エイズ(AIDS)脳症とはどんな病気か

 HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染末期、すなわち最終段階で発症する脳症です。大脳白質、深部灰白質(かいはくしつ)に病変があり、血管の周囲を中心に炎症細胞の浸潤(しんじゅん)がみられるHIV脳炎と、髄鞘(ずいしょう)、軸索(じくさく)の脱落があるHIV白質脳症が主にみられます。治療の普及により、本症の頻度は減っています。

原因は何か

 HIV‐1が直接関係しています。神経障害を引き起こす原因として、2つの場合が考えられています。HIV‐1感染そのものによる直接的障害と、HIV‐1感染に対する生体の免疫反応から生じる脳障害物質による間接的障害です。とくに後者の説が有力視されています。

症状の現れ方

 エイズ脳症の臨床症状は、認知、運動、行動障害を中心とした進行性の認知症が特徴です。しばしば集中力の低下、物忘れ、作業能率の低下などを訴え、無気力になったり、あらゆることに興味を失ったりします。また、幻覚、妄想(もうそう)、躁(そう)状態・うつ状態など幅広い精神障害もみられます。
 発病初期には運動障害はみられませんが、病気が進むと不安定な歩行、下肢の脱力、振戦(しんせん)(震え)などの運動症状がみられるようになります。症状が進行するにつれて、認知機能障害が著明となり、行動異常を示すようになります。
 末期には高度の認知症を示し、周囲に対して意味ある反応を示さず、ほとんど植物状態になります。約6カ月で日和見(ひよりみ)感染症などの合併症で死亡します。

検査と診断

 特有な診断法はなく、臨床所見や検査結果を参考に米国神経アカデミーの診断基準に照らして総合的に診断されます。概略すると、(1)HIV‐1感染の証明、(2)認知運動機能障害の診断、(3)他の神経合併症の除外によってエイズ脳症と診断されます。
 血液検査ではCD4陽性リンパ球数が200個μl未満で、髄液(ずいえき)検査では軽度の単核細胞の増加、蛋白の上昇がみられます。髄液のHIV‐1 RNA、DNAは病期を問わず検出されるので、脳症診断に対して意義はありません。脳波検査では全般性に徐波(じょは)(周波数の遅い脳波)がみられ、徐波の増加と認知症との間に相関関係がみられます。脳CTやMRIでは、脳萎縮(いしゅく)、広範囲に大脳白質の病変が認められます。

治療の方法

 エイズの治療戦略としてHAART、すなわち逆転写酵素(ぎゃくてんしゃこうそ)阻害薬2剤とプロテアーゼ阻害薬1剤の併用療法をエイズ発症前から開始し、長期に継続するというものがあります。このHAARTは増え続けていたエイズによる死亡者数を減少させ、長期にわたってコントロールできる慢性疾患へと変化させました。そのためエイズ末期に発症するエイズ脳症の発症頻度は減少の傾向にあります。

エイズ(AIDS)脳症に気づいたらどうする

 物忘れ、集中力の低下、思考の緩慢化(かんまんか)などに気づいたら、すぐに主治医に相談してください。他の中枢神経系合併症の可能性について十分検討する必要があります。