アルツハイマー病<脳・神経・筋の病気>の症状の現れ方

 初めは、新しいことが覚えられないと訴える人がいちばん多いようです。そのため今までできていたことが困難になり、自信をなくし、やる気を失い、抑うつ状態に陥ることもあります。また、肩や腰の痛みを不治の病と思い込むような心気症(しんきしょう)や、理屈に合わない考えに凝り固まるパラノイアという妄想が出ることもあります。
 その後、「今日は何月何日か」がわからないなど、時間が認識できない見当識の障害が現れます。物の名前が出てこない、臭いや味がわからないとか、約束どおりに物事を実行できなくなるので、日常生活を送るうえで困ることが増えてきます。
 さらに進むと、新しいことだけではなく古いことも忘れます。言葉の理解ができず、道具がうまく使えないとか、着衣ができないこと(着衣失行)もあります。また、道順がわからなくなり、家に帰れなくなります(徘徊)。
 実は、介護をする人が困るのは先に述べた高次脳機能障害よりも、行動や心理的な異常なのです。暴力や暴言、あるいは大便を壁に塗る(弄便(ろうべん))などの異常な行動がみられるようにもなります。
 いちばん多いのは「物を盗られた」(物盗られ妄想)とか「夫が浮気をしている」(嫉妬妄想)など、ありもしない事柄を妄想する心理的な異常です。
 感情的にも不適切な反応があり、興奮する、不安になる、無関心で何もしない(無為)、また逆に楽しそうである(多幸)人もみられます。少しのことで動揺する(易(い)刺激性)、抑制が効かなくなる(脱抑制)こともあります。
 日常生活では電話に出ること、外出して買物の支払いができなくなってきます。薬の服用ができなくなり、入浴や食事、排泄も一人では難しく、介護を拒否することもあります。自動車運転が危険になりますので注意が必要です。
 夜間の睡眠が十分にとれず、夜中に泥棒が入ったなど、ありもしないことを信じて(妄想)、家族を起こしてまわることもあります(夜間せん妄)。誰も相手にしないと自分が見捨てられたと思います(見捨てられ妄想)。
 高度のアルツハイマー病では無為・無動が著しくなり、命令や刺激に対する反応性が悪くなります。寝たきりになることもあります。ただ、反応が少ない人でも、感情は豊かに保たれていて、見守る側が驚くこともあります。

アルツハイマー病<脳・神経・筋の病気>の診断と治療の方法

 アルツハイマー病の治療薬として認可され、現在市販されている薬は塩酸ドネペジル(アリセプト)のみです。アルツハイマー病の人の脳ではアセチルコリンを作る酵素のはたらきが弱く、アセチルコリンが減ってきます。塩酸ドネペジルはアセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼのはたらきを止めるように作用し、減ったアセチルコリンを増やします。
 塩酸ドネペジルは日本で開発された薬ですが、最初は米国でアルツハイマー病に対する効果が証明されました。3年後に日本でも認知機能、日常動作や生活の質が改善することが認められ、1999年に認可されました。
 最初に認められたのは、軽度〜中等度のアルツハイマー病の人への3mgと5mg錠でしたが、2007年には高度の人に10mg錠が認可されました。
 塩酸ドネペジルは認知障害のみならず、家族や介護者の印象評価の面や、一部の精神症状や行動障害にも効果がみられると報告されています。
 塩酸ドネペジルはすぐ脳に入りますが、時に消化器の副作用が現れます。吐き気がある、嘔吐する、唾液が出る、脈が遅くなる、汗が出るなどと訴える人もあります。消化器の副作用には胃薬を服用します。ただし、脈が遅くなりますから、長風呂は避けてください。
 投与にあたっては、まず塩酸ドネペジルを1日3mg、1〜2週後に5mgに増量します。高度のアルツハイマー病には10mgを投与することもあります。
 外国では塩酸ドネペジル以外のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬として、ガランタミンとリバスチグミンがアルツハイマー病に使われています。しかし、日本での試験は終わりましたが、認可には至っていません。
 さらに、アセチルコリンのはたらきを増し、グルタミン酸のはたらきを抑えるメマンチンという薬も外国で使われていますが、日本では試験が終わったばかりで、まだ許可されていません。このような違いは残念なことです。
 今、世界中でβ(ベータ)‐アミロイド蛋白の抗体によって、アルツハイマー病を根本的に治療しようという計画が始まっています。β‐アミロイド蛋白というのは神経細胞を破壊するはたらきがありますので、それを除去する計画です。成功すると、アルツハイマー病治療の未来が明るくなるでしょう。
 現在は、塩酸ドネペジル以外にアルツハイマー病の人に使用できる薬がないため、他の病気に使われている薬を使うこともあります。しかし、それらの薬には副作用が多いため、できるだけ短期間、少量を、慎重に投与すべきです。
 妄想や徘徊などの行動・心理症状がある場合、非定型抗精神病薬といわれるクエチアピン(セロクエル)や、漢方薬である抑肝散(よくかんさん)が投与されます。しばらくすると、異常な言動がみられなくなる例もあります。
 ただし、約3カ月をめどにして薬を中止するのが大切と思われます。長く薬を続けると高齢者では神経系や循環器系などに副作用が現れて、重篤な場合は死につながることもあるからです。
 抑うつや睡眠障害のあるアルツハイマー病の人には、塩酸トラゾドン(レスリン、デジレル)などのセロトニンの取り込みを抑える抗うつ薬がよいと思います。睡眠障害のある認知症の人には通常の睡眠薬はあまり効きません。