肝硬変<肝臓・胆嚢・膵臓の病気>の症状の現れ方

 肝硬変にみられる臨床症状と検査所見の由来を表5に示します。肝硬変の症状の主なものは、肝細胞の機能障害と門脈圧亢進により生じます。
 代償性(だいしょうせい)肝硬変(後述)では、自覚症状をほとんど訴えないことが多く、あっても軽微です。一部には、まったく自覚症状もなく、かつ通常の血液生化学検査でも異常を示さず、偶然の機会に発見される、いわゆる潜在性肝硬変と考えられる患者さんもいます。
 肝機能障害が進行するとともに、肝臓の予備能力が低下してくると非代償性(ひだいしょうせい)肝硬変(後述)になります。こうなると全身倦怠感(けんたいかん)、脱力感、易(い)疲労感、尿の色が濃く染まる、腹部膨満感(ぼうまんかん)、吐き気(悪心(おしん))、嘔吐、腹痛など、消化器症状を主とする全身症状を訴えることが多くなります。しかし、これらは必ずしも肝硬変に特徴的なものではありません。
 さらに重症になると、黄疸(おうだん)、腹水(ふくすい)、吐血(とけつ)、肝性昏睡(かんせいこんすい)など、続発症・合併症に伴う症状が現れるようになります。また、肝硬変の皮膚所見としては、黄疸のほかに、くも状血管腫(けっかんしゅ)、女性化乳房、手掌紅斑(しゅしょうこうはん)、皮膚の色素沈着、出血傾向、皮下出血、太鼓ばち状指、白色爪などが認められることが多く、診断上役に立ちます。

肝硬変<肝臓・胆嚢・膵臓の病気>の診断と治療の方法

 肝硬変の治療は、その病態が代償性か、非代償性かによって異なりますが、現在の病態をさらに悪化させることなく生活の質(QOL)と日常生活動作(ADL)を維持、改善させ、予測される合併症に早期に対応していくことが重要です(表7)。

生活指導
 過労を避け、禁酒し、バランスのよい食事をとり、規則正しい生活をするよう生活指導を受けます。しかし、病態が急性増悪して、自覚症状と肝機能障害が強くなったり、あるいは黄疸、浮腫・腹水、意識障害などが現れているような時期には入院管理が必要になります。

一般的な薬物療法
 肝硬変そのものに対する治療薬はありません。肝障害の重症度に応じて、肝臓加水分解物(プロヘパール)、肝臓抽出薬(アデラビン9号)、胆汁酸製剤(たんじゅうさんせいざい)(ウルソデオキシコール酸:ウルソ)、グリチルリチン製剤(内服薬がグリチロン、注射薬が強力ネオミノファーゲンC)、漢方薬、ビタミン剤などを単剤、またはいくつかの薬剤を組み合わせて多剤服用、もしくは静脈注射を併用します。
 これらの肝臓用薬(肝庇護薬(かんひごやく))の服用・静脈注射によって、肝細胞の壊死・炎症を鎮静化させてAST(GOT)、ALT(GPT)を基準値の2倍以内のできるだけ低い値に維持できると、肝がんの合併を抑制して、発がんの時期を遅らせることができます。
 非代償性の肝硬変では、黄疸、浮腫・腹水、肝性脳症などへの対症的な治療対策がそれぞれ必要になります。原則的には、安静臥床、食塩制限(1日3〜6g)、軽度の水分制限、蛋白質の摂取制限(1日40g程度)が行われます。そのうえで、浮腫・腹水には利尿薬を投与します。
 もしも低アルブミン血症が高度のために、利尿薬の投与にもかかわらず浮腫・腹水が改善しない場合には、アルブミン製剤を補給し、血清アルブミン濃度が3gdl以上になるようにします。
 なお、いろいろな内科的治療により軽減できない中等量以上の腹水(難治性腹水)に対しては、腹腔頸静脈シャント(LeVeenシャント等)術、腹水濾過(ろか)濃縮再静注法、経頸静脈肝内門脈大循環シャント術などが行われることもあります。

ウイルス性肝硬変での抗ウイルス療法
 C型肝硬変のうち、腹水、肝性脳症および門脈圧亢進などの既往がない代償性肝硬変では、インターフェロン(IFN‐α(アルファ)、IFN‐β(ベータ))が適応となります。また、代償性・非代償性B型肝硬変では、核酸アナログ製剤(エンテカビル、ラミブジン、アデホビル)が適応となります。
 平成20年度厚生労働科学研究で提言された「ウイルス性肝硬変に対する包括的治療のガイドライン」に示すように、ウイルスの駆除・減少によりAST(GOT)・ALT(GPT)値の正常化を目指し、肝組織学的な改善が認められることから、肝細胞がんの発生リスクを低くすることが期待できます(表8)。非代償性肝硬変では、代償性肝硬変への改善を目標とし、ひいては肝発がん予防を目指す治療となります。
 なお、C型肝硬変に対するインターフェロン治療は、慢性肝炎より著効率が低く、また副作用の発生率や治療脱落率などが高く、費用対効果が悪いという問題点があります。しかし著効が得られれば、予後は改善されます。

肝性脳症(かんせいのうしょう)の治療
 肝性脳症は肝疾患に伴う精神神経症状のことで、意識障害が昏睡に進行した場合を肝性昏睡(かんせいこんすい)といいます。そのほか、性格変化や知能低下などがみられます。
 肝性脳症の治療は、あらかじめ脳症の合併が予想される患者さんでは、予防的処置(高アンモニア血症の誘因の回避、特殊組成アミノ酸製剤の服用など)を普段から行っておくことが大切です。
 脳症が発症した時には、脳症から覚醒(かくせい)させるための積極的な治療が行われます。すなわち、高アンモニア血症対策が中心になりますが、誘因(高蛋白食、便秘、消化管出血、低カリウム血症に伴うアルカローシス、向精神薬など)を除去したうえで、便秘の回避(浣腸、下剤)、非吸収性の抗生剤(フラジオマイシン、ポリミキシンB、バンコマイシンなど)、合成二糖類(ラクツロース、ラクチトール)の経口投与もしくは浣腸、さらに分岐鎖アミノ酸(BCAA)を主体とした特殊組成アミノ酸製剤(輸液または内服)などで、総合的に治療します。

肝移植
 2004年に肝移植対象疾患の保険適応が拡大されたことにより、B型およびC型肝硬変や肝がんに対する肝移植が増加しています。日本での肝硬変における肝移植適応は、末期肝不全状態を示す例となっており、一般的にはMELDスコアによって判定されます(15以上)。
 その大部分は生体部分肝移植であり、脳死移植は極めて少ないのが実情です。肝移植による成績では、B型よりもC型肝硬変で予後が不良であり、移植後の抗ウイルス療法の確立が課題です。

合併症への対処
 肝硬変の合併症としては、食道静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)と肝がんが重要です。食道静脈瘤では、静脈瘤破裂を予防する処置として、一般的には内視鏡的硬化療法(EIS)や静脈瘤結紮術(けっさつじゅつ)(EVL)が行われます。外科的治療法としては、食道離断術とハッサブ手術があります。さらに最近は、頸静脈から経皮的にステントという器具を挿入し、門脈肝静脈短絡(もんみゃくかんじょうみゃくたんらく)を形成する手術が行われています。
 肝がんの合併に際しては、早期発見・早期治療が最も重要ですが、肝臓の予備能力の程度と肝内の腫瘍の占拠状況によって治療法の選択が異なってきます。
 現在、肝がんの治療法としては、外科的肝切除術、経肝動脈塞栓術(けいかんどうみゃくそくせんじゅつ)(TAE)、肝腫瘍内エタノール局注療法(PEIT)、ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法(RFA)、経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT)、リザーバー留置による抗がん薬動注化学療法、などが行われます。
 進行肝がんに対しては、フルオロウラシル(5‐FU)の肝動注療法とインターフェロンの全身投与を併用することで、良好な成績が得られています。
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 以上、肝硬変の診療では、原因の確定、病態の重症度の評価と予後の予測、栄養評価とその対策、肝がんをはじめとする種々の合併症を視野に入れた適正な診断と治療対策、そして患者さんのADLとQOLの改善と長期維持を考慮した生活指導などが大切になります。
 肝硬変については、診断技術の進歩や管理方法の向上ばかりでなく、合併症に対する治療についても著しく進歩してきました。したがって、肝硬変を慢性肝疾患の終末病態としてとらえるのは適切ではなくなってきています。