胸部大血管損傷とはどんな外傷か

 胸部の大血管損傷には胸大動脈(きょうだいどうみゃく)損傷、腕頭動脈(わんとうどうみゃく)損傷、総頸動脈(そうけいどうみゃく)損傷、鎖骨下(さこつか)動静脈損傷、肺動静脈損傷、上下大静脈(じょうかだいじょうみゃく)損傷などがあります。
 鈍的(どんてき)外傷に基づく胸大動脈断裂の場合、生きて医療機関へたどり着くのは約20%ですが、これを放置しておくと2週間以内にその66%が、10週間以内に90%が死亡するといわれます。
 胸部大血管損傷は、極めて重篤であり、また緊急度も高いものです。

原因は何か

 銃や刀器の所持が厳しく制限されている日本では、交通事故や高所からの墜落などによる鈍的外傷が大部分を占めます。
 胸部の鈍的外傷によって大血管損傷が発生する機序(メカニズム)は、(1)比較的可動性のある部分と固定されている部分との間に作用する剪断力(せんだんりょく)(はさみ切る力)、(2)椎体(ついたい)の直上における大血管の圧挫(あつざ)、(3)強大な外力が作用した結果生じる血管内圧の異常上昇などと考えられています。

症状の現れ方

 胸部大血管が損傷されると、血管内の血液が胸腔内あるいは縦隔(じゅうかく)内に流出して循環血液量が著しく減少し、出血性ショックを来します。
 胸痛、顔面蒼白、チアノーゼ(皮膚などが紫色になる)、頻脈(ひんみゃく)および脈拍微弱、頻呼吸、四肢冷感および冷汗などがみられ、症状が進行すれば意識障害や不整脈(ふせいみゃく)から心停止に至ります。

検査と診断

 診断は、胸部外傷後の胸痛、出血性ショック症状に加え、胸部単純X線、胸部造影CT、経食道エコー(超音波)、MRI検査、大動脈造影などの検査から確定します。

治療の方法

 診断が確定したら、ただちに緊急手術を行います。手術は損傷部を縫合するか、あるいは損傷部を切除して人工血管による置換(ちかん)を行います。
 胸大動脈損傷の手術では、大動脈が遮断されて脊髄(せきずい)への血行や腎への血行が長時間障害されると、対麻痺(ついまひ)や急性腎不全を併発することがあります。そのために、人工血管やシャントチューブを用いた一時的バイパス法、左心バイパス法、部分体外循環法などの補助手段を用い、大動脈末梢の血行を保つ方法が併用されます。
 最近では、損傷した大動脈内に血管内ステントを留置する治療法も開発されています。

応急処置はどうするか



 出血性ショックを起こしている場合は、負傷者を仰臥位(ぎょうがい)(あお向け)にして下肢を高くし、下肢血管内の血液を脳や心臓の血液循環に少しでも多く向ける必要があります(図43)。迅速に救急車を手配する必要があることはいうまでもありません。