パーソナリティー障害とは、人が生まれもっている性質(生物学的素因)と環境とにより形成され、思春期以降に次第に明らかになってくる人格の傾向のうち、本人あるいは周囲がその人格傾向により社会生活上の著しい困難を来してしまう病態をいいます。


 この障害は一般の精神疾患に伴って存在することも多く、うつ病摂食(せっしょく)障害などにしばしば伴うことがあります。今日、DSMIV‐TRというアメリカ精神医学会の分類では表12に提示するような10種類のパーソナリティー障害が分類されています。これらを眺めてみますと、クラスターA群は一般に統合失調症(とうごうしっちょうしょう)の周辺領域の病態で風変わりにみえる人たちを、クラスターB群は衝動や情緒の表現の問題をもち風変わりにみえる人たちを、クラスターC群は対人関係や社会といったものを含めた外界に強い不安や恐怖を感じており、どちらかといえば私たちが本来もっている性質の一部が極端に強調された形式で常に表出される群として分類しています。
 ただし、これらは研究上や治療上の必要から仮定された概念であり、現在の分類や診断基準が正しいか否かについてはさまざまな議論があります。また、文化社会的な背景が異なると妥当性には疑問をもたざるをえないものもあります。たとえば、回避性(かいひせい)パーソナリティー障害は日本人の一般的性向と似ているため、日本人ではあてはまりやすいことが知られています。

境界性(きょうかいせい)パーソナリティー障害(しょうがい)

パーソナリティー障害とはどんな障害か

 パーソナリティー障害のなかでは最も多くみられるもので、米国では精神科外来患者の20%、入院患者の10%程度を占めるといわれています。日本においても、精神科入院患者の5〜10%を占めます。日本では、最近この分野の権威である牛島らにより厚生労働省研究班の治療ガイドラインが策定され、積極的な取り組みを行う治療施設もみられます。
 衝動性(しょうどうせい)や情緒不安定性が高いこの障害は、救急外来では自傷行為や過量服薬で受診することが多いことでも知られています。これらの行為の多くは、患者さんが自殺を直接の目的としていなくて、何とか精神的苦痛から逃れようとして行っている自己防衛的な行動である側面がみられます。
 症状の特徴は、親しい者から見捨てられることを避けようとして行う衝動的行動と、理想化とこき下ろしといわれる、対人関係での不安定で衝動的な言動です。また、付随した症候として、慢性的空虚感(くうきょかん)、短時間で変化する感情、怒りの制御困難、また、生き方の問題として自我同一性の障害などを伴います。
 この障害の大切な側面は、他のさまざまな障害と併存しやすいことです。うつ病摂食障害、アルコール・薬物の依存症などにしばしば認められます。最近では、発達障害のひとつのADHD注意欠如多動性障害)との関連性も指摘されています。職場や学校でこうした人がいると周囲の人はその人に気を使い、いつも感情的に張りつめた状態になることから、このことをやめることを形容して“Stop Walking on eggshells”(邦題『はれものにさわるような毎日をすごしている方々へ』)というタイトルの患者さんへの対処法の本が米国で以前好評となり、和訳されました。

治療の方法

 患者さんは情緒的に反応しやすいため、通常の精神療法的接近が困難な場合が少なくありません。そこで今日までさまざまな治療方法が試みられてきました。そのなかで最も今日世界的に用いられているのは弁証法的行動療法(DBT)でしょう。
 これは、認知行動療法と禅の思想を融合させたというユニークな治療方法です。行動療法、個人精神療法、電話相談、薬物療法を多角的に組み合わせて患者さんの自殺や自傷行為を減らし、生活の質を改善しながら、次第に病態の安定化を求めようとするもので、その効果が研究により確認されている数少ない治療方法のひとつです。
 この治療方法の姿に象徴されるように、この障害は何かひとつの治療方法で対応できるものではなく、さまざまな方法を組み合わせて対応していくべきものでしょう。最近の話題としては、薬物療法では最近開発された非定型抗精神病薬が有効であるとの報告が増えています。
 こうした病態への接近は、まず患者さんの作り出す世界に巻き込まれず、一定の心理的距離を保つこと、患者さんの行為の是非を問うのでなく、何がその行為を導いているのかをゆっくり求めていくという姿勢が大切でしょう。

自己愛性(じこあいせい)パーソナリティー障害(しょうがい)

パーソナリティー障害とはどんな障害か

 この障害は、傲慢な態度、自分に関する限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛といった空想、誇大的(こだいてき)自己像、他人を不当に利用する、他人への共感性の欠如、自己像を傷つけられる体験に対する憤怒(ふんぬ)(自己愛憤怒)などを症状としてもちます。現代の資本主義的な競争社会において生き残ることを至上命題としたようなこの病態は、精神分析の研究により描き出された障害ですが、日本の精神科の臨床現場ではあまり診断されない障害です。
 患者さんは特有の尊大さの背後に、自信のなさが強くみられます。日本人では自己愛の障害は、尊大であるより、むしろ他人に対する強い怯(おび)えをもった形で表現されることが多いと考えられています。典型的な症例ほど医療現場には現れず、クレーマーなどとして社会のなかでトラブルを起こしていたりすることが多くみられます。あまりにトラブルが多く、本人がこのため抑うつ的になったり、不眠になったりというように付随した症状のために外来を訪れるのが治療のきっかけとなることが少なくありません。

治療の方法

 本障害の治療として最も多く行われるのは、障害に付随した不眠、抑うつ、また身体不調などに関する対処的治療です。この障害自体への治療は、ハインツ・コフートにより開発された自己心理学に基づく精神分析的精神療法が知られています。
 この療法は、患者さんの本来脅かされやすい自己像を、治療者が肯定的に評価し共感を与えていくことにより強化していくものです。数年の時間を要する治療ですが、本障害に特化された治療としては有効な方法であると考えられています。こうした病態への基本的接近は、患者さんが語る空想を否定せず、現実的なことを直視させるより、患者さんがよく機能している部分を評価する方法です。

反社会性(はんしゃかいせい)パーソナリティー障害(しょうがい)

パーソナリティー障害とはどんな障害か

 この障害は、社会規範に反する行動を良心の呵責(かしゃく)なく行う人々に診断されるものです。犯罪者の研究から導き出されたこの障害は、過去にはサイコパス(精神病質(せいしんびょうしつ))と呼ばれていました。
 男性に多く、知的な印象を受ける場合も少なくないのですが、社会規範や道徳には顧慮(こりょ)はなく、自己の利益や都合といったことを追求します。このため、やはり自分からこの障害のために医療機関を受診することはなく、多くは犯罪が犯されてから、その原因を検討されるなかで明らかになってくるものです。


 症候は、表13に提示した項目を参照していただくとよりわかりやすいと思われます。
 本障害はパーソナリティーの障害と呼ばれますが、今日では15歳以前に発症の行為障害であったことが診断基準で求められています。すなわち、発達過程で思春期以前にもっている傾向であると考えられ、何らかの脳機能上の障害をもっているのではないかと推定されています。
 そのなかで、発達障害のひとつである、注意欠如多動性障害ADHD)を基礎にする一群の存在も仮定されており、ADHDから行為障害、そして反社会性パーソナリティー障害という経過をたどるものもあると考えられています。ただし、反社会的行動とADHDとは基本的に質の異なる問題を含んでいることも確かであり、このようなパーソナリティー特性がどのように形成されていくのかは不明な点が多いのが現状です。

治療の方法

 本障害の治療は医療刑務所などで、今までさまざまな試みがなされてきました。しかし、その効果については症例数が限られることから必ずしも明らかではありません。
 易怒性(いどせい)、攻撃性については抗精神病薬や気分調節薬、抗てんかん薬が用いられます。また、患者さんの認知のゆがみに関しては認知行動療法が、対人関係の問題については個人精神療法が行われます。

回避性(かいひせい)パーソナリティー障害(しょうがい)

パーソナリティー障害とはどんな障害か

 この障害は、極端に低い自己評価を背景にして、対人場面で傷つくことを過度に恐れる傾向がり、そのため「自分なんかふさわしくない」という感覚をもちやすく、社会において活躍することを避ける行動となって現れます。その傷つきへの恐れは、私たちが通常感じるもの以上に過大です。これは日本人のように謙譲が美徳とされ、賞賛を避けることもひとつの選択とされる文化圏では、必ずしも障害といえないかもしれません。
 一方、欧米では有名な賞を受賞しながらその受け取りを避けたり、受賞の知らせを聞いただけで行方をくらます人のなかには、このような問題を抱えている人も含まれているのではないかと考えられています。
 また、前述の低い自己評価についてですが、本来は賞賛されたり、受け入れられたいと望んでいながら、それが達成されないことへの不安が高いために、他人の評価を受ける場面を避けるという、いわば「密やかな自己愛の障害」をもつものもこのなかに含まれるといえるでしょう。

治療の方法

 この障害に特異的な治療は存在しません。実際の臨床では、外来での精神療法が中心となります。主治医と相談しながら、自分自身の問題として症状を認識して、過度の自己評価の低下による認知のゆがみを修正していくことが必要です。また、併存する不安、抑うつ、社会恐怖、不眠などに対処的治療が行われます。