妊娠に関係した高血圧とはどんな病気か



 妊娠に伴う高血圧(妊娠高血圧症候群)は、妊娠した人や出産前後の人の死亡の主な原因となる、重要な病気です。妊娠中の高血圧は高いほう(収縮期血圧)で140mmHg、低いほう(拡張期血圧)で90mmHg以上がみられる場合をいい、次のように分類されます(表5)。
 (1)妊娠高血圧:妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し分娩後12週までに正常にもどるタイプ。
 (2)妊娠高血圧腎症:妊娠20週以降にはじめて高血圧が発症し、蛋白尿を伴うもので分娩後12週までに正常にもどるタイプ。
 (3)子癇(しかん):妊娠20週以降に初めてけいれん発作を起こし、てんかんなどのほかの病気が否定されるもの。
 (4)加重型妊娠高血圧腎症:高血圧や蛋白尿の両方が妊娠前か妊娠20週までにあるか、どちらか一方が妊娠前か妊娠20週までにあり、残りの一方が20週以降に発症するもの。


 妊娠高血圧症候群の重症度を表6に示します。

治療の方法

 いずれの場合も、内科医(循環器の専門医か高血圧や腎臓の専門医)と産科医とが緊密に連携を取り治療を行います。
 現在の高血圧治療ガイドライン2009では、軽症の高血圧の治療は積極的には行わず、高いほう(収縮期圧)で160mmHg以上、低いほう(拡張期圧)で110mmHg以上の妊婦さん、妊娠高血圧腎症の妊婦さんでは、母体の保護、とくに脳出血の予防と子癇へならないように降圧薬による治療を行います。
 用いられる降圧薬は、おなかにいる赤ちゃんに対する安全性が高い点から、中枢性交感神経抑制薬メチルドパ(アルドメットなど)が最初に使われます。血管拡張性降圧薬ヒドララジン(アプレゾリン)やβ(ベータ)遮断薬アテロノール(テノーミン)α(アルファ)β遮断薬ラベタロール(トランデートなど)なども使用されます。
 β遮断薬は、胎児の徐脈や妊娠初期使用による胎児発育遅延の報告もあります。メチルドパやラベタロールでは重篤な肝障害が起こる可能性があります。
 子癇自体が血管内皮機能の異常や全身諸臓器の障害を伴う症候群であり、肝臓に微小脂肪滴(しぼうてき)や肝細胞壊死(えし)、胆汁うっ滞の像がみられるので、メチルドパやラベタロールの投与時には肝機能について細心の注意が必要です。
 これらを組み合わせてもなお降圧がえられない時は、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の併用を考えます。利尿剤は胎盤血流を減少させる可能性があるので、妊娠中に新たに使用されることはすすめられません。ACE阻害薬やAII受容体拮抗薬は新生児に羊水過少症(ようすいかしょうしょう)、腎不全(じんふぜん)、成長障害などを起こすことがわかっているため、妊娠中の投与は禁忌とされます。
 これらの治療を行っても、妊娠の継続が困難であれば分娩に導きます。なお、分娩間近の重症高血圧では、子癇のけいれん発作を防ぐために硫酸マグネシウムを用いてもよいとされます。子癇を発症した場合、治療の目標としては、けいれんの制御、低酸素血症(ていさんそけっしょう)の補正、高血圧の管理、分娩の管理です。
 妊娠前から行われている治療は、原則としてそれまでの治療を継続しますが、ACE阻害薬やAII受容体拮抗薬はほかの治療薬に変更します。