中国薬膳パワーの秘密-甘み・辛味・酸味・苦味・塩辛い味の効能

身近な食材を使って「医食同源」の理論にそった料理を

その季節、その土地でとれた食材を丸ごと使い、食材のもつ力を生かして体の働きを整える

毎日の食卓に生かせる薬膳の知恵

 北京五輪の開幕直前ですが、かつて中国の女子マラソンチームの馬(マー)軍団が愛用していたことで一躍有名になったのが、冬虫夏草(とうちゅうかそう)という漢方薬材です。薬膳というと、これら高価な漢方薬材が入った特別な料理と思われがちですが、そういったものばかりではありません。
 薬膳は、「医食同源」という中国伝統医学(中医学)の理論にそって考案された料理です。病気を治療することを目的とした「食療」と、病気を予防し健康を保つことを目的とする「食養」の二面があり、私たちが毎日の食卓で生かせる知恵袋は後者の食養です。

 中医学では、東洋思想の陰陽五行説が根幹を成しています。人間の健康やすべてのことが陰陽のバランスと、万物の要素である五行(木・火・土・金・水)のバランスによって成り立っているという考え方です。アンバランスな状態を食事や気功などで調整し、病気を未然に防ぐことを重視しています。「医食同源」という言葉に代表されるように、食材にはそれぞれ大切な効能があり、食材の味や色にも五臓(体の5つの臓器とその働き)を調整する働きがあるとされています。

食材の味や色が体の働きを調整してくれる

 たとえば味は五味といわれ、「甘み」「辛味」「酸味」「苦味」「塩辛い味」の5つがあります。「甘み」はハチミツや米などの味で、滋養強壮効果があり、緊張を緩めます。とりすぎると体が緩みだるくなり、腎臓の働きを弱めます。「辛味」はしょうがや大根などの味で、体を温め、発汗作用がありますが、過食すると発汗しすぎて冷えてしまいます。「酸味」は酢やヨーグルトなどの味で、体から出るものを抑える作用があり、夏に酸味を使うのは汗の出しすぎを防ぐためです。「苦味」はお茶やニガウリなどの味で、熱を冷まし利尿作用がありますが、とりすぎると胃腸を冷やしてしまいます。「塩辛い味」はしょうゆや味噌などの味で、しこっているものを和らげて便秘などに良いとされています。

 食材の色と五臓の関係は、赤が心臓、青(緑のこと)は肝臓、黄色がすい臓、白は肺、黒が腎臓、それぞれの臓器を強化してくれる色です。たとえば同じ豆でも黒豆は腎臓、白いんげん豆は肺、あずきは心臓の働きを調整します。
 これら食材の味や色などがもつパワーを生かし、体調に合わせた食材をバランスよく組み合わせた食事が薬膳なのです。

人間も自然界の一部。食べ物は生命をまるごと無駄なく食べる

 中医学では、人間も自然界に存在する動物のひとつであり、動物はそれぞれ口の中の構成にそったものを食べる、と考えられています。さて、人間の歯は全部で32本。穀類をつぶすための臼歯が大小合わせて20本、肉や魚を食べるための犬歯が4本、野菜や海藻を食べるための切歯が8本ですから、穀類:野菜:肉や魚=20:8:4。比率では穀類を63%、野菜を25%、たんぱく質源を12%食べることを前提に人間の口の中は構成されていると言い換えることができます。最近、現代栄養学に基づいて、食育の一環として発表された「食事バランスガイド」の比率と似ている点も興味深いものがあります。

 薬膳には、食べものは生命体で、生命は全体があってはじめて生きることができる、ひとつの生命をまるごと無駄なく食べるという「一物全体食」という考え方があります。米なら胚芽を取ってしまった白米よりも胚芽が残った状態で食べる、かぶや大根は葉や皮も食べる、魚は皮やアラも食べる―などです。
 この点を現代栄養学と重ねると、胚芽部分は食物繊維やビタミン類の宝庫であり、玄米などの未精白穀類は現代人の健康維持に注目されています。かぶの葉はカルシウムやβカロテンが豊富な緑黄色野菜で、皮からは食物繊維を補給することができ、しかも生ゴミ減少にもつながります。

その季節、その土地で採れたものが健康な心身を保つ

 かつて日本は、食文化や学問、医学など、あらゆる分野で中国の影響を強く受けてきました。そして鎖国によって独自の和漢方や和薬膳が培われたのです。明治時代以降、欧米から近代栄養学が入ってきますが、今も日本の食文化や伝統食には、実に多くの和薬膳の知恵が生きています。薬膳はそれぞれが住んでいる風土や自然環境が根源になるので、日本の風土に沿った和薬膳こそ薬膳パワーが光ります。
 島国で四季があり、湿度が多いことが日本の風土の特徴です。明治時代の医師、石塚左玄は「春は苦味、夏は酢の物、秋は辛味、冬は油と、心して、食え」と教えています。今でも私たちは、春には山菜を楽しみ、夏には酢味が効いた冷やし中華やトマトなどを好んで食べ、秋にはサンマの塩焼きにたっぷりの大根おろし、寒い冬には脂ののった魚や肉を使った温かい鍋料理が恋しくなります。

 人間も自然の一部ですから、季節に応じて体は変化し、体内の暦に従って、旬を楽しみながらその土地で採れた食材で料理を工夫し、健康を気づかい、無病息災を食に託すことは、昔も今も変わらないのでしょう。ただ、近年問題となっている残留農薬などの食の安全を考えると、薬膳的効果が期待できるのか心配です。薬膳は食べものそのものが健康であってこそ、力が発揮されるのでしょう。旬の地場野菜や安全な食材を手に入れるためにも、生産者の顔が見える産直や信頼できるなじみのお店をもちたいものです。

 暑い夏には、冷やしたそうめんに大葉やみょうが、しょうが、ねぎなど薬味をたっぷり入れて食べたり、きゅうりとトマトとじゃこの甘酢和え、冷やっこの梅肉風味、モロヘイヤとオクラと山芋のヌルヌルサラダなど、アイデアしだいで薬膳料理は簡単に作れます。旬の素材で夏の薬膳を楽しみましょう!

【執筆】
小池 澄子先生


管理栄養士・『カナ・食べもの塾』主宰
明治乳業に10年間勤務し、妊産婦や乳幼児の食事相談を担当。独立後、「自然と食と人」を結ぶネットワーク『有限会社カナ』を設立。女子栄養大学生涯学習講師、日本航空インターナショナル健康管理室非常勤栄養士。企業や病院での食生活を中心とした健康管理指導、保育園や地域での子育て支援、栄養相談、料理教室や、講演、新聞、雑誌など、幅広く活躍中。栄養、料理、農業を通じて、「心と体と社会の健康」を高める情報やレシピを提供し、食を柱にした子どもと大人のための食育活動を展開。

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