僧帽弁逸脱症とはどんな病気か

 循環器内科医が最もよく出合う異常のひとつです。健常な集団でも、心エコー(超音波)検査を行えば数%の確率で必ず見つかります(不正確な心エコー検査による過剰診断が時として問題になっている)。
 病気とはいえない単なる心エコー検査上のわずかな異常から、手術が必要になるようなものまで、非常にさまざまな病態が含まれています。女性に多い異常で、男性の約2倍の頻度です。
 僧帽弁が心臓の収縮期に左心房側に落ち込んでしまう異常で、このため僧帽弁閉鎖不全症(へいさふぜんしょう)や不整脈が起こりやすくなります。ほとんどは僧帽弁逸脱症だけのことが多いのですが(特発性)、なかには結合組織の病気(マルファン症候群など)や体形の異常(漏斗胸(ろうときょう)や直背(ちょくはい)症候群など)を合併します。
 僧帽弁には粘液水腫(ねんえきすいしゅ)に似た変化(弁の膨隆や余剰)が起こります。

症状の現れ方

 症状はさまざまです。すなわち、無症状でとても病気とはいえない状態から、重症の僧帽弁閉鎖不全症までが含まれます。一定しない胸痛や不整脈による動悸(どうき)、めまいや失神が起こることもあります。
 また、現在は異常が軽度でも将来進行する可能性がありますが、自然経過はまだよくわかっていません。最近の研究では、無症状であっても発見時に中等度以上の僧帽弁閉鎖不全症がある場合、左心室の機能が低下している場合、逸脱の程度がひどい場合、心房細動の合併がある場合などでは、50歳以上の患者さんでは予後が悪く、また合併症が起こりやすいとされています。
 僧帽弁閉鎖不全症が重症になれば心不全症状が起こりますが、そのほかに不整脈や脳梗塞(のうこうそく)などの塞栓症状が起こりやすくなります。また、感染性心内膜炎を起こす可能性もあるため、必要な時に適切な予防が必要です。

検査と診断



 僧帽弁逸脱症自体は、心エコー検査で診断します(図10)。より詳しく調べるためには経食道心エコー検査が必要になることもあります。心エコー検査で逸脱の部位、程度、僧帽弁逆流の有無や重症度を判定できます。
 重症の不整脈が疑われる場合には、不整脈に対する詳しい検査が必要になることもあります。

治療の方法

 ほとんど場合は無症状で、心機能も正常なのでとくに治療を必要としません。以前は感染性心内膜炎の予防のため、抜歯などの際には抗生剤の服用が必要とされていましたが、最近は抜歯などの歯科的処置では抗生剤の服用は必要ないとされています。胸痛や不整脈による動悸にはβ(ベータ)遮断薬が有効です。
 重症の僧帽弁閉鎖不全症を合併している場合に手術するかどうかの判断は、前項の僧帽弁閉鎖不全症と同じですが、最近では僧帽弁を修復して自己弁を温存する僧帽弁形成術がしばしば行われます。この手術の場合は、人工弁置換術よりも早い時期に手術が行われることがあります。また、腱策(けんさく)の断裂により逸脱がはなはだしい場合にも早期の手術がよいとされています。