心の病気の診断を補助する光トポグラフィー その検査方法とは?

脳の血液量の変化を波形であらわし、診断の補助に利用

うつ病など「心の病気」の客観的なデータが得られることで注目されています。

客観的な検査結果を元に、病状の評価、周囲の理解促進も

 体の病気の診断は、血液検査などの「客観的な」根拠に基づいて行われます。これに対して、これまでうつ病などの心の病気は、医師の問診によって得られた患者さんの言動・症状を診断基準に当てはめたり、医師のそれまでの診療経験に照らして診断するほかなく、血液検査、画像検査といった客観的な指標・根拠がありませんでした。このため、医師と患者の信頼関係や医師の診断技能のレベルによって病気の評価にバラツキが出たり、周囲の人の病気への理解が進まず、うつ病によって仕事が手につかない人が「ただ、なまけているだけじゃないのか」と言われたりすることもあるのが現状です。

 心の病気にも誰もが理解しやすい客観的な指標があれば、医師の側も病気の評価に一貫性を維持しやすくなり、患者側も本人や周囲の人が病気について納得しやすくなり、本人の治療への意欲の向上、周囲の理解促進といった治療のための環境を整えやすくなります。
 光トポグラフィー検査は、脳の血流量の変化を波形という客観的な形にあらわし、うつ病などの診断を補助する検査で、心の病気の客観的な指標として注目されています。

脳の活動状態を表す波形は、病気によっていくつかの典型パターンを示す

 光トポグラフィー検査には、赤外線よりもやや波長が短い近赤外光(きんせきがいこう)と呼ばれる光が使われます。この光を頭部に当て、反射してくる光を計測し、頭皮から3cmほど内側にある大脳皮質の血液のヘモグロビン量の変化を読み取ります。これで脳の活動(活性化)状態を数値化して、その波形をリアルタイムで画像化します。
 近赤外光は、銀行ATMなどで手のひらや指の静脈パターンを読みとる生体認証にも使われている安全な光です。皮膚や骨は通り抜けるものの、血液中のヘモグロビンには吸収されるという特徴があり、これを利用しているわけです。

 患者さんは近赤外光を照射する出力部分と取り込む部分がついた特殊な帽子をかぶり、いすに腰掛け、指示される課題に答えます。課題は、最初に「あ、い、う、え、お、をくり返し言う」(1分間)、次に「ある一文字で始まる言葉を言う」(例えば、“い”で始まる言葉。始まりの一文字を変えて3通り、各20秒の間に言う=合計1分間)、最後に再び「あ、い、う、え、お、をくり返し言う」(1分間)といった内容。検査時間は、前後の準備も含めて10~15分程度です。

 最初の1分間は、とくに大脳を使っていないときの脳波を見るものです。ポイントは、「“い”で始まる言葉は…」と大脳を使い始めてからです。大脳を使い始めたとき、血液量がどのように、どれくらいまで増加してくるのかを波形でチェックするのです。波形は、健常者、大うつ病性障害(うつ病)、双極性障害(躁うつ病)、統合失調症で次のような典型パターンを示すことがわかっており、それに当てはめて診断に役立てるのです。

●健常者:課題が始まると大脳がすぐに反応して血液量が急増。課題に答えている間中、血液量は高いレベルを維持する
●うつ病:すぐに反応するものの、血液量はあまり増えない
●躁うつ病:課題が始まってからも血液量がなかなか増えない
●統合失調症:血液量が十分に増えない、増加、減少のタイミングが良くない

 問診による診断と、光トポグラフィー検査の一致率は3つの病気とも約7~8割とされています。ただし、この検査で、例えばうつ病の波形が出たとしても、他の病気によってうつ病型の波形が出ていることも考えられ、診断には患者の全体をとらえた判断が必要となります。精神科領域の診断はあくまで医師の問診がベースになることには変わりなく、この検査はそれを補助する客観的なデータとして考慮されます。

問診では隠れていた躁うつ病を見つけた事例も

 光トポグラフィー検査は2009年4月、厚生労働省から「先進医療」として認められ、東京大学医学部附属病院をはじめ5つの医療機関で実施されています。患者の費用負担は1回約1万3千円が目安。うつ病が心配な人は増加傾向にあり、これらのどの医療機関でも検査の予約がとりづらい状態が続いています。
 東京大学医学部附属病院ではこの検査を単独では行わず、2010年2月から始めた「こころの検査入院(3泊4日)」の中で実施しています。この検査入院で、光トポグラフィー検査が用いられた例を2件ご紹介します。

[事例1] 家族の「病気への理解」を促す
 うつ病の診断を受けてから5~6年経つものの、なかなか治療効果があらわれない男性。問診では抑うつ症状は弱かったものの、光トポグラフィー検査の結果はうつ病の波形を示していました。
 心理検査やていねいな病歴の聴取から、家族のうつ病への理解が乏しいために、家族間のストレスが大きいことが伺われました。そこで家族を交えた面談の席上、光トポグラフィー検査の結果を見せ、「症状は軽減してきているが、うつ病が継続しているので、ストレスの少ない生活を心がけて」とアドバイス。
 以後、家族のうつ病への理解が進み、回復に向けた環境づくりへの意欲が向上。うつ病に関する客観的な指標を示せたことが、環境の調整、治療の取り組みへの転機になったと考えられました。

[事例2] 適正な診断と薬剤使用のきっかけに
 反復性うつ病と診断され、休職をくり返していた男性。入院時の問診では、軽い躁病が疑われる過去の言動(エピソード)が明らかになりました。詳細な病歴聴取からは、躁状態になるきっかけが判明。光トポグラフィー検査の結果も躁うつ病の波形となりました。
 面談の際に躁うつ病という診断が伝えられ、躁状態になるきっかけやそれに対する対処法などが伝えられました。本人は、これまで躁状態をうつ病が回復した状態と思い込み、病気ではないから診察時に医師へ伝えることではないと思っていたこともわかりました。
 うつ病と躁うつ病では使用する薬剤も異なるため、光トポグラフィー検査の結果が適正な診断と薬剤使用のきっかけとなりました。

 このように、光トポグラフィー検査は心の病気の適正な診断と治療に役立ちます。さらに、うつ病の早期発見・早期治療に結びつけることで、年間3万人を超える(うつ病と関わりの深い)自殺者を減らすのにも貢献できるのではないかと期待されています。

(編集・制作 (株)法研)

【監修】
木納 賢先生


東京大学医学部 精神神経科助教
千葉大学医学部卒業、東京大学大学院医学系研究科博士課程終了。医学博士。東京大学医学部精神神経科入局後、東京大学医学部附属病院、国立精神神経センター武蔵病院、JR東京総合病院を経て、現在東京大学医学部附属病院精神神経科助教として勤務。日本精神神経学会専門医・指導医。専門は精神疾患に対する光トポグラフィー検査、気分障害・不安障害の臨床。

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