高齢者での特殊事情

 薬疹は、内服や注射などで体内に入った薬剤によって、皮膚に発疹が生じた状態で、その発症機序(仕組み)としてアレルギー性、中毒性などが知られています。皮膚症状のみならず、発熱や関節痛、各種の臓器障害などの全身症状を伴うことが多くなります。
 薬疹のポイントと高齢者での特徴は次のとおりです。 (1)薬疹をまったく起こさない薬剤はなく、抗生剤などの汎用(はんよう)薬剤ほど薬疹を起こしやすい。 (2)異なった薬剤でも薬の構造が似ている場合は、再発を起こす(交叉(こうさ)反応)。 (3)長期間使用して無事だった薬剤でも、体調の変化などにより薬疹を起こしうる。長期の使用(蓄積(ちくせき)作用)で初めて発症する薬疹もある(金製剤など)。 (4)高齢者は多剤を内服中のことが多く、原因薬剤を特定しにくいことがある。 (5)造影剤などの検査薬も原因薬剤になりうる。

治療とケアのポイント

 薬疹を治療するうえで最も大切なことは、原因薬剤と推定される薬をただちに中止することです。
 高齢者は使用薬剤が多く、原因となる薬を特定しにくいこともまれではありませんが、最近使い始めた薬剤(感冒薬(かんぼうやく)など)、薬疹を起こすことの多い薬剤(抗生剤、非ステロイド性消炎鎮痛薬、高尿酸血症(こうにょうさんけっしょう)治療薬、抗てんかん薬など)、基礎疾患の予後に影響しない薬剤の順に、可能な範囲で疑いのある薬を中止していくとよいでしょう。ただし、病院で処方された薬を中止する場合は、必ず主治医に相談してください。
 治療は病院での投薬が必須で、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の内服、抗ヒスタミン薬やステロイド薬の外用が一般的です。症状の激しい場合は、ステロイド薬や肝庇護薬(かんひごやく)の内服や注射が併用されます。
 各種の臓器障害(消化器官、眼、造血器など)の合併がみられる場合は、入院治療が必要になります。
 治療後は原因薬剤、あるいはその疑いのある薬剤を再び使用しないように注意することが最も大切です。原因薬剤の確定には、疑いのある薬を用いた各種試験(皮膚貼付(ちょうふ)試験、皮内反応試験、リンパ球刺激試験、再投与試験など)の実施が必要ですが、高齢者では基礎疾患の治療を優先するなどの理由で検査が十分に行われず、原因薬剤を特定できないことも少なくありません。

その他の重要事項

 主要病型は次のとおりです。
(1)播種状紅斑丘疹型(はしゅじょうこうはんきゅうしんがた)


 最も普通のタイプの薬疹で、小さな紅斑や丘疹性(少し盛り上がる)紅斑がポツポツと広い範囲に発症し、つながりやすい傾向を示します(図18)。多くは原因薬剤の摂取後7日以内に発症します。
(2)じんま疹
 膨疹(ぼうしん)(蚊に刺された跡に似た、限局性の浮腫)が体の各所に生じます。1個の膨疹は24時間以内に消退し、全体の発疹の分布は少しずつ変化します。
(3)多形紅斑
 滲出性(しんしゅつせい)(水っぽく盛り上がる)紅斑が全身に多発します。口唇や眼などの粘膜にも炎症症状がみられるタイプは、重症型のスティーブンス・ジョンソン症候群中毒性表皮壊死融解症型(ちゅうどくせいひょうひえしゆうかいしょうがた)に進展する場合があります。
(4)湿疹型
 治療抵抗性(治療しても治りにくい)の湿疹様変化が発生します。
(5)固定疹型(こていしんがた)
 原因薬剤を摂取するたびに、同じ部位に紅斑が生じます。
(6)紅皮症型(こうひしょうがた)
 全身の皮膚に鱗屑(りんせつ)を伴う潮紅(赤み)が生じ、体の表面に近い表在リンパ節のはれを伴います。
(7)光線過敏型(こうせんかびんがた)
 薬剤の摂取後、光線曝露(ばくろ)部(光が当たる部分)に紅斑やむくみ、湿疹様変化が出現します。
(8)扁平苔癬型(へんぺいたいせんがた)
 扁平苔癬様(こけ状の扁平に盛り上がった)紅斑が散らばるように出現、あるいは多発します。
(9)薬剤過敏症症候群(やくざいかびんしょうしょうこうぐん)
 発熱、リンパ節腫脹、肝機能障害、白血球増加、異型リンパ球出現などの症状を伴う重症型薬疹で、ヒトヘルペスウイルス6型などの再活動が関係します。