本の低い乳がん検診受診率を上げるためのさらなる展開は…

世界中に広まったピンクリボン運動。乳がん死亡率低下に貢献した海外の例を参考に、日本の課題に取り組む

ピンクリボン団体が一堂に会し、情報交換

 乳がんの早期発見・早期治療を呼びかけ、乳がんによる死亡率低下を目指すための啓発運動のシンボルが「ピンクリボン」。ピンクリボン運動の発祥は米国で、多くの市民、各種団体、企業、行政、政府などがさまざまな運動や施策に取り組み、乳がん死亡率の減少に成功し、運動は今では世界中で展開されています。

 日本でのピンクリボン運動の牽引役を担ってきたともいえる「NPO法人乳房健康研究会」()の設立10周年企画として、「PINK RIBBON GLOBAL CONFERENCE 2010」が、9月18日(土)・19日(日)の2日間にわたり、東京で開催されました。
 この催しは、国内各地でピンクリボン運動を展開している市民団体や企業のほか、医療関係者・行政関係者・その他の個人など、ピンクリボン運動を実践している人々や関心の高い人々が一堂に会して、国内外の情報を共有し、お互いの活動のさらなる充実を目指すものでした。また、ピンクリボン運動の先進国である米国と、乳がん検診受診率が急速に高くなった韓国からゲストスピーカーが招かれていました。

 (*)乳房健康研究会は、2000年5月に、乳がんによる死亡率の低下を願い、4人の医師(霞富士雄、福田護、野末悦子、島田菜穂子)によって発足。2003年に、ピンクリボン団体としては日本で初めてNPO法人となった。

 第1日目。開催にさきがけ「各地で咲かせた花々を集めて大きな花束にすることで、ピンクリボン運動の促進力にしていきましょう」と霞富士雄理事長(順天堂大学附属順天堂医院乳腺センター長)があいさつに立ちました。
 続いて福田護副理事長により、「グローバルカンファレンスのミッション&ゴール〜ピンクリボン運動の経緯と未来を志向して〜」と題した講演がありました。福田さんはまず、年々増加する乳がん患者数と死亡者数を示し、現状では乳がんにかからない予防法がないことを話しました。そして、「乳がんで死なないための有効な対策は早期発見・早期治療であり、早期発見を国民に呼びかける啓発運動が必要だった」として、乳房健康研究会発足に至った経緯を述べました。
 また発足後の10年間で、全国各地に新しいピンクリボン団体が次々に誕生し、自治体の乳がん検診にマンモグラフィ検査が導入され、さまざまな企業がピンクリボン運動をサポートするようになったこと、さらにこういった流れをメディアが報道するなど、それぞれの立場での協力により、今では女性の8割近くの人々がピンクリボン運動を認知する時代になったと、感慨深く話しました。

 1日目の最後はグループディスカッション。「ピンクリボンが活性化する乳がん検診」「私たちはこんな活動が得意です」「乳がんにやさしい環境づくり」「企業がピンクリボン活動に期待すること」の4つのテーマに分かれて、参加者全員で意見交換を行いました。

ピンクリボン運動の先行国・米国と韓国の取り組み

 2日目は「グローバルのピンクリボン運動の先行事例」と題し、米国からは、ピンクリボン運動の非営利団体「スーザン・G・コーメン・フォア・ザ・キュア」(Susan G. Komen for the Cure)のディレクター・Susan Brownさんが、韓国からは韓国国立がんセンターの医師・Eun-Cheol Parkさん、日本からはNPO法人乳房健康研究会副理事長・島田菜穂子さん(ピンクリボンブレストケアクリニック表参道院長)の3人が、それぞれの国でのピンクリボン運動の実際を紹介しました。

 米国の乳がん検診受診率は70%を超えており、韓国は60%に近い。スーザン・G・コーメン・フォア・ザ・キュアは、啓発イベントなどを通して基金を募り、乳がんの研究助成、活動に対する表彰、地域社会での福祉や教育のサポートなどを国際的に行っている財団です。乳がん検診については、地域によって異なるニーズや考え方を把握した上での検診プログラム作成や目標設定を行い、未受診者については面談のうえ、受診が可能になるよう個別対応するなど、きめ細かいサポートを行っていると、Susan Brownさんは話します。
 Eun-Cheol Parkさんによると、韓国では「がん対策10カ年計画」を打ち立て、政府主導型の取り組みを行っているとか。これが高い受診率につながっているようです。

 日本はというと、ピンクリボン運動が年々高まりを見せている割には、乳がん検診の受診率は20%程度にとどまったまま。これが課題だと島田菜穂子さんは指摘します。ピンクリボン運動のこれからの10年に向けて、国内外の関係者・関係団体と集い、ともに考え、連携しながら乳がんの早期発見・早期治療に取り組む「文化」を築いていくことが大切ではないかと述べました。

 このほか、鶴田耕二さん(東京都立駒込病院副院長)による「がん診療連携の現在」、中村清吾さん(昭和大学医学部外科学講座乳腺外科部門教授・病院ブレストセンター長)による「乳がんの早期発見と治療~最近の話題から」といった講演もありました。

 最後は、「日本のピンクリボン運動の振り返りと未来志向」と題し、祖父江友孝さん(国立がんセンター医師)、松田寿美子さん(NPO法人 J.POSH事務局長)、片岡明美(NPO法人ハッピーマンマ代表)によるパネルディスカッションがありました。
 祖父江友孝さんは、有効な検診を正しく行うことで死亡率減少に結びつけることの大切さを強調。松田寿美子さんは、平日に忙しい人のために、日曜日に全国どこでもマンモグラフィ検査を受けられる環境づくりを目指し、J.M.S(ジャパン・マンモグラフィ・サンデー)とネーミングした運動を推進していることを紹介し、片岡明美さんは、大学生を巻き込んだ「未来プロジェクト」や、出産・育児などで家庭に入った女性医師の職場復帰の一環として、乳がん検診の場で活躍してもらう「女性医師ネットワーク」に取り組んでいると発言しました。

日本の課題解決のカギを握る、ピンクリボン運動のさらなる展開

 活動の形はそれぞれ異なっていても、思いは同じ。数字的には検診受診率の向上と乳がんによる死亡率の低下を目標に掲げつつ、その先にあるものは、たとえがんになったとしても、がんの患者や家族へのサポートが充実し、安心して生活や就労が続けられる環境や社会が整うことが、2日間を通して見えてきた皆の願いであると思われます。

 閉会のあいさつに立った副理事長の野末悦子さん(コスモス女性クリニック院長)は、この催しに参加した国内のピンクリボン団体は32団体、これに企業参加、個人参加を含め、2日間で延べ約500人が参加したことを発表。10年先を見据えた躍進を願い、それぞれの団体、企業、個人の取り組みにエールの言葉を贈りました。

 日本では現在、女性の16人に1人が乳がんにかかる時代です。毎年5万人が乳がんにかかり、約1万人が亡くなっています。30歳から64歳までの女性のがん死亡原因の第1位です。乳がん罹患率は、今後ますます増加すると推測されています。
 乳がんは、早期発見・早期治療ができれば、90%以上が治ります。言い換えれば、乳がんによる死亡率低下の最大の決め手は、早期発見、早期治療です。
 日本でも、乳がん検診にマンモグラフィ検査が導入され10年経ち、昨年は「乳がん検診無料クーポン券」も配布されるなど、国家的施策が進んできました。しかし、検診受診率がどうしても上がらない。この課題を解決するために、ピンクリボン運動は、さらなる展開期を迎えていると言えるでしょう。

(編集・制作 (株)法研)

【取材協力】
福田 護先生


聖マリアンナ医科大学附属研究所
ブレスト&イメージング先端医療センター附属クリニック院長
NPO法人乳房健康研究会副理事長
1969年金沢大学医学部卒業後、国立がんセンターを経て74年に聖マリアンナ医科大学第一外科助手に。米国Memorial Sloan-Kettering Cancer Center、バージニア大学外科を経て、78年聖マリアンナ医科大学に復職。92年同大学第一外科助教授、2002年同大学外科学教授、09年に現職就任。日本乳癌検診学会理事長、日本乳癌学会名誉会員、日本がん検診・診断学会理事、マンモグラフィ検診精度管理中央委員会監事、NPO法人キャンサーリボンズ理事長ほか、要職多数兼務。著書に『乳がん全書』『乳がんの人のためのレシピ』(法研)ほか多数。

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