手術適応となる主な病気

 呼吸器疾患、とくに肺、縦隔(じゅうかく)や胸壁(きょうへき)の腫瘍では手術治療が必要です。肺腫瘍(はいしゅよう)、とくに悪性の肺がんが最も多い病気です。2007年の調査によると、国内では年間約2万6000人が肺がんに対して手術を受けており、年々増加しています。

主な手術方法



 手術法は、原則として、肺がんが発生した肺葉(はいよう)を切除し、同じ側の肺の付け根(肺門(はいもん))と気管周囲(縦隔)のリンパ節を残さず切除する方法、すなわち肺葉切除(はいようせつじょ)+リンパ節郭清術(かくせいじゅつ)が行われます(図21)。
 効果的、かつ安全に手術を行うためには、手術によって根治が期待できること、患者さんに手術に十分耐えられる体力があること、という2つの条件を満たす必要があります。
 手術の対象になるのは、非小細胞肺がんであり、かつ病期(進行度)がIA、IB、IIA、IIBの場合です。
 これより進行した病期では、手術だけでは根治の可能性は低いため、化学療法(抗がん薬)や放射線療法が行われます。
 肺がんは高齢者に多い病気ですが、単に高齢だから手術が不可能とすることはありません。年齢にかかわらず、元気で日常生活度が十分良好な人は手術を受けることができます。しかし、術後の合併症については十分な注意を払う必要があります。

術前の検査について

 術前の検査も重要です。呼吸機能検査(スパイロメトリー、動脈血ガス分析など)、胸部X線検査、CT検査は肺がんの診断だけでなく、肺全体の機能、基礎疾患の有無を知るために重要です。
 喫煙者は肺気腫を合併することが多く、呼吸機能検査では1秒量の減少などの異常や、胸部X線写真およびCTで特徴的な所見が認められます。1秒量予想肺活量が25%未満、または1秒量が1l未満の場合には、術後呼吸器合併症を起こす危険性が高いため、手術を行うかどうか慎重に検討する必要があります。
 心血管(循環器)検査として心電図をとりますが、動脈硬化などのリスクが高い人については、さらに精密検査を行います。栄養状態・腎機能については血液・尿検査で明らかになります。


 術前検査で危険が高いと判断された場合は、やむをえず手術を中止する場合もありますが、リスクをより少なくした手術が行われることもあります。呼吸機能の低下や、手術での体への負担をより軽くするために、肺の切除範囲を狭める手術(縮小手術)や、傷口が小さく、体への負担が少ない、内視鏡を用いた手術(胸腔鏡(きょうくうきょう)手術)が多く行われています(図22)。

手術後の注意点

 肺切除の術後には、肺容積が減少し、肋間筋などの呼吸筋力が低下し、また術直後は傷の痛みのために呼吸機能が悪化します。このため、術後に肺炎呼吸不全などの呼吸器合併症を起こす危険があります。また、術直後に心血管疾患(心筋梗塞(しんきんこうそく)、肺梗塞(はいこうそく)、脳梗塞(のうこうそく)など)や、そのほかの疾患を併発することもあります。
 高齢者、肺気腫(はいきしゅ)、肺線維症、心血管疾患の合併、血清アルブミン値3・0gdl未満の低栄養状態、腎機能障害などに該当する場合は、合併症を起こす危険が高いため注意が必要です。
 術後の合併症を極力避けるために、術前から予防策を実行する必要があります。術前に禁煙を完全に守ることが非常に重要です。術前に1カ月以上禁煙すると、術後合併症の発生率が4分の1に減ると報告されています。
 また、術前に呼吸訓練を行って、呼吸筋のトレーニングや腹式呼吸に慣れることも重要です。呼吸訓練にはスーフル、トリフローなどの医療用具が販売されています。