胎芽の発生

 妊娠12週ころまでの器官形成期、つまり人間としての形ができるまでの期間は、胎児ではなく胎芽(たいが)と呼ばれます。
 受精から約1週間後、受精卵は、中心部に液体がたまった胞胚(ほうはい)と呼ばれる状態で子宮内膜に着床します。着床した胚はさらに分化を続け、受精後2週間で外胚葉(がいはいよう)、内胚葉(ないはいよう)の2種類の細胞が分化してきます。さらに1週間後には、外胚葉と内胚葉の間に、中胚葉(ちゅうはいよう)と呼ばれる第三の細胞群が分化します。
 外胚葉からは、表皮や乳腺、皮脂腺、歯のエナメル質など、体の外層をおおう組織が分化しますが、さらに体の正中部背側で外胚葉の一部が線状に体内に陥入し、管状構造をとって神経管になります。この神経管からは、脳、脊髄(せきずい)といった中枢神経のほか、末梢神経や眼球などが分化します。内胚葉からは、胃腸管などの消化管、気道上皮、膀胱などが形成されます。
 中胚葉からは、体内の内側をおおう組織に分化する側板(そくばん)と、いろいろな臓器に分化する沿軸(えんじく)中胚葉の2つの細胞群が誘導され、前者は腹壁など、後者は心臓・血管系、筋肉、骨、腎臓など多くの臓器に分化します。また、生殖器系では、生殖腺(精巣、卵巣)は内胚葉に由来する原始生殖細胞が、中胚葉に由来する生殖堤組織にアメーバ運動で侵入して形成され、性管(男性の精管や女性の子宮など)は中胚葉から形成されます。
 たったひとつの細胞である受精卵から、どのようにしてこのように完璧にコントロールされた組織分化が起こるのかは未解明の部分が多くあります。そのなかで、アクチビンというひとつの物質の濃度の違いで、同一の未分化な細胞から、心臓、腎臓など多くの臓器が区別されて分化することがわかってきています。

胎児の発生

 妊娠12週を過ぎると、器官の形成は終わり、あとは体の大きさの成長が主になります。体の成長は、体全体で均一に起こるわけではなく、頭部がほかの部分より先行して発育します。このため、胎児は大人に比べて頭が大きく、妊娠12週ころで3頭身、新生児でも4頭身くらいです。
 また、各臓器は大きさが増すだけでなく、機能も成熟していきます。皮膚は薄くて赤い状態から、皮下脂肪が発達して厚みが増し、うぶ毛が生え、爪も伸びてきます。腎臓の発達によって胎児は排尿するようになり、妊娠後期の羊水はほとんどすべてが胎児の尿で占められるようになります。
 臓器の機能成熟のなかでとくに重要なのは、肺の成熟です。肺は、胸郭(きょうかく)の運動によりふくらんだり縮んだりして空気を肺胞(はいほう)内に取り入れ、酸素と二酸化炭素の2つのガスを血液と肺胞内の空気の間で交換する臓器です。しぼんだ風船をふくらませるには力が必要ですが、ある程度ふくらむと、あとはたやすくふくらむようになります。肺もこれと同じで、完全にしぼんでしまうとふくらみにくくなってしまいます。
 肺胞内は濡れているので、肺は、水の表面張力により縮もう縮もうとしています。しかし、肺胞にはサーファクタントという界面活性物質(石鹸のようなもの)を出す細胞が存在し、肺胞内の表面張力を減らすため、肺がふくらみやすくなっているのです。
 胎児が未熟な間は、このサーファクタントを分泌する細胞が少ないのですが、成熟するにつれてこの細胞が増え、肺がしぼみにくくなって成熟します。未熟なうちに胎児が外界に生まれてしまうと、サーファクタントが十分でないため、出生後に一度泣いてもすぐに肺がしぼんでふくらみにくくなってしまい、呼吸状態が悪くなるのです。