妊娠時の腎機能

 腎臓のはたらきは妊娠前に比べ妊娠中は非常に増大します。たとえば、腎血漿(けっしょう)流量は妊娠前に比べ30%、糸球体濾過値(ろかち)は50%増加します。妊娠中に腎臓には経験したことがない負荷がかかるので、腎機能に異常がある場合、妊娠前に腎臓のはたらきを評価し、妊娠中に耐えることが不可能であれば妊娠はできません。妊娠が判明してから同様の診断がなされた場合も、中絶を行わなければ母体の生命に危険が及ぶことがあります。

注意すべき腎臓病

 妊娠中は、増大した子宮や怒張(どちょう)した卵巣静脈による尿管の圧迫、増加したプロゲステロンによる尿管の弛緩(しかん)から尿の膀胱尿管逆流が生じやすく、この結果、尿路感染症が生じやすくなります。妊娠中に考慮すべき腎臓病には、急性腎炎、慢性腎炎、ネフローゼ症候群腎移植、尿路感染症などがあり、以下にそれぞれ解説します。
急性腎炎:蛋白尿が陰性化して12カ月を経過していれば、妊娠・出産は差し支えありません。
反復性あるいは持続性血尿症候群:妊娠・出産は差し支えありません。
慢性腎炎:妊娠前の腎機能(Ccr:クレアチニンクリアランス)で次の5ランクに区分します。(1)90ml分以上、(2)90〜70ml分、(3)70〜50ml分、(4)50〜30ml分、(5)30ml分〜透析(とうせき)導入前。
 (1)、(2)は妊娠・出産は一般に差し支えありません。(3)は原則としてすすめられません。(4)、(5)はすすめられません。これらの基準は原則的なもので、とくに(1)、(2)の病期では病態が安定している状態に適用します。蛋白尿が2g日以上の場合、あるいは高血圧の合併(拡張期血圧95mmHg以上)では区分を低いランクとします。
ネフローゼ症候群治療効果と腎機能から次の6ランクに区分します。
 (1)完全寛解(かんかい)…治療打ち切り後6カ月を経て再発をみない場合は、妊娠・出産は一般に支障はありません。なお、6カ月以内は原則としてすすめられません。(2)不完全寛解I型(蛋白尿1〜2g日程度)…Ccrが70ml分以上の場合、治療打ち切り後6カ月を経て病態の安定が認められる場合は一般に支障はありません。なお、6カ月以上にわたり病態が安定していても治療中の場合には、原則としてすすめられません。(3)不完全寛解I型(蛋白尿1〜2g日程度)…Ccrが70〜50ml分の場合、原則としてすすめられません。(4)不完全寛解II型(蛋白尿2〜3・5g日程度)…Ccrが70ml分以上の場合、原則としてすすめられません。(5)不完全寛解II型(蛋白尿2〜3・5g日程度)…Ccrが70ml分未満の場合、すすめられません。(6)治療無効(蛋白尿3・5g日以上)…すすめられません。
 なお、拡張期血圧が95mmHg以上を持続する場合、あるいは病態が不安定な場合には区分を低いランクとします。
腎移植後:妊娠の可能な条件としては、(1)腎移植後2年間以上一般状態が良好であること、(2)蛋白尿がないこと、(3)高血圧がないこと、(4)拒絶反応の徴候がないこと、(5)血清クレアチニン値が2mgdl以下であることなどをすべて満たすことが必要です。
尿路感染症:前述の妊娠の特異性から、妊娠中は尿路感染症を合併しやすくなります。妊娠中の腎盂(じんう)腎炎の症状は、発熱(39℃台などの高熱)・悪心(おしん)・嘔吐・倦怠感(けんたいかん)・片側の腰背部痛が典型的ですが、腰背部痛を伴わない場合があり、ウイルス性の上気道炎や胃腸炎と誤ることがあります。妊婦で39℃以上の発熱をみた場合、腎盂腎炎の可能性が最も高く、発熱や嘔吐のために脱水状態にあることが多いので入院安静とし、抗菌薬の静脈内投与と十分な補液を行います。
 治療が遅れると子宮収縮を生じ、切迫早産から早産へと進展する危険があるので注意が必要です。