40代の女性のからだの変化-ホルモン補充療法とは?

40~49歳の女性の健康管理のポイント

女性ホルモンを補うホルモン補充療法(HRT)の使用では、リスクと効果を十分検討する必要がある

40~49歳は女性ホルモンが減ってくる年代

 このシリーズ第7回の「18~39歳の女性の健康管理のポイント」に続いて、今回は「40~49歳の健康管理のポイント」をお届けします。
 この年代の女性の体の一番の特徴は、女性ホルモンが急激に減ってくることです。「なんとなく疲れがとれない」、「お化粧がのりにくい」、「時々カーッとほてる」、「二の腕や下腹にお肉がついてきた」、「仕事の能率が悪くなった」……など、微妙な衰えを感じるときでもあります。
 健康診断でも、今まで何も言われたことがなかったのに、「血圧が少し高い」、「コレステロール値が高い」、「血糖値が高い」、などを指摘されるようになります。

 女性ホルモンは、生殖器の若さを保っていると同時に、心臓・血管、骨・関節・歯、代謝、脳の機能、皮膚・髪、目、免疫など全身の健康と若さにもかかわっています。したがって、そのホルモンがジェットコースターのように低下していくことは、心身に大きな変化を及ぼすことになるのです。
 この年代では、肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病や、乳がん、卵巣がんをはじめとする悪性腫瘍のリスクも高まっていきます。

 では、減っていく女性ホルモンを補えば、問題が解決するのでしょうか?

ホルモン補充療法にはエストロゲンの単独使用と黄体ホルモンとの併用がある

 女性の美と健康の源は女性ホルモンなのだから、足りないなら補えばよいのでは……、と多くの人が考えてきました。このホルモンを補う治療法をホルモン補充療法(Hormone Replacement Therapy:HRT)といいます。

 HRTには、エストロゲン製剤と黄体ホルモン(プロゲステロン)製剤の両者を使う方法と、エストロゲン製剤単独で使う場合があります。両者を区別するために、米国では、両方のホルモンを使用する場合はEPT(Estorogen/progestogen therapy)、エストロゲン単独の場合はET(Estorogen therapy)と表現するように提唱されているようです。
 なぜこの2つがあるのかというと、エストロゲンを単独で使用した場合には、子宮内膜がん(子宮体がんとも言う)のリスクが高まるからです。病気により子宮摘出手術を受けたなど何らかの理由で、すでに子宮がない人にはETの使用が原則です。

1)エストロゲン製剤
 一般的に使われているエストロゲン製剤は、結合型エストロゲン、エストラジオール、エストリオール(すべて成分名)です。結合型エストロゲンは、妊馬尿から抽出したもので、エストラジオール以外のエストロゲン様物質が含まれています。エストリオールは、前の2つよりもかなりエストロゲン作用が弱い製剤です。

 こうした薬剤は、経口剤、経皮剤(塗り薬、貼り薬)、経腟剤(塗り薬)があり、経皮剤の場合は、肝臓に対する負担が少なく、中性脂肪を増やす作用が弱いなど、投与方法によって差があると報告されています。

 エストロゲン製剤は、のぼせやほてりには有効ですし、骨密度、骨折予防、萎縮性腟炎、動脈内皮細胞、コレステロール代謝に良い影響があることが報告されています。抑うつ症状、認知機能、睡眠障害、皮膚の改善に関しては、良いとする報告もありますが、あまりはっきりした効果はない、という報告もあります。

2)黄体ホルモン製剤
 単剤とエストロゲンとの合剤があります。単剤は経口剤、合剤は経口剤と経皮剤です。

3)使い方
 エストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤をそれぞれ使用する場合には、両者を持続して使う場合と、エストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤を周期的に使う場合があります。周期的に使うと定期的な出血がみられますが、長期使用しているとその頻度は減ってきます。持続的な使用では、初期には不正出血がみられますが、継続するとその頻度は減ってきます。
 黄体ホルモン製剤は、子宮内膜がんのリスクを増やさないために使われますので、4週間あたり10日以上の使用が必要であるとされています。

HRTはがんや心血管系の病気のリスクを高めるという報告もある

1)乳がん
 HRTと乳がんの関係は、1980年代から議論されてきています。さらに米国で、1993年から、ホルモン療法のリスクと効果を評価する大規模臨床試験「Women’s Health Initiative(WHI)」がスタートしました。37万人の女性が応募し、そのうち子宮のある16,608人の女性がEPTの効果検証の臨床試験に参加しました。この臨床試験は、EPT群において乳がん発症が予想を上回ったため、2002年に中止され、大きな話題になりました。

 臨床試験の結果、5年未満の使用ではリスクの増加は見られず、5年以上で相対リスクが1.26倍になり、長期使用はリスクになると報告されました。中止後の影響については、複数の研究でHRTの中止により乳がんリスクの上昇は消失する、と報告されていました。しかし2010年、WHIの追跡調査結果がJAMA(Journal of American Medical Association(米国医師会雑誌):vol.304,1684)に掲載され、浸潤性乳がんリスクはEPT群が1.25倍高く、またリンパ節転移は1.78倍多く、乳がんによる死亡率も1.57倍になることが報告されました。

 WHIは参加した女性の年齢が高いこと、肥満者が多いことなど、そもそも乳がんのリスクが高い方が含まれているのではないか、という批判も多くあります。我が国のケースコントロール研究では、乳がんリスクは増えないという報告があり、フィンランドのET治療者でも5年未満のケースは乳がんとは関連性がない、という報告もあります。

 欧米での成績が我が国にそのまま当てはまるわけではありませんが、乳がんをすでに経験した人、乳がんの家族歴をもっている人は、総合的なリスクを主治医とよく相談することが必要です。いずれにしても、長期の使用によって乳がんリスクが高まる可能性は否定できず、リスクとベネフィットを十分に検討して使用する必要があります。

2)子宮内膜がん
 子宮のある人では、ET療法は子宮内膜がんの相対リスクを2.3倍に増やすという報告があります。我が国のデータでは、エストリオールの単剤使用でもリスクが増えるという報告があります。一方、EPTはリスクを減らす、あるいは増やさないと報告されていますが、長期使用者ではやはり、リスクを増加するとの報告もあります。

3)脳卒中
 WHIでは、脳卒中のリスクの増加、特に虚血性脳卒中(脳梗塞)が増えることがわかっています。特に高血圧の人ではリスクが高くなる傾向があります。

4)心筋梗塞や狭心症
 エストロゲンは心血管に良い影響を与えるので、心筋梗塞や狭心症の予防に使えるのではないかと期待されてきました。閉経してすぐにHRTを開始した場合には、リスクが減るという研究結果もあります。しかしWHIでは、EPTは心筋梗塞や狭心症のリスクをむしろ増やす傾向がみられ、異なる研究でも、心筋梗塞などの既往がある場合は、むしろリスクを増やすことがわかっています。

 HRTを使っている人は日本ではそう多くありませんが、HRTはのぼせやほてりなどには効果が高く、すぐれた治療法です。また、短期的な治療では、がんや生活習慣病のリスクはあまり問題になりません。
 人によって悩んでいる症状や病気のリスクは異なりますので、利用したい場合は主治医とよく相談してください。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
荒木 葉子先生


東京医科歯科大学女性研究者支援室特任教授
荒木労働衛生コンサルタント事務所所長
慶應義塾大学医学部卒業後、内科・血液内科専攻。カリフォルニア大学サンフランシスコ校留学。報知新聞社産業医、NTT東日本東京健康管理センタ所長を経て、現在荒木労働衛生コンサルタント事務所所長。内科専門医・産業医・労働衛生コンサルタント。企業の労働衛生と半蔵門病院で内科診療を行う。主な著書に『臨床医が知っておきたい女性の診かたのエッセンス』(医学書院)、『働く女性たちのウェルネスブック』(慶應義塾大学出版会)など。

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