睡眠時無呼吸症候群は社会問題-いつの間にかの居眠りは危険信号

単なる居眠りではすまされない、早期発見・早期治療を

仕事中や車の運転中の居眠りを招いて事故につながるケースが増え、社会的な問題として対策が必要に

自覚のない眠りが続いたら……

 眠気を感じないまま眠りに落ちた、という経験はありませんか。もっとも、自覚がないのですから、周りの人から「仕事中に寝るな」などと、いわれのない小言をいただくことになります。そのうえ、集中力の低下や疲れやすさを感じているなら、あなたは睡眠時無呼吸症候群(SAS:sleep apnea syndrome)かもしれません。

 その場合、睡眠不足や疲れは、生活環境や精神状態から生じたのではありません。睡眠時の無呼吸状態が主な原因で、息の通り道である上気道が、眠っている間に狭くなったり塞がったりするためにおこります。

 睡眠時無呼吸症候群では、10秒以上の無呼吸状態が7時間の睡眠中に30回以上みられます。本人が眠っている間に、呼吸が低下して息が止まり、無意識に目覚め、呼吸を回復し、また眠る、という状態が何度も繰り返されるのです。そのため、原因に自覚のない寝不足の日々が続くことになります。また、そばで寝ている人を特徴的なあえぎ呼吸やいびきで悩ますことになります。

本人にとっても、社会にとっても深刻な問題

 睡眠時無呼吸症候群の人は、疲れがたまるだけでなく、高血圧を招きやすいために、脳卒中や心疾患の危険が高くなります。さらに、昼間に生じる自覚のない居眠りは、社会的にも大問題です。もし、そういう人が車のハンドルを握っていたら、どうなってしまうでしょう。

 昨年の秋、名古屋地方裁判所豊橋支部での判決で、赤信号で交差点に入り歩行者をはねて死亡させたトラックの運転手に対し、無罪判決が言い渡されました。被告が重度の睡眠時無呼吸症候群で、信号を故意に無視したとはいえないというのがその理由です。赤信号は認めたが、その直後に眠りに落ちた可能性を否定できないというのです。この判決に対し、検察側は控訴に踏み切り、現在も係争中です。
 ほかにも、列車衝突事故の運転士が、事故後に重度の睡眠時無呼吸症候群と診断された例などがあります。警察庁の調査によれば、睡眠時無呼吸症候群である場合、交通事故をおこす確率が3倍以上高くなります。全国で200万人とも300万人ともいわれる患者数を考えると、背筋が寒くなるデータです。

 睡眠時無呼吸症候群の危険を高める要因には、肥満、大量飲酒に加えて、あごが小さいなどの顔面骨格の影響があげられます。診断方法と治療方法は確立されていますが、現在治療中の患者数は15万人程度にすぎません。つまり、人命にかかわるリスクを背負いつつ早期発見と治療を必要とする人が、たくさん存在するのです。
 その多くが、睡眠時無呼吸症候群について知らず、眠気の自覚がなく、あっても疲れているだけと片付けてしまっています。たとえ思い当たる節はあっても受診するほどでもないと考えているのかもしれません。あるいは、病気が明らかになると仕事を失うのではないかという不安があるのかもしれません。

精密検査による診断と個人に合った治療法

 睡眠時無呼吸症候群の診断には、眠気などの自己申告は当てになりません。そこで、客観的な方法として、まず呼吸障害の程度を測定する器具を用いた検査でふるいにかけ(スクリーニング検査)、陽性の場合には精密検査による診断が実施されています。肥満や高血圧との関連が知られていますが、太っていない人や日中にそれほど強い眠気を感じない人でも、重度と診断されることがあります。

 睡眠時無呼吸症候群の治療は、CPAP(シーパップ)療法が保険適用となっています。寝るときに鼻マスクを装着し、上気道に一定の圧力をかけた空気を送ることで閉塞(へいそく)や狭窄(きょうさく)を防ぐ方法で、いびきや眠気が改善され、血圧低下も期待できます。
 また、気道を確保するための外科的治療が適当なケースもありますが、肥満している場合には効果が期待できません。そのほかに、マウスピースなどを用いて下あごや舌を前に移動する治療法もあります。
 一人ひとりに合った治療を受けると同時に、太っている場合には減量を、飲酒量が多い場合には節酒をすることが大切です。

 あなたのとなりで不規則ないびきをかいている人や、会議中に自覚なく眠っている人は、ひょっとすると潜在的な睡眠時無呼吸症候群患者かもしれません。まず、その症状や危険について、本人も周囲の人もよく知ることが大切です。周囲の人がもしかしたらと気づいたら、自宅でできるスクリーニング検査受診をまずすすめてください(問い合せ先:NPO法人睡眠健康研究所 電話03-5355-9941 担当者 三浦)。
 スクリーニング検査の判定結果によって精密検査の必要性の有無がわかります。適切な検査後、早期発見・早期治療につなげることで、将来の健康・安全への危険が軽減されます。

 そして、この病気による社会全体のリスクを減らすために、誰もが安心して診断と治療を受けられるような環境づくりが求められます。

(編集・制作 (株)法研)

【監修】
谷川 武先生


愛媛大学大学院医学系研究科医療環境情報解析学講座
公衆衛生・健康医学分野教授
昭和61年神戸大学医学部卒業。平成2年東京大学大学院博士課程(社会医学専攻)修了。同大学医学部助手(公衆衛生)、筑波大学社会医学系講師(地域医療学)を経て、平成14年同大学助教授。平成11年Harvard Medical School客員講師(睡眠医学教室)。平成20年2月より現職。

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