脳血管障害とは

 脳血管障害には、血管が詰まって起こる脳梗塞(のうこうそく)と、血管が破れて起こる脳出血や、くも膜下出血があります。
脳梗塞
 脳梗塞には脳深部の細い血管が詰まって起こる1・5cm以下の小さなラクナ梗塞と、頸動脈や脳の表面の太い血管が動脈硬化(脂肪が血管の内側にたまるアテローム硬化)で細くなって詰まって起こるアテローム血栓性梗塞、および心臓のなかに血の塊(血栓)ができてはがれて脳に飛んで血管が詰まる心原性脳塞栓(しんげんせいのうそくせん)があります。心原性脳塞栓は、昔はリウマチ性弁膜症によるものが多かったのですが、現在、最も多いのは心房細動(しんぼうさいどう)という不整脈です。故小渕恵三元首相、長島茂雄元監督などの脳卒中はこのタイプです。いずれも発作性心房細動といって、たまに起こるものが原因でした。これは普段の検査では見つからないことが多いので、動悸がしたらすぐ心電図をとってもらいましょう。
 また、一過性脳虚血発作(いっかせいのうきょけつほっさ)といって手足の麻痺(まひ)やろれつが回らない、片目が突然見えなくなるといった症状が数分出現して自然に回復する場合があります。すぐ治るので軽く考えがちですが、これは頸動脈などが動脈硬化を起こしている兆候で、大きな脳梗塞の前兆です。「転ばぬ先の杖(つえ)」でただちに脳卒中専門医を受診する必要があります。
脳出血
 脳出血高血圧が長年続いて起こるものが最も多く、高血圧性脳出血といわれます。ラクナ梗塞と動脈硬化の発症機序(仕組み)が似ており、ラクナ梗塞患者の過半数に隠れた小さな脳出血があることが、最近のMRIで証明されています。脳出血は欧米に比べて、日本を始めアジア人に多いのが特徴です。これは人種差よりも食文化の違いが大きいといわれています。欧米では日本と逆でアテローム硬化による心筋梗塞脳卒中の4倍も多いため、その予防に重点が置かれています。したがって、欧米でアスピリン等の血液をさらさらにする薬が脳梗塞に有効だからといって、その効果が確認されているアテローム血栓性梗塞以外のタイプでむやみに服用すると、脳出血の危険性も高まることに注意する必要があります。
 くも膜下出血は生まれつき血管に弱い部分があり、そこに動脈瘤(どうみゃくりゅう)というこぶができて破れて起こります。脳の表面の血管から出血するので、通常片麻痺などは起こらず、突然の激しい頭痛と嘔吐、意識障害などが特徴です。再発しやすく死亡率が高い病気ですが、軽い症状の段階で見つかれば脳動脈瘤をクリップする手術で完治しますので、前述の症状がみられたら、ただちに脳神経外科を受診することが大事です。

高齢者の脳卒中の特殊事情



 一般に脳卒中は高齢者の病気と考えられています。私どもが運営している脳卒中データバンクの解析でも、日本の脳卒中の平均年齢は71歳です。しかし、タイプによって違いがあります。脳卒中のタイプを65歳以上とそれより若い群で比較すると、図7のようにラクナ梗塞やアテローム血栓性梗塞はあまり変わりませんが、心原性脳塞栓では65歳以上が23%と、若い群の11%の約2倍になっています。さらに75歳以上の後期高齢者でみると、心原性脳塞栓は65歳未満群の3・2倍にもなります。この理由は心房細動(しんぼうさいどう)という不整脈が、加齢とともに著明に増加してくることにあります。
 一方、高血圧脳出血は逆に若い群の約半分です。また、くも膜下出血も若い群の3分の1と少なくなっています。しかし、頻度は少ないですが、高齢者では脳血管にアミロイドという異常物質がたまり、血管が脆(もろ)くなって破れるアミロイド血管症による脳出血が増えてきますので、血液をさらさらにする薬には注意が必要です。
 また、高齢者が脳ドックなどでMRIを撮ると、脳に白い斑点のようなものが見えたり、小さな隠れ脳梗塞が見つかることがよくあります。この場合は高血圧糖尿病などの原因疾患を治療することが大事で、とくに太い血管が細くなっていなければ、血液をさらさらにする薬などをのむ必要はありません。