薬物乱用は簡単に辞められない? 身近な人が依存症になっていたら

連用すると脳が侵され、精神と身体に大きなダメージが

薬物乱用・依存は若者の「自由」・「尊厳」、そして「未来」を奪い、家族や身近な人の生活をも破壊していく

「一度だけなら」という軽い気持ちが薬物依存の始まり

 違法な薬物に手を染めるのは、一部の世界の人だけにとどまりません。記憶に新しいところでは、芸能人が相次いで逮捕された事件がありますが、最近は主婦、大学生や高校生、そして中学生の間にも薬物乱用が広がっています。

 こうして一般の人や子どもにまで違法薬物の問題が広がってきたのは、インターネットや携帯電話、宅配便などを利用した新しい売買方法が普及したことも一つの理由です。しかし、中学生や高校生が、教室の中で薬物の受け渡しをしていた事実が明らかになり、違法薬物に対する敷居が非常に低くなっている実態が浮き彫りになりました。

 若者は、なにも最初から暴力団や薬物の密売人と接触して大麻などを使用するのではなく、普段つき合っている親戚のお兄さんや親しい友人の家に遊びに行った所が、たまたま大麻使用の場面であり、勧誘されて軽い気持ち、遊び感覚で使ってしまうといったことなのです。
 これらの薬物乱用の場面では、即座に「自分はやらない」と宣告して、その場を立ち去る勇気を持つことが最も上手な断り方であると思われます。なぜなら、依存性薬物の勧誘に際し「イエス」と言って手を出すことは、その後の若者の人生においては、暴力被害を受けることよりも、「自由」・「尊厳」、そして「未来」をも奪われる危険性の高い重大な決断だからです。

 法律で使用が禁じられている薬物には、有機溶剤(トルエン、シンナーなど)、覚せい剤(メタンフェタミン)、コカイン、ヘロイン、LSD、MDMAなど、さまざまなものがあります。また、病気の治療のために処方される鎮静剤や睡眠剤も、決められた用法や用量を守らなければ薬物乱用にあたります。覚せい剤やMDMAなどの規制対象薬物は、たった一度使っただけでも「乱用」になるのです。
 「一度だけなら」という軽い気持ちが、「薬物なしではいられない」という薬物依存を招きます。

依存が生じると意志の力だけでは止められない

 これらの薬物は、乱用すると脳の中枢神経に作用し、気分の変容、幻覚、興奮、鎮痛、感覚変容などを引き起こします。たった一度のつもりでも、快感や高揚感などを味わってしまうと、それをもう一度経験したいという欲求を抑えることができなくなります。しかも続けて使用していると同じ量では効き目がなくなり、使用回数や量を増やしていくうちに使用のコントロールがきかなくなり、「薬物中心の生活」になっていきます。これが「薬物依存」という状態です。

 薬物依存には、精神的な依存と身体的な依存があります。
 タバコを止めたくても止められない状態を「ニコチン依存症」といいますが、ニコチン依存症では、タバコを吸えないと集中力がなくなったり怒りっぽくなったり、あるいは焦燥感に駆られたりします。これが精神依存です。
 身体的な依存は、アルコール依存症の人が、アルコールが切れかかると手が震えるというような場合です。身体の中にアルコールがあるのが普通の状態であると、身体がみなすようになるため、切れると脈拍や呼吸が速くなったり、嫌な夢を見て寝汗を大量にかいたり、けいれん発作を起こしたり、身体が正常に機能しなくなります。
 覚せい剤やコカイン、ヘロインの依存症では、依存の程度はニコチンやアルコールの比ではありません。

 薬物が切れることによって現れる症状を「離脱症状」といます。離脱症状は、精神的にも身体的にも不快です。そこで、不快な離脱症状が現れないようにするためにくり返し薬物を使用するようになり、さらに薬物依存が進行していくという「悪循環」が生まれます。
 こうなると、もはや止めようと思っても、自力では止められなくなります。意志の力だけではどうにもならないのです。

身近な人が乱用したり依存になったら

 薬物依存の状態になると、どんな方法を使ってでも薬物を手に入れようとします。それを「薬物探索行動」といいます。例えば、家族など身近な人に平気でウソをついたり多額の借金をしたりして薬物を入手する、万引き・恐喝・売春・薬物の密売などの事件を起こすといった例も多くみられます。
 とくに日本で主に乱用されている有機溶剤や大麻、覚せい剤などでは、現実にはないものが見えたり聞こえたりする幻視や幻聴といった幻覚症状が現れることが多く、被害妄想や嫉妬妄想から人間関係を悪化させたり、殺人や放火といった凶暴な事件につながることもまれではありません。

 このような問題が起こったとき、家族など身近な人が、事件が表ざたにならないように尻ぬぐいをしたり、本人に要求されるままに現金を渡していることが少なくありません。こうした行為は、薬物依存者を立ち直らせるどころか、ますます深みにはまらせる結果になり、家族など身近な人もその中に巻き込まれることになります。決して本人のためになりません。

 もし、身近な人の薬物乱用・依存が疑われるときは、精神保健福祉センターや地域の保健所の相談窓口を訪ね、相談してください。薬物を乱用していて、本人に止める気が全くないときは、地元の警察署や地方厚生局麻薬取締部などに相談するのがよいです。幻覚・妄想などの精神病症状が現れている場合は、早急に専門の精神科医療機関で治療を受ける必要があります。家族だけで抱え込んだりしないことが大切です。

(編集・制作 (株)法研)

【監修】
小沼 杏坪(きょうへい)先生


医療法人せのがわ KONUMA記念広島薬物依存研究所 所長
専門分野は精神医学、特に「薬物依存の予防・診療・社会復帰に関する臨床的研究」および「薬物乱用の需要削減に関する行政的研究」。著書に『薬物の乱用・依存問題の理解のために』(第一法規)、『ヘルスクエスト選書1 シンナー乱用の治療と回復』(ヘルスワーク協会)。共著に『覚せい剤依存症 第二版』(中外医学社)、”Amphetamine and its analogs”(Academic Press)、『臨床精神医学講座 第8巻 薬物・アルコール関連障害』(中山書店)、『新・病気とからだの読本4 脳・神経と精神の病気』(暮らしの手帖社)など。

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