高齢者での特殊事情

 1997年度に、厚生省(当時)を中心に行われた糖尿病実態調査において、高齢者の糖尿病有病率は約15%、その数は262万人といわれ、全糖尿病患者690万人の4割近くを占めていました。その時点で、今後、少子高齢社会が進展するとともに、高齢者の糖尿病の比率はさらに増大するものと推定されていました。
 その推定が顕著に現実化したのが、2002年度の調査を経て最近報告された2007年度に厚生労働省が行った糖尿病実態調査の結果です。


 この調査では、糖尿病の指標となるグリコヘモグロビン値(HbA1C)が6・1%以上または現在糖尿病の治療を受けている人を「糖尿病が強く疑われる人」、HbA1Cが5・6%以上6・1%未満を「糖尿病の可能性を否定できない人」として、2群に分けています。その結果を97年の実態調査と比較したものが図14です。
 両群を併せると、97年度では1370万人であったのが、02年度では1620万人、そして07年度では2210万人に急増しています。また、男女ともその増加は60代と70代以上の高齢者における増加が主体であることが明らかとなりました。
 今回の調査のもうひとつの特徴として、高齢者における増加は、70代以上の男性では「糖尿病を強く疑われる人」がほぼ倍増しているのに対して、その他の年齢、性別区分における増加は、そのほとんどが糖尿病予備軍と考えられる「糖尿病の可能性が否定できない人」でした。
 高齢者における糖尿病予備軍の最近の増加には、加齢に伴い糖を代謝する耐糖能(たいとうのう)の低下が大きな要因になっています。その原因として、加齢によるさまざまな因子の変化が関与していますが、とくにインスリンの標的組織である骨格筋の減少に伴う体脂肪、なかでも内臓脂肪の相対的な増加がインスリン抵抗性を助長する結果となっています。
 高齢者の耐糖能低下は、IGTといわれる耐糖能異常や軽症糖尿病と類似しており、食前血糖は正常なのに食後血糖が上昇するのが特徴です。これは、加齢による膵臓のβ(ベータ)細胞の疲弊により、インスリンの初期分泌が遅延・低下することも一因と考えられますが、インスリン分泌能が遺伝的に低い日本人における近年のライフスタイルの欧米化が、β細胞の疲弊をより助長している結果とも考えられます。

治療とケアのポイント


包括的老年医学的機能評価(CGA)の重要性

 高齢者の糖尿病をはじめとする慢性疾患の良好な管理のためには、病気の治療だけではなく、その後の自己管理が十分に行えるか否かを評価することが重要です。そのためには、高齢者に対して行われる包括的老年医学的機能評価(CGA)を糖尿病の患者さんにも適用する必要があります。
 このCGAは、患者さんの身体機能、認知機能、基本的日常生活動作(ADL)、日常生活能力、生活の質(QOL)、うつ傾向、社会的サポート、経済的サポートなどの項目を、それぞれの指標やアセスメントツール(評価項目)を用いて、専門の心理療法士によって評価するものです。
 このCGAによると、高齢の糖尿病患者さんが虚弱(日常生活のうえで他人の介護が必要な状態)になる原因として、健忘症や認知症(にんちしょう)などの認知機能の低下、網膜症(もうまくしょう)や白内障(はくないしょう)による視力障害、うつやノイローゼなどの精神症状、脳血管障害の後遺症、透析(とうせき)を含む末期腎不全(まっきじんふぜん)などをあげています。このような虚弱な高齢の糖尿病患者さんを在宅で管理するためには、キーパーソンの存在が不可欠です。


 図15は、高齢の糖尿病患者さんのCGAの1例を示したものです。CGAを行うことにより各患者さんの問題点を抽出し、主治医を中心に精神科医、看護師、栄養士、理学療養士などの医療関係者と、キーパーソンとなる家族を含めたチームで、その解決策を作成し、適切に対処することが可能です。


 図15の例では、CGAで抽出された問題点を医療チームや家族で対処することで、糖尿病のコントロールのみならず、患者さんのうつ傾向が改善し、それに伴うQOLも大きく改善されています。さらに、加齢の進行とともにCGAを繰り返し、問題点の変化を的確に把握することが、今後の高齢の糖尿病のよりよい治療と管理のために必須のものと考えられます。

まとめとして

 21世紀は、超少子高齢社会の到来とともに、人口減少世紀ともいわれています。このような変化は社会の経済や文化に大きな影響を与え、社会環境にも変化が生じ、代表的な生活習慣病である糖尿病の発症や、その病態、あるいは治療や管理にも大きな影響を及ぼすものと思われます。
 糖尿病のような慢性疾患をもつ高齢者に対する医療は、今後、このような社会の趨勢に応じて機敏に、かつきめ細かに対処していかなければならないでしょう。