患者と家族のためのがん情報サービスって?「患者必携」で正しい情報を

患者さんと医療者の新しいコミュニケーションのかたち

患者さんと医療者が同じ情報を活用することで、信頼関係のもと納得の治療と療養生活が可能に

がんと向き合うための信頼できる情報「患者必携」

 がんという診断を受け止めることは、大きなストレスをもたらします。不安で怒り散らしたり、どんなことにも否定的になることもあります。しかし、がんはもはやめずらしい病気ではなくなってきています。日本では2人に1人ががんにかかる今、「情報をバランスよく集めて、備えておくこと」が大切です。

 国立がん研究センターがん対策情報センターでは、患者さんが、いざというときにもあわてないで、自分らしい生活を過ごしていくために頼りになる情報の発信に努めてきました。その集大成ともいえる「患者必携」が、このほどできあがりました。
 患者さんとご家族はもちろん、お知り合いの方にも役立つがん情報として、役立てていただければ幸いです。

 「君之所以明者、兼聴也。其所以暗者、偏信也。(君の明らかなる所以の者は、兼聴すればなり。その暗き所以の者は、偏信すればなり。)(貞観政要)」
 唐の時代、魏徴(ぎちょう)の言葉で「広く意見を聴けば物事の見分けがつき、偏って特定の意見を信頼すると、見分けがつかなくなる」といった意味です。がんと言われたとき、まずは病状について自分なりに知っておくことが当面の備えになります。世の中には多くの情報があふれていますが、その中から信頼できる情報を集めることが第一歩になります。医療者と気軽に話し合える関係をつくっておくことも必要でしょう。混乱したまま情報源にあたってみたり、偏った情報だけを鵜呑みにすることは避けたいものです。

 国立がん研究センターがん対策情報センターでは、さまざまながんに関する情報を、インターネット(『がん情報サービス』)や冊子などで提供しています。
 「患者必携」とは、患者さんやご家族にとって必要な情報を網羅した、本と手帳を組み合わせた情報集のことで、上記のホームページで全文を無料で閲覧できます(『がん情報サービス>患者必携』)。
 全国388カ所ある(2011年4月現在)がん診療連携拠点病院などでは、見本版をご覧いただけます。また、本として手に取って活用したいといったご要望をうけて、この3月には全国の書店などで購入できるようになりました。

「知りたい」と「伝えたい」を一つに

 「患者必携」は、これまでの本やネットでの情報にはない新しい視点でつくられています。それは、「患者さんが知りたいこと」と「医療者が伝えたいこと」を一つにまとめたことです。

 「がん患者が必要とする情報をまとめ、すべてのがん患者さんとご家族に届ける」こうした目標のもとに、「患者必携」の制作が始まりました。
 まず、全国の患者・家族・市民の視点から参加いただいた「患者・市民パネル」の方々にご協力いただき、「患者さん目線の知りたい情報」を集めました。これを踏まえ、多くの患者さんの治療やケアにかかわっている医師、看護師をはじめ、多くの職種の方が「患者さんに伝えたい情報」として、信頼できる内容をわかりやすく、患者さんの気持ちに寄り添いながらまとめた試作版をつくりました。

 さらにこの試作版へのアンケート調査でいただいたご意見や、実際に使っていただいた方々の声を踏まえて、完成版『患者必携 がんになったら手にとるガイド』(A5判、528ページ)ができあがりました。
 この内容をコンパクトにし、「まず知っておいていただきたいこと」をまとめた「患者さんのしおり(『がんになったら手にとるガイド』概要版)」も作成しており、全国のがん診療連携拠点病院で配布が始まりました。もちろんインターネットでもご覧いただけます。
 「患者必携」は、次の冊子から構成されています。

・『がんになったら手にとるガイド』
 読むための本。病気や治療法の知識と対処法を知ることに加えて、今後の大まかな予定を聞いたり、情報を集めたり、気持ちを整理したりするときにも役立つ情報を掲載しています。わかりやすい言葉で、窓口や関連情報、質問例などを組み合わせながら書かれており、同じ悩みを持つ患者さんだからこそわかる、ちょっとした心構えや生活のヒントも取り入れています。

・『わたしの療養手帳』
 記録や情報を整理して書き留めるときに便利な手帳。「ガイド」と組み合わせて、患者さん自身が自分の体や気持ちの状態を知り、大事にしたいことを整理し、医療者に伝えていくためのきっかけとなるでしょう。

 また、地域によっては、医療機関や相談窓口など、地域の情報をまとめた『地域の療養情報』(現在4県で試作)を作成しているところもあります。こうした情報が充実していけば、全国どこでも、お住まいの地域の医療機関のことや独自の支援の仕組みを知ることができるようになると考えています。

情報を活用することで、新しいがん医療のかたちをつくる

 「患者必携」を読んでみて、さらに詳しく知りたいとき、あるいはわからないことや不安なことがあったら、最寄りのがん相談支援センターを利用できます。全国のがん診療連携拠点病院には相談支援センター(名称は医療機関により異なります)が必ず設置されており、専門のがん相談員が、治療や療養生活全般、地域の医療機関などの質問や相談を受けていて、その病院にかかっていなくても、無料で相談することができます(前述の『がん情報サービス』から検索できます)。相談は対面だけでなく、電話やファクス、メールでできるところもあります。

 多くの医療者の方にも「患者必携」のことを知っていただくために、がん診療連携拠点病院をはじめ、全国の医療機関にも見本版(市販版と同内容)を提供しました。医療者にも読んでいただくことで、医療現場で活用していただけるでしょうし、また、そのためのアイデアを集めたり、サポートすることにも取り組んでいます。
 患者さんと医療者が同じ情報源(本、手帳など)を活用することで対話が進み、信頼関係のもとで、納得して治療を受けたり、安心して療養生活を送ることができることを目指しています。

 さらに、情報を集めたり、つくったり、更新したり、活用することを通して、地域にどんな医療機関があるのか、どのように連携しているかといった議論が始まったり、望ましい医療のかたちについて、行政や医療機関を含めた検討が行われるなど、よりよい地域のがん医療を目指した取り組みにつながっています。

 ぜひ多くの方にホームページでご覧いただいたり、実際に本や手帳などを手に取っていただき、よりよい情報が届く仕組みの輪に加わっていただきたいと願っています。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
渡邊 清高先生


独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター
がん情報提供研究部 医療情報コンテンツ研究室長
1996年東京大学医学部卒業。内科、救命救急センター、消化器科レジデントを経て東大病院消化器内科。医学博士。専門分野は消化器内科、肝臓病学。2008年より現職。関心のあるテーマは、医療情報の提供、がんの抗体創薬、医療における政策研究など。冊子やホームページ(『がん情報サービス』)を通して、信頼できるわかりやすいがんの情報発信と普及に取り組んでいます。

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